ハイスペック男性との結婚を望む鮎美と、無自覚に「料理は女がつくるもの」という価値観を持つ勝男の社会人カップルが、別れと料理をきっかけに変化する姿を描いたドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。初の連続ドラマ脚本を務めたのは、劇作家の安藤奎。本作が多くの共感を呼んだ背景には、谷口菜津子の原作漫画に通底する思想を丹念に汲み取り、日常のリアリティとして立ち上げた安藤のさりげないまなざしがある。
「原作は新恋人・ミナトとの関係について、鮎美視点から描かれていましたが、結婚したくないという彼の価値観に共感する人もいまは多いと感じ、ミナト側の視点も入れたいと考えました」と語る。
大分で生まれ、ままごとや絵を描くのが好きな幼少期を過ごした彼女は、当時から「マンガ家になる」と公言。けれどその読み方は独特だった。「正しい読み方をわかっていなくて、ひたすら縦に読んでました。横に読むものと知ってから、こんなにストーリーがあるのか! とびっくりして。いまでも調べようともせず、思い込んでしまうことは多いです」と笑う。
演劇との出合いは意外にも、母の推していたSOPHIAの松岡充が入り口。小学5年生で、松岡主演、鴻上尚史演出の舞台『リンダ リンダ』を鑑賞。その後、娘が演劇に興味があると感じていた母の薦めで、石川県の演劇科のある高校の存在を知る。
「その高校の校長先生が家まで説明に来てくれたんですけど、学費と寮費を聞いて、母がゾッとした顔をしていて。これはやめておこうと。でも、それをきっかけに演劇をやりたいと気づきました」
高校時代は「東京でしか演劇はできない」という思い込みから、3年間アルバイトをして130万円を貯金。休日は東京に出向き、ランダムに小劇場へ通った。
「偶然上演しているものを観ていたので、あまり面白くなくて。初めて面白いと感じたのが俳優座の『かもめ』。そこからチェーホフがやりたいと思い始めたんです」
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"面白いと思っていない劇団のオーディションを受けて、落とされることが続いて…"
俳優座系統の劇団のオーディションを受けるも、演劇経験がなかったため書類審査に通らず、円・演劇研究所に入所。晴れて古典演劇を学ぶが、1年後の入団テストは不合格に。転機となったのは、異なるジャンルの小劇団や若い劇作家たちとの出会いだった。
「脚本はシェイクスピアのような人がやる仕事だと思っていたのですが、五反田団のワークショップに参加してから、自分にもできるかも、と書くことに可能性を見出せました。同じ頃、面白いと思っていない劇団のオーディションを受けて落とされることが続いて、自分でも謎の動きをしているなと感じて。じゃあ、自分でやろうと」
16年に立ち上げた劇団アンパサンドは徐々に評判になり、昨年『歩かなくても棒に当たる』で演劇界の芥川賞ともいわれる第69回岸田國士戯曲賞を受賞。ゴミ捨て場のルールが暴走するというシチュエーション・コメディは、「ゴミ捨て場」という設定と「出演者になにをやらせたら面白くなるか?」という想像から生まれた。
「まず、この小道具を使ったら面白そうだなとか、やりたいシーンの発想があって、書き始めることが多いです。自分でつくったルールで遊んでいるという感覚です」
日常のささやかな出来事、行動、関係の〝ズレ〟を、演劇として立ち上げてきた彼女は、「書いているときにはわからなかった、無意識に考えていることが、書き終えたあとや稽古をしながら見えてくることがある。そこが演劇の面白さです」と語る。
好きな作品のタイプについて聞くと、「遠慮のないもの、忖度のないものが好きですね」と答えた。
「多くの人が関わらないもののほうが忖度せずにつくれるんじゃないかという気もしていて。 誰のせいにもできない場がひとつほしいなと思うので、マンガを描いてみたいです」と、新たな意欲を見せる。さらなる忖度のない表現を求めて安藤の挑戦は続く。
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PICK UP
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PERSONAL QUESTIONS
毎日欠かさず行っていることは?
花がなくなった枝だけの胡蝶蘭を日に当てて、日が暮れたら中に入れること。1回切ってみたら、結構ぐぬーと伸びてきているので、これからどうなるのかな?と思ってます。
落ち込んだ時にやることは?
自分の心を想像して、かたちや、どのぐらいの傷が入ってるかを具体的にイメージしてみるんです。そうすると「これなら何日くらいで治りそう」と思えるので、すごく気が楽になります。
いま行きたい場所は?
ハワイです。まだ行ったことがなくて、海が好きなので、行って海で泳ぎたいなと思って。グアムとかでもいいんですけど、ハワイのほうがちょっとかっこいいので。
いま会いたい人は?
レオナルド・ディカプリオ。3、4年前に初めて『タイタニック』を観て、そこからすごくハマりました。どの時代、どの年齢のディカプリオも、すべてかっこいいですね。
いま注⽬したい各界のクリエイターたちを紹介。新たな時代を切り拓くクリエイションと、その背景を紐解く。