【モダンデザインの思想はどこから来たか】マックス・ビルの思考をたどる論考集

  • 文:土田貴宏
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『マックス・ビル論考集 芸術・フォルム・プロダクトフォルム・グラフィック・教育・建築』マックス・ビル 著 向井周太郎/向井知子 訳 みすず書房 ¥5,280

いまからほぼ100年前、ドイツの伝説的なデザイン学校であるバウハウスでマックス・ビルは学んだ。現代に続くモダンデザインの礎をつくったことで知られるバウハウス。そのコースには家具、金工、グラフィックなどがあり、当時を代表する建築家や芸術家たちが指導に当たった。そんな学校のあり方は、ビルの活動に如実に反映されていく。彼が携わった領域もまた幅広く、すべてがモダニズムの真髄を体現するものだった。

マックス・ビルの思想を、本人の言葉でたどる

『マックス・ビル論考集  芸術・フォルム・プロダクトフォルム・グラフィック・教育・建築』は、こうしたビルの活動を包括的に知るための重要な資料だ。この書籍がひと際貴重なのは、ビル自身が記した、または語ったテキストのみで本編を構成していること。同様の論考集は彼が活動したドイツ語圏にも存在しないといい、それが日本で実現したのは快挙だろう。ビルが校舎を設計し、初代校長を務めたドイツのウルム造形大学で1950年代に学んだ向井周太郎と、その娘であり父とともにビルや彼の家族と交流を持った向井知子、編訳者のふたりの思いがこの本を完成させた。

ビルの代表作に、論考集の表紙を飾っているウルマー・ホッカー(ウルムスツール)がある。ウルム造形大学の学生たちのために彼がデザインしたものだ。座っても、ものを置いてもよく、逆さにすると本を立てたり運んだりできる。その純粋さ、合理性、無駄のなさにビルの姿勢がよく表れている。ただしシンプルな形の奥底には、きわめて豊かでしばしば難解な思想が横たわっていた。『マックス・ビル論考集』を読むことは、目に見える姿からは及びもつかないデザインの深淵を思い知る体験をもたらす。

たとえば第1章「芸術」で示される、ビルが長らく取り組んだ具体芸術についてのテキスト。その数学的思考方法から導かれる造形の意義を、彼はさまざまな方向から明らかにしていく。バウハウス時代に師事したクレーやカンディンスキーに言及し、バッハの音楽やアフリカの彫刻に触れ、非ユークリッド幾何学と自らの芸術を関連づける。「フォルム」と「ゲシュタルト(形態)」という言葉を使い分ける点をはじめ、たやすく理解できる内容ではないが、新しい時代にふさわしい芸術観を打ち立てようという思念がはっきりと伝わってくる。

折しも東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催中の企画展『デザインの先生』(2026年3/8まで)では、ビルを「先生」のひとりとしていくつもの作品を取り上げている。家具、ポスター、時計などいずれも毅然として迷いがなく、また機能するものへの敬愛を感じさせる。こうして時代を越えた学びを与え続けるデザインが、常に独創的な思想から生まれることを『マックス・ビル論考集』は改めて確信させる。