サウジアラビア
砂岩の渓谷が連なるサウジアラビアの古代都市アルウラ(AlUla)。この地で今、現代アートの祭典が催されている。11組の作家が風と影で作品を生み出し、2月28日まで観客を魅了。さらにその先に待つのは、砂漠で1000年展示されるという壮大なランドアート計画だ。
古代都市に活気を呼び戻す現代アートの祭典
サウジアラビア北西部に、風化した砂岩が果てしなく連なる。かつて香料貿易の中継地として栄えた古代都市、アルウラだ。
その壮大な渓谷が今、アートの舞台へと姿を変えた。隔年開催の野外展覧会「Desert X AlUla」が2026年、再び開幕。中東版ファッション誌ヴォーグ・アラビアによると、テーマに「Space Without Measure(限りなき空間)」を掲げる。レバノン出身の詩人ハリール・ジブラーン(1883~1931年、『預言者』などで知られる)が夢を「果てしなき空間」と表現した一節に着想を得たという。
アメリカのアート・デザイン誌ガレリエはアルウラを、「神話的なスケールを持つ場所」と呼ぶ。首都リヤドから飛行機で約1時間の地に、巨大な砂岩層が彫刻のようにそびえる。近隣のヘグラには、サウジアラビア初のユネスコ世界遺産に登録された数千年前の墳墓群が眠る。その地で今、11組のアーティストが作品を展開している。
11組の作家が砂漠と対話する
各組の手法は多岐にわたるが、共通するのは砂漠の地形や光を作品に取り込む試みだ。
バーレーンとデンマーク出身のメンバーからなる学際的集団は、溶接金属で組み立てられた動く彫刻「Bloom」を制作。20世紀アメリカの彫刻家マーク・ディ・スヴェロの大型鉄骨彫刻を思わせる産業的な規模の構造物であり、構造物自体に目が行きがちだ。だが作品の本質は、むしろ風に揺れる砂漠の花々を模したこの装置が落とす、幻想的な影にこそある。
メキシコ人アーティストのエクトル・サモラは、太鼓の外側と内側の両方にいるような感覚を表現するため、双曲面状の大型の囲いを制作した。「Tar HyPar」と呼ばれる本作は、訪問者が叩くことで巨大な打楽器となる。あえて狭い峡谷の部分に配置することで、音を独特に反響する。
バスマ・フェレムバンの彫刻作品「Murmur of Yobbiet」は、水により複雑に浸食された周囲の石灰岩の崖面を作品の一部に取り込んでいる。
アメリカのデザイン専門誌サーフェスによると、設置場所はすべて入念に選ばれたという。ぬかるんだ氾濫原や、独特の反響を生む狭い割れ目、そしてあえて直射日光が降り注ぐ砂地など、砂漠の多様な地形を生かすことで、アーティストたちはそれぞれ独自の表現を追求した。
1000年後の人類へ向けた「芸術の谷」計画
アルウラのアート展への来場者数は、2022年の約1万9000人から急伸。2025年には7万人を超えた。
成長の先に、アルウラはさらに大きな理想を描く。ガレリエ誌によると、アルウラ王立委員会の芸術・クリエイティブ産業ディレクター、ハマド・アルホミーダン氏は、「アーティストによる、アーティストのために作られた目的地」とのビジョンを掲げている。
その具体策として2028年、「Wadi AlFann(芸術の谷)」計画が始動する。サーフェス誌によると、舞台となるのはアルウラ近郊に広がる約64平方キロメートルの敷地だ。全長約40kmにわたって手つかずの峡谷が走り、そびえ立つ崖が連なる。
アメリカのジェームズ・タレル、マイケル・ハイザー、ハンガリー出身のアグネス・デネス、サウジアラビアのマナル・アルドワヤン、アハメド・マター。そうそうたる5人のアーティストが、この地で大規模なランドアート作品を手がける計画だ。作品はすべてサウジアラビア国内で調達した素材を使い、地域の職人の力を借りて生み出される。
定されている設置期間は、実に1000年。遠い未来の人類へ向けて製作され、まだこの世に生まれていない観客を待つ、果てしないプロジェクトが始まろうとしている。


