【瀬戸染付焼】風景と時間の延長にある焼き物【Craft x Tech Tokai Project Vol.4】

  • 写真:黒木紀寿 編集・文:井上倫子
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11_two-shot_Sometsuke Yaki x Eugene Kangawa, EUGENE STUDIO.jpg左:寒川裕人(Eugene Kangawa)●美術家。1989年米国生まれ。光や時間、歴史などの抽象的な概念を、絵画や大型インスタレーションを通じて物理的に定着させる作風で知られる。2021年に東京都現代美術館で同館史上最年少での個展「ユージーン・スタジオ 新しい海」を開催し、大きな反響を呼んだ。その評価は国際的に波及し、アジアのコレクターらによって同展が原型となる常設美術館(2026年一般公開予定)がバリにて建設が進んでいる。 右:加藤真雪●染付窯屋 眞窯 4代目。1981年 愛知県瀬戸市の窯元・眞窯の長女に生まれる。多治見市陶磁器意匠研究所で陶磁器デザインを学んだ後、眞窯にて家業に従事。2021年瀬戸染付焼・伝統工芸士認定。国内外で作品発表・ワークショップを行うなど活動中。瀬戸染付焼の伝統の技法を受け継ぎつつ、現代の暮らしに根ざしたデザインや新しい染付の表現方法を追求する。

全国各地の伝統工芸の産地と、世界で活躍するデザイナーやアーティストがタッグを組み、アート作品を発表するプロジェクト「クラフトテック(Craft x Tech)」。タンジェント(Tangent)の代表でデザイナーの吉本英樹がディレクションを手がけ、デザインキュレーターのマリア・クリスティーナ・ディデロがキュレーションを行い、2024年5月に東京・九段ハウスで第1弾となる東北プロジェクトが発表された。そして26年5月には第2弾となる東海プロジェクトが発表される予定だ。その東海プロジェクトの6つの産地を訪れたクリエイターたちの様子を、連載形式で紹介する。

第4回目は、愛知県瀬戸市を中心に生産されている焼き物の瀬戸染付焼を手がける眞窯の加藤真雪の元に、美術家の寒川裕人(ユージーン・スタジオ)が訪れた様子をレポートする。

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歴史が積み重なった地層から生まれる

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『Light and shadow inside me』シリーズの作品。いずれも現像感光材料(ハロゲン化銀を含む乳剤)が塗布された銀塩印画紙からつくられており、光が多く当たると黒くなる現象を利用している。寒川裕人/ユージーン・スタジオのアトリエ「Eugene Atelier iii」 にて。©2026 Eugene Kangawa / Eugene Studio
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©2026 Eugene Kangawa / Eugene Studio
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A-POC ABLE ISSEY MIYAKE との協業「TYPE-XIV Eugene Studio project」のパリでの特別展示。(主催:イッセイ ミヤケ、インスタレーショ ンデザイン 田根剛氏 / ATTA - Atelier Tsuyoshi Tane Architects) © ISSEY MIYAKE INC.

瀬戸染付焼の工房、眞窯とコラボレーションする寒川裕人は、6組のクリエイターが集まるCraft x Tech Tokaiのプロジェクトで唯一の日本人であり、アーティストだ(他のコラボレーションの参加クリエイターはデザイナー)。2021年には東京都現代美術館で同館史上最年少での個展を開催し、大きな反響を呼んだ。

彼の代表作である『Light and shadow inside me』シリーズは、一枚の銀塩印画紙を暗室で多角柱になるように折り、ひとつの光源から感光することで白黒の美しいグラデーションを生み出す。他にも、同じシリーズの作品で、筆でインクを塗った水彩紙に太陽光を当て、退色によって碧緑色のグラデーションを生み出すものもある。 

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こちらも『Light and shadow inside me』シリーズのひとつ。紙に太陽光に反応する水性インクを塗り、太陽光にさらしてから広げた。東京都現代美術館で開催された個展『ユージーン・スタジオ 新しい海』より。photo: Keizo Kioku ©2026 Eugene Kangawa / Eugene Studio

