右上:「ブルガリ ブロンゾ GMT」独自の素材使いで人気を博した代表作にブロンズを採用した。サンドブラスト加工による質感も魅力だ。右下:「ブルガリ・ブルガリ」ブランドのアイコンモデルに38㎜径が新たに加わった。気品とともに、タイムレスな魅力が凝縮する。左下:「オクト フィニッシモ リー・ウファン 限定モデル」人気のコラボモデルにリー・ウファンが参画。ケースやブレスレットを手作業で削るユニークピースだ。
連載「腕時計のDNA」Vol.24
各ブランドから日々発表される新作腕時計。この連載では、時計ジャーナリストの柴田充が注目の新作に加え、その系譜に連なる定番モデルや、一見無関係な通好みのモデルを3本紹介する。その3本を並べて見ることで、新作時計や時計ブランドのDNAが見えてくるはずだ。
世界的なローマのハイジュエラーとして名高いブルガリにおいて、ウォッチメイキングの歴史は古く、1918年に始まった。そして本格参入の端緒となったのが、75年に顧客向けの非売品としてつくられた「ブルガリ・ローマ」だ。ゴールドケースに液晶文字盤を備え、ベゼルには"BVLGARI ROMA"と刻まれたレアな時計は瞬く間に評判となり、翌年アナログ仕様になり、市販されたのである。
80年には時計製造の中枢としてブルガリ・タイム社を設立し、長年ジュエラーとして磨かれた美学と感性による繊細な技術と独創的なデザインは多くの名作を生み出す。大きな転機となったのが、2000年から始まったウォッチメイキングの垂直統合化だ。ジェラルド・ジェンタとダニエル・ロートというふたつの名門ブランドを傘下に収め、文字盤やブレスレット、ケースの専業メーカーを獲得し、マニュファクチュール体制を構築する。こうして培ってきた実力を遺憾なく発揮したのが「オクト フィニッシモ」であり、これまで薄型時計で10回の世界記録を樹立したのだ。いまや超薄型時計のパイオニアであり、挑戦を続ける開発と技術力はスイス時計を牽引する存在になっている。
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新作「ブルガリ ブロンゾ GMT」
世界に1本の風格漂うブロンズ×ラバーGMT
「ブルガリアルミニウム」は1998年に誕生した。アルミニウムとラバーを組み合わせた斬新なスタイルは、ハイジュエラーであるブルガリのイメージを覆した。だがこれまで使われることのなかったような軽やかな素材は新世代のラグジュアリーを表現し、当時のジェットセッターやユニセックスの用途に応えたのだった。
2020年にクオーツから自動巻きになってリバイバルし、新作ではケース素材にコレクション初のブロンズを採用した。ブルガリの文字を刻んだベゼルやラバーのリンクからなるストラップのデザインは、初代から変わることなく受け継がれている。ブロンズになったことでアルミニウムの軽快感は省かれたが、それでもラバーストラップのフィット感は心地良い。文字盤の中央には時分秒針に加え、三角の先端のGMT針を備え、外周に記された24時間スケールで第2時間帯を表示する。ブロンズをアクセントにしたモノトーンのフェイスも機能をひけらかすことなく、旅の躍動感と気品が息づく。
近年ブロンズは時計素材としても認知されるようになった。魅力は、渋味のある色と経年によって変化していく緑青(パティナ)の風合いだろう。まるでデニムのように持ち主それぞれの個性を増していく。そこに風格が漂い、世界に1本の自分だけの味わいにさらに愛着が湧くのである。
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定番「ブルガリ・ブルガリ」
ブルガリ・ブルガリ/初代のスタイルを継承しつつ、デザインの細部は現代的にリファインし、ケースバックもシースルー仕様を採用。自動巻き、18KYGケース、ケース径38㎜、パワーリザーブ約42時間、シースルーバック、アリゲーターストラップ、5気圧防水。¥2,178,000
小振りサイズでアイコンの存在感をさらに増す
ブルガリの時計への本格参入の嚆矢となった「ブルガリ・ローマ」を前身に、1976年に登場したのが「ブルガリ・ブルガリ」だ。機械式のアナログ文字盤に、ベゼルにはROMAに変わり、上下にダブルロゴが刻まれた。歴代皇帝の名を周縁に刻んだ古代ローマの硬貨を思わせるデザインは、ウォッチデザインの巨匠ジェラルド・ジェンタのスケッチを元にして生まれた。大胆なベゼルとミニマルな文字盤のデザインは、艶やかなイエローゴールドと漆黒のコントラストによってさらに引き立つ。半世紀に渡って親しまれているブランドのアイコンである。
