市川染五郎「歌舞伎俳優、そして、 芯ある表現者として 絶えず探究し続けていく」【創造の挑戦者たち#110】

  • 文:瀧 晴巳
  • ヘア&メイク:桂川あずさ
  • 写真:野村佐紀子
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Somegoro Ichikawa●2005年、東京都生まれ。歌舞伎俳優。祖父は二代目松本白鸚、父は十代目松本幸四郎。09年『門出祝寿連獅子』で初舞台を踏む。18年『勧進帳』の源義経ほかで、八代目市川染五郎を襲名。22年にはNHK大河ドラマ「鎌倉殿の十三人」で注目を集める。歌舞伎俳優としてだけでなく、表現者として活躍の幅を広げている。

「いやさ、お富、久しぶりだなあ」

手拭いをとれば、頬の刀傷さえどこか退廃的な美しさを引き立てているようで、すかさず「高麗屋!」と大向うが飛ぶ。2025年12月の歌舞伎座、『与話情浮名横櫛』で市川染五郎が初役で勤めた与三郎は、お富(坂東玉三郎)に恋をしたばかりに全身をめった切りにされ、身を持ち崩した男だ。

「好きなんです、こういう影のある役が。『東海道四谷怪談』の伊右衛門とか『女殺油地獄』の与兵衛みたいな影がある役が昔からいちばん好きで、そういう役が似合う役者になりたいですね」

映画『国宝』を観て、歌舞伎に興味を持った読者もいるだろう。「歌舞伎界のプリンス」の異名を取る、この人の〝いま〟を観ておくことをお薦めしたい。

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大役に初めて挑む機会も増えた25年、特筆すべきは歌舞伎の三大名作のひとつ、『菅原伝授手習鑑』で武部源蔵と梅王丸を演じたことだろう。弱冠二十歳でこれほどの大役を、いずれも初役でひと月のうちに演じた役者はいない。しかもWキャストで父の幸四郎も源蔵を演じたのだから、どれほどのプレッシャーだっただろう。

「父に教わり、祖父(二代目松本白鸚)も稽古を見に来てくれたりはしましたけれども、教わったことを体現するのは大前提にしつつ、親子とはいえ違う役者ですし、同じ役を同じやりかたでやっても違うところは違うと思うので、自分のやるべき源蔵をひと月模索していました」

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主君の子どもを救うため、身代わりに他人の子を手にかける。

「現代の価値観では理解しづらい役ですよね。解釈は無限にあると思うのですが、大叔父の二代目吉右衛門が演じた源蔵が僕はすごく好きで。とても人間的と言いますか、そうしないと自分の守るべき者が守れないというところが伝わってくる。父が演じるのを観て吸収して、父とは異なるところは大叔父の映像から学び、結果を残せたかどうかはともかく、スタートラインを切れたということがとても大きいと思っています」

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人の芝居を受けられるだけの、風格や芯を身につけていきたい

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『与話情浮名横櫛』で市川染五郎が初役で勤めた与三郎

「高麗屋の役者は真ん中にいる役が似合わなきゃいけない。真ん中にいるのだけれど、自分から発散するというより、ほかの役の芝居を受けて、それをどんと返す役が多いのかなと。それこそ『勧進帳』の弁慶がそうですよね。主役なのに弁慶が自分から発する台詞は数えるほどしかない。真ん中でそういう役を演じるには、人の芝居を受けられるだけの風格や芯がないと勤まらないのかなと」

道はまだ遠い。いまはひたすらに進むよりほかはない。劇団☆新感線と組んだ歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』では、電光石火の殺陣を披露。三谷幸喜作・演出の新作歌舞伎『歌舞伎絶対続魂 幕を閉めるな』では、意外なコメディセンスで客席を沸かせた。

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「三枚目の番吉という役を演じるのは楽しかった。歌舞伎は役者を観る演劇と言われることもありますから、役になりきることが必ずしも正解とは言えないのかもしれません。でも、やはり市川染五郎のイメージと全然違う役で出てきた時の、『あれ、染五郎?ホントに?』ってお客様がびっくりしてるのを感じるのが好きなんですよ。与三郎は逆に自分をいい男だと思っていないと演じられない役。お客様が芝居の世界に入れるように、所作ひとつでもスキを見せないようにしたい。いかに市川染五郎を消すかというのは、自分の中で毎回考えていることです」

一作ごとに新しい挑戦を続けながら全身全霊で駆け抜けた一年。

「よくこんがらがらないなと、自分でもびっくりします。ホッとできる時間はないです、正直言うと」

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5月には、シェイクスピア戯曲『ハムレット』でストレートプレイ初主演を務める。現代的な解釈で斬新な舞台を手掛けてきた鬼才デヴィッド・ルヴォーの演出。

「やるからには正統派でありながら誰も観たことのないハムレットを目指したいと思っています」

次々と待ち受ける挑戦の日々。彼にとって眠れない夜が、今年もまだまだ続きそうだ。

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WORKS
舞台『ハムレット』

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シェイクスピアの四大悲劇のひとつ、祖父の白鸚、父の幸四郎も演じたハムレット役でストレートプレイ初主演。鬼才デヴィッド・ルヴォーの斬新な演出にも期待が高まる。東京・日生劇場にて、5月9日より上演。

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歌舞伎「三月大歌舞伎」

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昼の部は、通し狂言『加賀見山再岩藤』、夜の部は『壽春鳳凰祭』、通し狂言『三人吉三巴白浪』の3演目を上演。染五郎は、『三人吉三巴白浪』に手代十三郎役で出演する。3月5日より、歌舞伎座にて開幕が決定。

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Prime Video『人間標本』

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湊かなえが、デビュー15周年を記念して書き下ろした同名小説を原作とする、禁断のミステリーサスペンス。主演の西島秀俊の息子役で、自身初となる現代劇ドラマに出演を果たした。Prime Videoで独占配信中。