トルコ
トルコ西部マニサに、新たな公共文化施設が誕生した。マニサ解放博物館(Liberation Museum of Manisa)は、2025年に建物が完成し、同年10月29日、トルコ共和国建国記念日に合わせて開館した。アンカラを拠点とする建築設計事務所Yalin Architectural Design(ヤルン・アーキテクチュラル・デザイン)が設計を手掛けた。
「マニサ解放」とは、第一次世界大戦で敗れたオスマン帝国の領土分割を背景に、1919年にギリシャ軍が西アナトリアへ進軍しマニサを占領したこと、そしてその後の市民による抵抗を経て、1922年9月に同市が奪還された出来事を指す。これはトルコ独立戦争の一局面であり、占領と大火災による壊滅的被害、そして復興という激動の史実を今に伝えるために、この博物館は設立された。
土とレンガで構成された「物語る建築」
延べ床面積約3,800㎡を有するこの博物館は、レンガを積み上げて作られた14の独立した展示空間から成る。設計の起点となったのは、ギリシャ軍の進攻・占領と撤退時の大火災を経てなお街に残った、石やレンガによる耐力壁建築の痕跡である。それらと、古代にまで遡るマニサのレンガ建築の伝統を重ね合わせることで、建築全体が歴史の延長線上に位置づけられている。
内部空間は均質ではなく、各スペースは断面形状や天井の高さが異なる。レンガのアーチ、ドーム、テント状の覆いが生む形態の違いは、暗と明、圧迫と解放、低さと高さといった空間的印象を段階的に変化させる。各室の輪郭は微妙に調整され、展示を見る以前に、まず身体感覚として歴史の転換点を意識させる構成となっている。
施工面で特徴的なのは、2種類のサイズのレンガを用いた点だ。まずコンクリートの基壇(=土台)を設け、木製型枠を組み、その上にレンガを積み上げ建物を支える壁を形成する。異なる寸法のレンガを組み合わせることで、型枠除去時に初めて現れる内壁の積層リズムに微妙な変化が生まれ、空間に予測できない凹凸や手仕事感を与える。
地下へ降りる動線、体感する歴史
博物館は半地下に位置し、三方向に分かれたスロープをたどって内部へと降りていく。スロープを進むと半楕円形の広いエントランスホールが現れ、床にはアーチ状の曲面によって荷重を分散させるヴォールト構造のコンクリートが用いられている。レンガのアーチと組み合わさったこの空間は、設計者が「クジラの腹部」にたとえたように、来館者を包み込むような感覚を生み出す。
このホールを抜けると、第一次世界大戦下からギリシャ占領、都市の焼失、再建に至る過程が、9つの展示室で異なる緊張感をもって順に語られる。情報中心の展示もあれば、感覚的体験を重視したもの、インスタレーション性の高いものまで幅広い表現が用いられている。歴史を読む行為と、空間を通過するプロセスが並行して進む。
記憶と日常が共存する場所
建物上部は公園として整備され、市民に開放されている。地上を歩く人々は、その真下で歴史が語られていること意識しないかもしれない。しかし、公園内の小さな丘や起伏は、地下に広がる展示空間の形状や間仕切りを反映しており、地表部分に穏やかな変化を生み出している。
Photo: ©Hacer Bozkurtマニサ解放博物館は、過去を記念碑として切り離すのではなく、現在の都市生活の只中に組み込む試みである。記憶と日常が無理なく共存するこの形によって、マニサの重要な歴史が人々の暮らしの中で長く息づいていくのではないだろうか。