 『Light and shadow inside me』では、太古からある、光や退色という自然現象に着目した。彼は制作で一貫して物事の本質に迫ろうとするという。今回のコラボレーションでは、どんなところに着目したのだろうか? 工房だけでなく、瀬戸焼の博物館や、原料となる陶器の土の採掘場も見学した寒川は、見学を終えてこうコメントした。

「瀬戸染付焼の素地は、何百年前の地層から掘り出された土からつくられ、そして、非常に高温の熱で時間をかけて焼いていきます。その工程は、まさに自然の力を借りて作っているのだと、そのようなことをあらためて教えていただきました。同時に、この土が持つしなやかさをどのような発見と結びつけられるか、ということを考えました」

 

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陶土の採掘場を訪れた。ここで見た景色は、寒川にインスピレーションを与えたようだ。

瀬戸染付焼は、セトモノで知られる瀬戸焼の一種。白い素地に「呉須」と呼ばれる藍色の顔料を使い、職人の手によって絵付けが施される。最大の特徴は、写実的で繊細な筆致による絵画的な表現だ。瀬戸の良質な陶土が生み出す真っ白な素地は、呉須の青を鮮やかに引き立て潤いのある質感を生む。

「瀬戸焼は、江戸時代後期に発達し、明治時代には海外へ輸出されるほどの工芸品になり日本を支える産業へと成長したと伺いました。地層のように重なった時間の上に、いまの眞窯さんがある。この繊細な技術は、この土地にその素養があって長い時間をかけて生み出されたのだと思います。いま見ているこの場所の風景や空気感は、確実にこのもの自体に集積し、つながっているんです」

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人との出会いから、新たな発想が生まれる

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瀬戸染付焼では、ダミ筆という太い筆を使い絵付けをしていく。

瀬戸染付焼は、白磁の素地に呉須で絵付けを施す、瀬戸という窯業産地の中でも独自の系譜をもつ焼き物だ。一方で、瀬戸は食器の生産地として広く知られるが、近代化が進むとタイルやトイレなどの衛生陶器の生産へと拡大していった。工芸品というと古くから変わらないもののように思えるが、歴史を振り返れば、社会の変化とともに姿を変え続けていることがわかる。

瀬戸物自体の業界は縮小し、瀬戸染付焼は伝統工芸品に指定された。眞窯の加藤は、今回のプロジェクトに参加しようと思った理由をこう語る。

「素材と対話しながら、実験を繰り返し新しいものをつくろうと試みることがあります。けれど誰かと出会って、会話をきっかけに新しいことに挑戦する方が、いちばんの分岐点になる。だから今回の取り組みは、本当に楽しみなんです」

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眞窯で制作したグラス。マットな質感と、飲み心地を邪魔しない薄い生地が特徴。

さらに加藤は、既成概念を打ち破るのはいつも外からの声だと語る。

「最初は花瓶のつもりで作ったんですが、グラスとして売り出したら意外にも売れたんです。しかも釉薬がかかっていないマットな質感です。焼き物のセオリーとしては、釉薬をかけて完成する。そのほうが汚れもつきにくいし、そういうものだと思いこんでいました。私たち自身も長年使っていますが汚れもつきにくいですし、お客さまからも好評をいただいて、長く販売している商品となりました」  

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眞窯では成形から素焼き、絵付けとすべての工程をこの工房で行っている。

焼き物の業界では歪みや傷でB品となるものも、違う視点から見れば魅力になる。当たり前だと思っていたことの視点を外すこと、それは日々繰り返す制作のなかでは難しいだろう。ディレクターの吉本は、このふたりのコラボレーションにこう期待する。

「個人的にも大好きな寒川さんの作品は、現象や時間をとても斬新な切り口で感じさせてくれて、まさに身体で感じる作品が多いと思っていました。瀬戸染付焼は、白磁の素地に呉須で絵付けを施す焼き物で、「濃み(ダミ)」と呼ばれる太い筆を用いた表現が、まるで墨絵のような奥行きを生み出す。眞窯さんの小さな工房で、非常に繊細な筆遣いで焼き物に少しずつ物語を吹き込んでいくかのような絵付け作業を拝見しました。寒川さんとのコラボレーションであれば、これまで焼き物の絵柄に封じられていた物語を、さらに違う方法で体感させてくれるだろうと思います」

クラフトテック(Craft x Tech)

https://craft-x-tech.com

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