
地球表面のおよそ7割を占める海。私たちの日常生活に深く関わり、これまでに多くの恵みをもたらしてきたが、生物や資源などまだまだ多くの可能性を秘めた世界だ。四方を海で囲まれた日本の未来を支える最前線には、海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)の挑戦がある。深海という「人類最後のフロンティア」に挑むJAMSTECの調査・研究は、私たちにどのような意味をもたらすのか。まだ知らない「海」に、いまこそ触れてみてほしい。
海は、私たちの暮らしとつながっている

「海」と聞くと、夏のレジャーや豊かな魚介類などを思い浮かべるかもしれない。たとえば、ニュースとなったサケやサンマの記録的な不良に、北上したブリの豊漁。こういった多くの異変をもたらしたのが、例外的に長く続いた黒潮の大蛇行だ。海は大気とも接しており、活発な熱のやり取りをしている。流路の変動は海中だけでなく、陸上ともかかわりが強い。熱を多く蓄えて日本沿岸に戻ってきた海流が、ここ数年の豪雨や記録的な高温に大きく影響したことも明らかになってきた。
そして、近年注目が高まっているのが北極域だ。全球平均の3倍以上の速度で気温が上昇しており、その温暖化は海氷の減少とも密接に関係している。こういった環境変化や温暖化は北極だけの問題ではなく、いずれ世界中で起きる可能性がある。気候変動は「遠い未来の話」ではなく、私たちの暮らしを変える差し迫った問題だ。その状況をとらえる観測に、建造中の北極域研究船「みらいⅡ」も活躍が期待されている。
巨大地震も多様な生き物も。日本の未来を守る海洋研究の最前線

日本は、排他的経済水域(EEZ)が世界第6位の面積を持つ海洋大国だ。この広大な海には、多様な生物が暮らし、レアアースをはじめとする4つの海底資源も眠っている。生物たちの環境や資源の成り立ちを理解するのに活躍するのが、JAMSTECだ。有人潜水調査船「しんかい6500」や北極域研究船「みらいⅡ」、自律型無人探査機(AUV)である「うらしま8000」など、世界最先端の探査機を駆使しながら、日本周辺の海はもちろん、地球規模の海洋研究を展開している。海底で起こる地震の調査や、深海で噴き出す熱水やその周りで暮らす生物の調査、海洋観測データをもとにした気候予測モデルの開発といった多様な研究テーマは、私たちの暮らしにつながるテーマだ。
生命の起源に迫るサイエンス

深海は人類にとって「未知の世界」であると同時に、生命の起源に迫れる場所でもある。近年、地球最初の生命は、深海の熱水噴出孔で生まれたという説が有力だ。JAMSTECはその研究の最前線に立ち、極限環境での微生物の生態や進化の仕組みを解き明かそうとしている。
一方で、深海には生物多様性の宝庫としての価値もある。海底火山や熱水噴出孔など、特殊な環境に適応した生物群集は、私たちがまだ想像もつかない能力を秘めているかもしれない。深海生物から抗がん剤や抗菌剤に応用できる成分が検出されている。未来のイノベーションはここから生まれる可能性があるのだ。
いまこそ、まだ知らない海にふれる
私たちは海とともに生きている。しかし、そのほとんどはまだ解明されていない。だからこそ、地球のこれからを知るために改めて「海」に向き合う意義があるのではないか。海を知ることは、未来を選ぶこと。人類最後のフロンティアに挑むJAMSTECの活動を通して、海という無限のフィールドに潜む可能性を探りにいこう。
そんなJAMSTECの監修によるPen特別編集号『君はまだ、海を知らない』が2025年7月15日に発売される。このムックでは、JAMSTECの最先端の研究・調査や、研究者たちの声を徹底取材。また、注目の南海トラフ地震の調査や海洋プラスチック問題から、深海の神秘的な風景や生き物まで、JAMSTECの調査への情熱と探求心に迫れる特集をお届けする。深海が開く未来への扉を、ぜひあなたの目で確かめてほしい。
Pen特別編集号
『海洋研究の最高峰JAMSTECに潜入~君はまだ、海を知らない』
¥1,320
※オンラインでの購入はこちらから。
出版記念トークイベント 開催のおしらせ
登壇者は、JAMSTEC超先端研究開発部門長の高井研先生。我々の祖先は、海底から生まれたという「深海熱水説」が有力になっているという最新トピックをはじめ、「深海」という未知のフィールドに挑むJAMSTECの活動や海洋研究の魅力をお伝えします。開催日時:2025年7月31日(木) 19時~20時30分
開催場所:代官山T-SITE 代官山 蔦屋書店 3号館2F SHARE LOUNGE
東京都渋谷区猿楽町16-15 東急東横線「代官山駅」より徒歩5分
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※オンライン(ZOOM)でもご参加いただけます。