英のハイパースポーツカーメーカー、マクラーレンが、ユニークなプロダクトを発売する。2025年6月に発表された「プロジェクト:エンデュランス」だ。

いくら高性能のスポーツカーといっても、量産では飽き足らない。そう思っている富裕層は、世界中の市場にいる。スポーツカーメーカーは、当然そこに目をつけていて、たとえばフェラーリは2018年にごく少量生産の「Icona」シリーズを、ランボルギーニは21年に「Few Off」シリーズを発表……という具合。マクラーレンの「プロジェクト:エンデュランス」はさらに一歩進んだ感じだ。
車両は、世界耐久選手権参戦のマシンと近いスペックスと外観を持つ。生産台数は35台と、たとえば前記ランボルギーニの112台に対してだいぶ少ない。さらにオーナーは、テスト走行や開発作業を見ることもできるし、インストラクター付きでサーキット走行も楽しめる。

マクラーレンは、「マクラーレン・ユナイテッド・オートスポーツ」として、2027年にルマン24時間レースの最上位クラス、ハイパーカーに参戦することを発表している。レース用に設計されて組み上げられたV型6気筒エンジンをミドシップした後輪駆動で、製造はイタリアのダラーラで行われる。

このプロジェクトの行方を見守りたい背景はいくつかある。
まず、最近、量産車部門であるマクラーレン・オートモーティブのCEOが交代したことが挙げられる。新CEOはニック・コリンズ。これまで9年間、ジャガー・ランドローバーでエンジニアとして働いていたコリンズが、元フェラーリ(その前はポルシェ)のミシャエル・ライターズCEOの後を襲って、いまの地位についたのは、25年4月だった。既定路線だった「プロジェクト:エンデュランス」について、コリンズCEOがどういう方針で臨むか、関心を持ち続けたい。
もうひとつ、注目したい背景がある。25年9月から、ジェイムズ・バークレイが、マクラーレン・ユナイテッド・オートスポーツのチームプリンシパル(全体の責任者)として就任することだ。

バークレイは、これまで電気自動車のF1ともよばれるフォーミュラEにおけるジャガーのチームディレクターを務めてきた人だ。22−23年度は総合2位、続く23-24年度はチームを優勝に導いた実績を持っている。
7月11日にベルリンで行われたレースでは、ミッチ・エバンスが1位を獲得。続く13日のレースではチームメイトのニック・キャサディが1位。24ー25年度のジャガーチームの総合順位はあと2選を残して4位。
バークレイの奮闘を期待したいが、あとは7月末にロンドンで行われる2レースが残っているのみ。バークレイになんとか有終の美を飾ってほしいものだ。

マクラーレンの「プロジェクト:エンデュランス」に話を戻そう。「クルマを所有することを超えた体験を顧客のコミュニティに提供し、モータースポーツのトリプルクラウン(3冠)達成の体験を共有していただくため」と、広報担当者は背景を説明する。
3冠とは、F1(最初は74年)、インディ500(同74年)、ルマン24時間レース(95年)での優勝を意味している。モータースポーツ界でこれを達成したところはほかにないというのが、マクラーレンの自慢である。

プロジェクト:エンデュランスは、上記の3冠の栄光を1シーズンで達成しようというマクラーレンの目論見にタイミングを合わせている。27年のこの目標を前に、ハイパースポーツカーの開発現場に足を運べるとしたら、35名の顧客はかなりエキサイティングな経験ができるはず。
「2027年FIA世界耐久選手権でのマクラーレンの挑戦を支える開発・レースプログラムに、完全に没入できる特別な機会を得られるのです」は、マクラーレン・オートモーティブのニック・コリンズCEOの言。
企画としてもたいへんユニークだ。販売されるハイパースポーツカーは、たとえナンバープレートがついたとしても、レースカーに準じたディメンションだとしたら、公道で乗るのはかなり冒険になりそう。

マクラーレン・オートモーティブと、F1マシンを手掛けるマクラーレン・レーシングが共同で開発するというハイパースポーツカー。35台限定でつくられる車両のオーナーは、英グッドウッドでの「フェスティバル・オブ・スピード」のような、限定的なシチュエーションで仲間とともに走行を楽しむのだろう。
「この信じられないような機会によって、マクラーレンとお客様とのパートナーシップは新たな次元に進化します」と、コリンズCEOは述べている。