日本で初めて本格的にスウェーデン絵画を紹介する『スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき』が、東京・上野公園の東京都美術館で開催されている。その世界に呼応するように、デザイナーの皆川 明(ミナ ペルホネン)が、スウェーデンの伝統工芸・ダーラナホースに絵付けを施した。北欧と深いつながりを持つ皆川に、スウェーデンの美意識、そして心に残った作品などについて聞いた。
国立美術館での展覧会も。スウェーデンとゆかり深い皆川
19歳のとき、初めてスウェーデンを旅した皆川は、アンティークショップや古本屋を巡りながら美術館へ足を運ぶ。現地でアートに触れ、「一過性のデザインではなく、長く記憶に残るものをつくりたい」という思いを抱いたことが、創作理念の原点になったという。その縁はいまも続き、2024年にはスウェーデン国立美術館で展覧会『DESIGN = MEMORY:Akira Minagawa & minä perhonen』が開催されるなど、同国との関係を深めている。
「初めて訪れたストックホルムではユースホステルに泊まりましたが、すぐそばのスウェーデン国立美術館には毎日のように通っていました。だから長い年月を経て、深い思い出のある美術館で展覧会を開けたことは、人生の中でもかけがえのない出来事でした」
「ミナ ペルホネンのようなファッションブランドが、北欧のスウェーデン国立美術館で展覧会を行うのは珍しいことだと伺いました。ヨーロッパから遠い東アジアの私たちの表現を迎え入れてくれたのは、スウェーデンの人々が持つ、価値に対するニュートラルなまなざしがあったからだと感じています」
人々が新しい時代へと進んでいく、希望のような光
1995年に「ミナ ペルホネン(minä perhonen)」 の前身である「minä」を設立した皆川は、「デザインがいかに日常生活の幸福度を高めるか」をテーマに、日常に寄り添うデザイン活動を行っている。本展で紹介されるスウェーデンの画家たちもまた、北欧の厳しい自然や身近な暮らしの中に「日常のかがやき」を見いだし、その喜びを描き出した。皆川は、この展覧会を通してどのような感情を受け取ったのだろうか。
「今回の展示に並ぶ絵画の舞台は、19世紀から20世紀初めのスウェーデンです。当時の生活は、現代の私たちが抱く北欧のイメージとは違い、農業を中心とした社会がゆるやかに近代化へ向かう時代でした。だからいわゆる『福祉国家スウェーデン』の原型が生まれる前の、人々の素朴な暮らしが描かれています」
「そうした中、小さな家族の時間からにじみ出る幸福感を感じさせる作品が多いですね。ありふれた風景の中に描かれる光も、単なる自然の光というよりは、人々が新しい時代へと進んでいく希望のような光として受け止めることができます」---fadeinPager---
ダーラナホースの絵付けで目指した表現とは?
スウェーデンで「幸せを運ぶ馬」として親しまれてきた伝統工芸品、ダーラナホース。今回、皆川が絵付けを手掛けた作品は、スウェーデン語で「平和」を意味する「fred(フレッド)」と名付けられ、東京都美術館の会場出口で見ることができる。
「一般的なダーラナホースは鮮やかな色使いを特徴としますが、今回はその色彩を使わないことにしました。スウェーデンを訪れるたびに立ち寄るお気に入りのアンティークショップで、クリーム色の地を基調とした、とてもシンプルなダーラナホースと出会ったこともきっかけのひとつでした」
「スウェーデンでの記憶をもとに、日本の張り子のように和紙に墨で模様をつける感覚で制作しました。少し削り直したり、ヤスリをかけたりしながら、まるで昔からそこにあったかのような佇まいを目指しました。最終的に『時を経たような温もり』を表現できたと感じ嬉しかったです」
展覧会のハイライトを飾る、冬の陰影を表現した2枚
80点の絵画を通して、19世紀末のスウェーデン美術黄金期をたどる本展。スウェーデンの国民的画家カール・ラーションや、劇作家としても知られるアウグスト・ストリンドバリなど、世界的に知られる作家の名品が並んでいる。