新作では、ジェンダーレスやヴィンテージテイストの人気を背景に38㎜径のケースサイズが登場した。搭載するムーブメントの「BVL191」は、2010年に発表した初の自社開発製造の自動巻きムーブメント「BVL168」をベースに2013年に生まれた。呼称のソロテンポはJust Timeを意味し、3針カレンダーのシンプルな機能に絞り、スタンダードムーブメントとして実用機能と高い信頼性を備える。デザインではダブルロゴの印象を抑え、ベゼル自体もスリムにする一方、ストレートラグは面構成を強調するとともに太く、マッシブになった。小振りであっても存在感は強く、タイムレスなスタイルは時代を超越したエレガントなドレスウォッチとして愛用できるだろう。
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通好み「オクト フィニッシモ リー・ウファン」

オクト フィニッシモ リー・ウファン/5.5㎜の極薄ケースの装着感に、一本ずつ手作業でつくり上げる、唯一無二のアートの存在感を両立する。150本限定。自動巻き、チタンケース&ブレスレット、ケース径40㎜、パワーリザーブ約60時間、シースルーバック、3気圧防水。完売済み。
現代アートと結びつき、時計は新たな芸術へ
メンズウォッチのアイコンである「オクト フィニッシモ」は、超薄型というマニュファクチュールの技術力を誇示する一方、アートや建築と世界観や価値を共有するコラボレーションモデルを発表してきた。新作では現代アーティストのリー・ウファンと協業した。画家、彫刻家、詩人、そして哲学者であるウファンは、人間の意識、自然、そして宇宙の繋がりを探求する。とくに時間は作品の大きなテーマであり、流れる絵具や自然石が蓄積する時など、制作過程や完成後の経過、鑑賞者が向き合う時間も重要なファクターになっている。
チタンのケースとブレスレットには手作業で粗削りされ、文字盤はグレーからブラックへのグラデーションのミラーエフェクトが施されている。そのコントラストは、岩の荒々しい質感と鏡の静謐さを表現する。すべて1点モノのユニークピースだ。
こうしたコラボレーションの相手は、クリエイティブを統括するファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニが直接対面し、感情的共鳴とともに制作が進められる。そこには互いの理解と尊崇があり、まさに時計をキャンバスにして協業するのだ。それは極めてブルガリらしいアプローチであり、時をテーマにコンセプチュアルな現代アートと結びついた「オクト フィニッシモ」は美術工芸を越えた新たなアートの領域を拓くのである。
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ローマの美学が刻むラグジュアリーの新境地
昨年秋、ブルガリの日本における過去最大の展覧会「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」が開催された。カレイドスは「美しい(カロス)」と「形態(エイドス)」のギリシャ語に由来し、ギリシャ発祥のローマのハイジュエラーであるブルガリの芸術の深遠を探る。圧巻の展示には、60〜70年代に高級時計の名門と協業した作品も並べられ、ジュエリーばかりでなく、装身具としての時計との深い関わりを感じさせたのだった。
そうした系譜に加え、GPGH(ジュネーブ ウォッチ グランプリ)ではこれまで2つの金賞と11の賞を獲得。伝統あるスイス時計において確固たる地位を築いている。その牽引役となり、10年以上CEOを務めてきたジャン-クリストフ・ババンが2026年夏に会長となり、新たに副CEOのローラ・ブルデーゼがCEOに就任する。さらなる進化を遂げ、ウォッチメイキングも次なるステージへと向かう。美と芸術を追求する創造性に満ちたタイムピースがますます楽しみになるのだ。

柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどのジャンルを中心に、現在は広告制作や編集ほか、時計専門誌やメンズライフスタイル誌、デジタルマガジンなどで執筆中。