【1998年発売のSONY「VAIO」】28年前の名機をいま手に取る「異色の横長デザイン」

  • 文:小暮昌弘
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昨年末、部屋で片付けていたら、奥の収納庫から一台のパソコンが出てきた。昔、購入した、VAIOというノートパソコンである。

いつ頃のものだろうと調べてみると、1998年発売とある。発売されてすぐに秋葉原に買いに行ったものの、すでに品切れ状態。数か月待って、ようやく購入できた記憶がある。当時としてはかなり高額で、CDドライブも別売り、バッテリーなどの周辺機器を揃えると、いまのMacBook Proが2台は買えるほどの金額になった。そんな事情もあって、使わなくなってからも処分できず、奥にしまい込んだまま、すっかり忘れてしまったのだ。

当時、私はまだ会社員。会社のデスクに個人向けのパソコンが置かれていたかどうかは、正直よく覚えていない。ただ、このくらいコンパクトなモデルなら、海外出張にも持って行けるだろうし、現地で原稿を書くこともできる。そんな理由でこのモデルを選んだのだと思う。

もっとも、当時のホテルにWi-Fiなど飛んでいるはずもなく、電話回線にコードでつないでダイヤルアップ接続をしていた時代だ。しかも、まだインターネット自体が十分発達していなかったので、用途はほぼ原稿書きに限られていた。 

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正式な型番は「MODEL PCG-181N」。搭載されているソフトは、Windows XP。もちろんこのソフトも一緒に購入した。
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全体を撮った画像では、それほど横長に見えないかもしれないが、文庫本と並べてみると、かなりの横長である。しかし奥行きは文庫本をほぼ同じ。当時のノートパソコンとしては、異色のデザインだった。

 

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キーボードと同じようなサイズに、とギリギリまで攻めたSONYらしい設計。こういうのがSONYはうまかった。現在のような「タッチパッド」はなく、キーボードの真ん中にマウス代わりのポインティング・デバイスを備えていた。

これはVAIOのなかでも通称「VAIO C1」というモデルで、サイズは横幅240×奥行き140×高さ37mm、重さは約1.1kg。現在のノートパソコンとは異なり、横に長い独特のデザインで、キーボードがぎりぎり収まるサイズを想定して設計されていると聞いている。液晶上部に、小型カメラが標準装備され、しかも180度回転する仕様。静止画や動画を撮影し、編集までできるという触れ込みだったが、当時はデジタルで写真や動画を撮るという発想自体がほとんどなかった。一度も使ったことはなかった。

ちなみに、カメラを搭載した携帯電話(PHS)が登場したのは、このモデルの発売から1年後の1999年。いま振り返れば、このVAIO C1は、相当先進的なパソコンだったことになる。

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液晶のベゼルに「MOTION EYE」と呼ばれるCCDカメラが装備され、これが180度回転できる。いま稼働していれば、リモート会議に使えるかもしれない。

そもそもVAIOとは、「Video Audio Integrated Operation」の略だという。つまり、ビデオやオーディオ機能を重視した設計を売りにしたブランドでありパソコンだった。オーディオ関連では「gigabeat」という音楽ソフト(確か東芝が考案したものだと思う)が、最初からインストロールされていた。アップルのiTuneに近いソフトで、CDを取り込むことができたため、手持ちのCDを次々と読み込ませた。しかし、アーティスト名や曲名が自動表示されることは少なく、結局すべて手入力。しかしすぐにハーディディスクがいっぱいになってしまった。考えてみれば、内臓ハードディスクの容量は3Gほど。大量の楽曲が入るはずもない。外付けのハードディスクも試したが、データ転送が難しく、以降、CDの取り込みはやめてしまった。

現在のノートパソコンとはまったく異なるデザインだが、横長の筐体は意外にも持ち運びしやすく、収納にも便利だった。私は試さなかったが、カメラも使え、音楽も楽しめる。それがこのVAIO C1の強みだ。ビジネス用途のパソコンとは、まったく異なる発想から生まれたモデルだったと思う。

以前、スティーブ・ジョブズの評伝を読んだとき、彼がSONYの大ファンで、とりわけ同社の「世の中になかったものを生み出す」姿勢を、Appleの理想像としていたという話が印象に残っている。Mac OSをVAIOに搭載できないかと、SONYに打診したこともあった、という逸話もあるほどだ。もしそれが実現していたら、いったいどんな製品が生まれていただろう。ちなみにiPodの発売は2001年、このVAIOのほうが、実に3年も早かったのである。

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iPodはいくつか購入したが、手元に残っているのは、2006年に発売されたU2 Editionだけだ。最近、iPhoneで音楽を聴くことが少なくなったが、持ってみたら、持ちやすく、軽量だ。復活させて使ってみるのもいいかもと思っている。

携帯音楽プレーヤーといえば、SONYは1979年にカセットテープ式の「ウォークマン」を発売している。これこそ、まさに「世のなかになかったもの」だ。再生専用機と割り切り、外部スピーカーも省き、ヘッドホンだけで聴くという発想。私も初代を購入して使っていた。ヘッドホンジャックが2つあり、カップルで一緒に聴ける仕様。そして上部に付いた黄色いボタンを押すとお互い会話できるという、しゃれた設計だった。若者が飛びついた理由もわかる。その後登場したCDと同サイズの初代「ディスクマン」も発売されてすぐに購入したが、レコードからCDへと音源を一気に買い替えるきっかけにもなった。

そう考えると、音響機器に限らず、電気機器を購入する際、SONYというブランドは、私にとっては常に絶対的な存在であり、生活スタイルを大きく変える契機をつくってきた。しかし現在、部屋のなかで「SONY」と書かれた製品を探すと、ICレコーダーくらいしか見当たらない。これは、やはり寂しい!

AppleがiPhoneを登場させたのは、2007年。まだ20年も経っていない。翌年、日本で発売されたiPhoneをすぐに購入すると、家人から「新しいもの好きなんだから。そんな携帯、使いこなせないでしょう」と笑われたものだが、いまでは、私に限らず、誰もが欠かせない存在となっている。

iPodもiPhoneも、あとから振り返れば必然のように見えるが、登場した当時はどれも理解されにくい存在だった。30年前にこのVAIOを手にしたときの気持ちを、私はもう正確には思い出せない。ただ、あの頃もいまも、「まだ見たことのないもの」に心を動かされている点だけは、きっと変わっていないのだと思う。

小暮昌弘

ファッション編集者

法政大学卒業。1982年から婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。『25ans』を経て『MEN’S CLUB』に。おもにファッションを担当する。2005年から07年まで『MEN’S CLUB』編集長。09年よりフリーランスとして活動。

小暮昌弘

ファッション編集者

法政大学卒業。1982年から婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。『25ans』を経て『MEN’S CLUB』に。おもにファッションを担当する。2005年から07年まで『MEN’S CLUB』編集長。09年よりフリーランスとして活動。