アジア初のパーク ハイアットとして1994年にオープンしたパーク ハイアット 東京。以来、国内外の数多くのセレブリティに愛され、なかでもソフィア・コッポラ監督の映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2004年日本公開)の舞台になったことはあまりに有名だ。
実は開業からおよそ30年を迎える2024年5月から大規模な改修工事を行い、1年半にわたり休業。2025年12月9日に待望のリニューアルオープンを果たした。
生まれ変わったばかりのパーク ハイアット 東京。その魅力を、実際に宿泊して館内の撮影も行った映画監督・写真家の奥山由之が解き明かす。
---fadeinPager---
アーティストたちの哲学とブランドの世界観を継承した空間で“暮らすように泊まる”
今回の改修工事はまさに異例の内容だった。インテリアデザイナーのジョン モーフォードが手掛けた開業当初の内装を一度解体し、新たな建材で忠実に再現。時間を巻き戻したかのように真新しいパーク ハイアット 東京が蘇ったのだ。
同時にピーク ラウンジ&バー、フレンチブラッセリーとして刷新されたジランドール by アラン デュカス、そして6室の客室は、パリを拠点とする建築デザイン事務所「ジュアン マンク」の監修によって、オリジナルデザインとの調和を保ちつつも、これまでとは異なる魅力を生み出している。
ジョン モーフォードの哲学とブランドの世界観を大切に継承しながら、リニューアルを遂げた新生パーク ハイアット 東京。奥山由之の目にはどう映り、どう感じたのだろうか?
---fadeinPager---
リニューアルを遂げたばかりのパーク ハイアット 東京。奥山はまずその館内をゆっくりと歩きながら、一つ一つの空間をはじめ、それをつなぐ動線、壁や床の素材、家具や装飾品などの細部に至るまで、そのすべてを五感で味わうかのように楽しんだ。
そこで奥山が感じたのは、30年前の開業当初から積み上げてきた意匠を守り、未来に継承するための改修工事に象徴されるように、このホテルにはほかにはない特有の文化があるということだ。
「館内は、茶室のような空間や障子を思わせる窓など、日本が古来から受け継いできた伝統を感じられるエッセンスが、これ見よがしではなく、自然に溶け込んでいるようなデザインで、おそらく『ロスト・イン・トランスレーション』を監督したソフィア・コッポラのような表現者には見えている、このホテルだけが持つ日本らしさ、東京らしさがあるような気がします」
インテリアにゴールドを使うような鉤括弧つきの贅沢とは違う贅沢がここにはあると奥山は話す。
「たとえば、色づかいひとつ取っても、記号的なラグジュアリーとは異なり、淡いピンクと淡いグリーンを組み合わせるような選び方をしています。このような研ぎ澄まされたセンスが館内の各所ににじみ出ていると感じました」
奥山は空間構成にも注目する。
「41階でエレベーターを降りると、目の前にはピーク ラウンジが現れます。そこに広がるのは天井が高くて開放的な空間です。逆にそこからレセプションへ向かう通路は、天井を意識するような高さになっていて、さらにその先のジランドール by アラン デュカスのあるエリアは、再び天井が高くなっています。こうした緩急のある構成に、空間としての豊かさを感じました」
奥山が宿泊した部屋は、「ジュアン マンク」監修の広さ100㎡のパーク プレミア スイートだ。
「インテリアは手馴染みがよく、やさしくてやわらかな時間を過ごせるような空間デザインになっていて、洗練された空間特有の適度な張りもあれば、自宅のような温もりも共存していて、とても素敵でした」
室内のどこに触れても、そこには心地のよい質感があったと奥山は話す。
「これは物理的なテクスチャーという意味だけでなく、たとえば、食器が収納されている棚の配置にしても、こちらの動きを先回りして用意してくれているかのような、適したところに適したものが置かれていて、すっと手に取ることができるんです」
キャスター付きの椅子でさえ、人の感性に寄り添うこだわりを感じたと話す奥山。
「椅子を絨毯の上で動かした時に、滑りすぎるわけでもなく止まりすぎるわけでもなく、自分の思うように動いて止まってくれる。その匙加減が絶妙でした。心地よさって人の感覚とどこまでフィットできるかが肝だと思いますが、それってすごく難しいこと。数値化できない感性に響く部分にまで気を遣っているところが素晴らしかったです」
---fadeinPager---
奥山由之のファインダーから見た、新生パーク ハイアット 東京の魅力
夜は「ニューヨーク グリル&バー」でディナーを楽しんだ奥山。ここでも感じたのは、居心地のよさだ。
