傘が宙を浮き、雨の中を自動で追いかけてくる。SF映画のような光景を、YouTubeで活動する若きエンジニアが実現した。距離を測定するToFカメラとRaspberry Piを駆使し、高い完成度を実現。2年間の開発の末、両手が自由になる未来の傘が誕生した。
大雨でもついてくる「空飛ぶ傘」
傘が宙に浮いて、勝手に頭上を覆ってくれる。まるでSF映画のワンシーンのような便利な傘が誕生した。
「空飛ぶ傘」を生み出したのは、YouTubeチャンネル「I Build Stuff」を運営するエンジニアのジョン・ツェ氏だ。ツェ氏は学校の休暇中、当初2週間の予定でこのプロジェクトに着手したが、開発は実に2年越しの大プロジェクトとなった。
初期バージョンでは手持ちのコントローラーで操作する仕組みだったが、視聴者からのフィードバックを受けて完全自律型へと進化。持ち主の位置を捉え、自動で頭上についてくる仕組みに進化した。
完成した入魂の傘は、大雨の中でも安定した飛行を見せる。ツェ氏は開発の全過程をYouTube動画で公開し、試行錯誤や成功の瞬間を記録してきた。
「理想を追いすぎないことも学んだ」
理想を追い続けるあまり、終わりが見えないこともあったという。アメリカのアート・文化メディアのマイ・モダン・メットによると、ツェ氏は、「この1年で、完璧主義によって作品が永遠に完成しないことがあってはならないと学びました。大切なのは完璧にすることではなく、実現することなのです」と語っている。
ハンズフリーの傘のアイデア自体は、以前からあった。アメリカの科学技術メディアのポピュラーサイエンスによると、背中に取り付けるバックパックタイプの特許は11件以上存在する。きっと誰もが同じような不満を解消しようと苦心してきたのだろう。
ほかにも、手ではなく身体のどこかに付けるというアイデアは多い。リュックから伸びる簡易日傘に、頭を覆う貝殻状のフード、そして全身を包む「ハムスターボール型」のアイテムや、果ては足元を守る靴用の傘まで存在する。だがツェ氏は、そのどれとも違う道を選んだ。ドローン技術で傘を体から完全に浮かせるという発想だ。
使った技術はToFカメラとRaspberry Pi
「空飛ぶ傘」の心臓部は、ドローン技術と独自の追跡システムだ。マイ・モダン・メットによれば、最大の難関は飛行そのものではなく、人を追いかける仕組みの構築にあったという。
複数の方式を試した末にたどり着いたのが、タイムオブフライト(ToF)方式の深度カメラだ。光の往復時間から対象との距離を測り、使用者との距離を安定して推測することができる。さらに、小型コンピューター「Raspberry Pi」がこの深度(距離)データをリアルタイムで解析し、頭の位置を特定。その座標をフライトコントローラーに送る。こうして傘は持ち主の真上をキープし続ける。
機体の設計にも工夫が光る。傘内側のフレームには折りたたみ式アームを採用し、収納時は三脚ほどのサイズにまとまる。技術の粋を尽くしながらも、使用しないときはよくある傘のように身軽だ。中央のハブに市販の傘を取り付ける仕組みで、傘の柄を切断することさえ気にしなければ、お気に入りの傘が「空飛ぶ傘」に早変わりだ。傘自体がモーターやケーブルを覆い隠すので、浮いていること以外、見た目は普通の傘そのものだという。
最新技術で人間に寄り添う
もちろん、この発明がすぐに市販化されるわけではない。科学技術メディアのニュー・アトラスは、実用化に向けた課題を挙げている。軽量なドローンは風や豪雨の影響を受けやすく、飛行時間はバッテリー寿命にも縛られる。回転翼の騒音や、公共の空間で頭上を飛ぶ際の安全性も、今後の検討課題だ。
開発者自身、実験段階の個人的なプロジェクトと位置づけている。それでも、実際に動作する映像は視聴者を魅了し、これまでに100万回以上再生された。両手が空く快適さは、誰もが雨の日に感じていたわずらわしさを軽やかに解消している。人々はそこに、ちょっとした近未来の魅力を感じるのだろう。
ニュー・アトラスは、このプロジェクトの真の意義は、量産化とは別のところにあると指摘する。人間の動きに合わせて飛行する最先端のテクノロジーを、傘という身近な道具で現実化した。
センサーと自律技術が急速に進化するいま、最も日常的なアイテムの改善にこそ、まだ見ぬ発明の種が眠っているのかもしれない。
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