今月のおすすめ映画①『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
破天荒な卓球選手を演じ切る、ティモシー・シャラメの新境地
21歳にしてアカデミー賞にノミネートされた出世作 『君の名前で僕を呼んで』以降も着実にキャリアを重ねてきた若き名優、ティモシー・シャラメ。『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』で演じるのは卓球がマイナー競技だった50年代に世界王者を夢見る人物だ。スポーツマンである以上フェアネスや節度を備えていてもよさそうなものだが、マーティは驚くほど自己中心的で目的のためには手段を選ばない。海外遠征の資金を手にするために平気で嘘をつき、人を裏切り、金策に奔走する。
安宿でバスタブごと階下に落下してギャングの男と愛犬を巻き込む騒動を起こしたかと思えば、賭け卓球で追い詰められ、逃げた犬を追って農場主に発砲されてしまう。常軌を逸した展開とともに、自分なりに人生を生き抜こうとする既婚者の恋人やマーティの愛人となる元大物女優との関係まで描かれ、物語は常に均衡を失いかける。
呆れながらもこのカオスから目を離せなくなるのは、ときにプライドに縛られ、あっさりとそれを捨てたりもするマーティが嫌いになれないからだ。シャラメのニュアンスに富んだ演技はマーティを単なる身勝手な野心家にとどめない。無軌道なふるまいの奥には、世界をつかみたいと願う若者の切実な欲望が透けて見えてくる。やがて観る者は嫌悪と共感の間でゆさぶられ、アンビバレントな感情を引き出されることになるのだ。マーティがなりふり構わず成功を求めるアメリカンドリームの化身だとするならば、戦後復興の象徴として立ちはだかる冷静な日本人選手エンドウの存在は、鮮やかなコントラストを生む。
無茶苦茶で騒々しく、破綻すれすれ。それでも物語が最後まで求心力を失わないのは、シャラメが俳優としての地平をさらに押し広げた証しだろう。
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
監督/ジョシュ・サフディ出演/ティモシー・シャラメ、グウィネス・パルトロウほか
2025年 アメリカ映画 2時間29分 3/13よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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今月のおすすめ映画②『しあわせな選択』
皮肉な笑いで現代社会を描く、パク・チャヌク監督の最新作
妻と子どもたちと犬とともに郊外の家で幸せに暮らしてきたマンス。しかし長年働いてきた製紙会社を解雇され、就職活動がうまくいかないまま時が過ぎてしまう。追い詰められた彼は、ライバルたちを消していくというとんでもないアイデアを思いつく。『別れる決心』の名匠、パク・チャヌクが久々にイ・ビョンホンとタッグを組んだ最新作。シニカルでブラックなユーモアの先に、競争社会の残酷な断面図があらわになるエンターテインメントだ。
『しあわせな選択』
監督/パク・チャヌク出演/イ・ビョンホン、ソン・イェジンほか
2025年 韓国映画 2時間19分 3/6よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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今月のおすすめ映画③『木挽町のあだ討ち』
芝居小屋で描かれる、雪の夜の仇討ちの真相は?
江戸時代、木挽町。歌舞伎の芝居小屋、森田座のそばで若衆の菊之助が父を殺した男の首を討ち取った。語り草となった雪の夜から1年半後。菊之助の縁者だという総一郎が事件の真相を知りたいと森田座にやって来る。直木賞、山本周五郎賞をW受賞した永井紗耶子の同名時代小説を映画化。原作には登場しない総一郎が導くミステリー、さまざまな過去を持つ人々が集う芝居小屋の温もり、そして時代劇の情感が折り重なる一作に仕上がっている。
『木挽町のあだ討ち』
監督/源 孝志出演/柄本 佑、渡辺 謙ほか
2026年 日本映画 2時間00分 全国の劇場で公開中