「新宿方面の夜景を一望できる贅沢な眺望がまずあって。さらに天井の高い空間に響く生演奏の音が独特の回り方をしていて。薄暗い中でテーブルには実際の火のゆらめきがある。東京でもなかなか感じられないスペシャルな条件が揃っている場所ですよね。喧騒はあるけれど、それがうるさい感じではなくて。全体として調和のとれた居心地のよさがちゃんと設計されているなと感じました」
そして、翌朝は「ジランドール by アラン デュカス」で朝食を味わった。
「列車の座席のようなボックスシートが気になりました。装飾に遊び心や柔らかさがあるけれど、過度ではない絶妙なバランスでまとめられていて、ユーモアもあって。朝食はビュッフェ形式ですが、各自でオーダーするメニューもあり、オペレーションが複雑なはずなのにスタッフのみなさんはスムーズにこなされていて。そのプロフェッショナルな動きは、見ていて心地よかったです」
朝食後、奥山はクラブ オン ザ パークのスパとプールを満喫したが、ここでも豊かな体験が待っていた。
「プールは地上47階の開放感に満ちた場所にあり、どの方向からも光が降り注ぐ抜けのよい空間が本当に気持ちがよくて。それに対して、スパは洞窟のような空間で心が安らぐ感覚がありました。プールもスパも開放感のある空間だと落ち着かなさを感じる気がしますが、スパには窓がなく、プールとは真逆のパーソナルな空間だと感じました。軽やかで透明感のあるプールに対して、スパは黒や緑を基調とした引き締まった雰囲気。違うテイストの空間が連続する、よいリズムを感じる環境でしたね」
また、パーク ハイアット 東京といえば、本の並ぶ順番まで厳密に決められたライブラリーが有名だが、奥山もこのホテルは本とアートが肝になっていると話す。
「空間ごとに置かれている本や飾られているアートが違うので、それによってそれぞれ異なる世界であることを認識し、多種多様な感覚になれるんです。ライブラリーに並ぶ蔵書のラインアップはもちろん、中世ヨーロッパの貴族が使っていたエクスリブリスと呼ばれる蔵書票をモチーフにしたアートが飾られているところもいいですよね。こういう遊び心が前面に出るのではなく、奥のほうにやわらかく潜んでいるような、奥ゆかしさを感じられるところが、このホテルが醸す魅力だと思います」
では、奥山がお薦めするパーク ハイアット 東京での過ごし方とはどのようなものだろうか?
「チェックイン後はしばらく部屋の電気をつけずに、昼から夕方、そして、夜への合間の光のうつろいを楽しんでほしいですね。僕が宿泊した日は、部屋への夕日の差し込み方がすごくキレイだったんです。夕食の時間まで電気を消して窓際でゆっくりしていたら、どんどん光の様子が変わっていって。新宿の街に太陽が沈んでいく様子や、ゆるやかに流れていく雲、太陽と入れ替わるように存在感を増していく大きな満月、特にこの日は月の光で空がピンクと青のレイヤーになっていたこともあり、自分にとっては思い出にも残るとても贅沢な時間になりました」
今回、奥山は館内の風景を感じるままに写真に収めている。被写体としてのパーク ハイアット 東京は、奥山の目にどう映ったのだろうか?
「館内には鏡をはじめ、光を反射する物や素材が要所要所に混在していて、そのリフレクションを含めて撮影ができたので、とても楽しかったです。ホテルの館内という限られた空間でありながら、鏡があることで奥行きを感じましたし、単純に鏡をたくさん置いているだけではなくて、ガラスのテーブルがうねった水面みたいに見えるなど、いろいろな表情の反射物があることによって、ゆとりがある部分とタイトな部分の緩急が研ぎ澄まされていると感じました」
また、撮影をしたからこそ実感したのが、アートの数だ。
「どこにカメラを向けてもアートがその奥にあって。たとえば、ニューヨーク グリル&バーだけでもNYをテーマに描いたヴァレリオ アダミの大きな絵画作品や、野又穫がメトロポリスを表現した作品があるなど、美術館かと思うほどいたるところに作品が飾られていますし、さらに作家の選び方が一辺倒ではなくて、サイズ感も含めていろいろなタイプの作品を見られるから、楽しかったですね」
新しくなったパーク ハイアット 東京でゆったりとした時間を過ごした奥山。そこで実感したのは、さまざまな相反する要素が見事に調和した、このホテルならではの佇まいだった。
「上を見上げれば、鉄骨がしっかり組まれた構築的な要素が館内にある中で、石材にしても木材にしても角が取れていたり、部分的にインテリアが丸みを帯びていたりするのが印象的です。硬質さと温かさやアットホーム感のバランスが絶妙で、アンビバレントな世界観を感じます。さりげない遊び心やユーモア、かわいげもあって、ハイクラスのホテルでも無駄に緊張させることなく、自分の居場所として愛着を持てるような佇まいをしてくれているところが、とても気に入りました。次に訪れた時は、部屋にこもってなにか本を読むなど、また違った時間も過ごしてみたいですね」