「まず、ブリューノ・リリエフォッシュの『そり遊び』に目を奪われました。スウェーデンの冬は午後3時にはもう暗くなりますが、学校帰りの子どもたちが集まって雪遊びをしている情景が浮かびます。顔の表情を描かずとも、その楽しさが伝わってくるのが良いですね。まさに『日常のかがやき』というテーマを象徴する作品です」
「アウグスト・ストリンドバリの『ワンダーランド』も素晴らしいです。画家が実際の風景を前にして描いたというより、心の中に広がる幻想の世界のように思えます。北欧の森に入ると、木々の陰が丸くドームのように見える瞬間がありますが、その光景を夢のように描いているように感じました。光と影の美しい粒子が画面全体に漂っていて、思わずぐっと引き込まれます」
「グスタヴ・フィエースタードの『冬の月明かり』と『川辺の冬の夕暮れ』も好きですね。雪の質感や陰影の捉え方が非常に繊細で、どこかデザイン的な構成の味わいもあります。展覧会のハイライトを飾るにふさわしい作品と言えるでしょう」---fadeinPager---
スウェーデンならではの風景を、絵画を通して旅するよう
皆川はデザイナーとして活動を続ける一方で、絵画や立体など、アーティストとしても創作に取り組んでいる。また「デザインをするときは、現実を写すよりも空想の世界に入って描くことが多い」とも語る。そんな皆川に、絵画を見るときに大切にしていること、そして出品作をあげながら、印象に残った表現について聞いた。
「絵に描かれていることそのものと、それが画家の内面とどのように響き合っているかを意識します。技法や筆致の結果として、その心がどう表れているのか。メビウスの帯のように、外側の風景から作者の内側に入り、また外へ戻っていく。いわば内と外を往復するような見方をしている気がします」
「もう一枚おすすめの作品をあげるとしたら、グスタヴ・アンカルクローナの『太古の時代』ですね。日の出や夕暮れのわずかな時間に見える光の幻想的な変化が描かれていて、北欧を訪れると誰もが目にする雄大な自然の瞬間を思い出します。今回の展覧会では、私たち日本で暮らす者にはなじみのない光の表情を見ることができます。スウェーデンならではの風景を、絵画を通して旅するように味わって欲しいです」
日常の中にある喜びや幸福感を大切にすること
「デザインが日常生活の幸福度を高める」ことを探求し続けてきた皆川。スウェーデン絵画の世界には、その理念と響き合うものがあるという。またスウェーデン絵画の色や形、モチーフに「ミナ ペルホネン」と直接的な共通点があるわけではないが、デザインを目にして新たな視点を得たという。
「カール・ラーションの『カードゲームの支度』や『おもちゃのある部屋の隅』などは、当時としては比較的豊かな暮らしを描いた作品だと思います。けれど、そこで描かれているのは特別な日常ではなく、日々の生活の中に息づく温かさや幸せ。その視点は、日常の中にある喜びや幸福感を大切にするというミナ ペルホネンの考え方に重なるところがあります」
「ダーラナ地方に見られる素朴でカラフルな造形には、私も昔から惹かれてきました。そこにある美意識には、日本の工芸にも響き合う感覚があるかもしれません。展覧会を通して、あらためて『日常の中の美』というテーマの普遍性を実感しました」
北欧の光が描き出すのは、静けさの中に潜む確かな生命の輝きだ。その絵画世界に耳を澄ますと、時間や季節を超えて続く、人の営みの美しさが見えてくる。スウェーデンの芸術が放つ「日常のかがやき」を、東京都美術館で感じてみてほしい。
※出品作品はすべてスウェーデン国立美術館所蔵
『東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき』
開催期間:開催中~2026年4月12日(日)
開催場所:東京都美術館
東京都台東区上野公園8-36
開室時間:9時30分〜17時30分
※金曜は20時まで
※入室は閉室の30分前まで
休室日:月、2/24(火)※ただし2/23(月・祝)は開室
観覧料:一般 ¥2,300
www.swedishpainting2026.jp










