小山薫堂とライカの“Mr.M”が語る、20周年を迎えたライカ銀座店とM型ライカのこと

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:鈴木 誠
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長年ライカを愛する小山薫堂と、ライカのドイツ本社から来日した"Mr.M"ことステファン・ダニエルが邂逅。オープン20周年を迎えたライカ銀座店で語り合った。

2025年に誕生100周年を祝ったライカのカメラ。26年には東京・銀座の直営店、ライカ銀座店がオープン20周年を迎えた。それはドイツのいちカメラメーカーが、世界のプレミアムブランドへ発展していく道のりでもあった。

ライカ銀座店20周年を祝し、長年のライカユーザーである小山薫堂とライカ ブランド リプレゼンタティブのステファン・ダニエルが対談。銀座店の歩みとこれから、そして小山が愛する「M型ライカ」について語り合った。

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小山薫堂(右)⚫︎1964年、熊本県天草市生まれ。大学在学中に放送作家としての活動を開始し、これまでに「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」「東京ワンダーホテル」「ニューデザインパラダイス」など斬新なテレビ番組を数多く企画・構成。初の映画脚本となる「おくりびと」では、第60回読売文学賞(戯曲・シナリオ賞)、第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、 第81回米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。くまモンの生みの親でもある。


ステファン・ダニエル(左)⚫︎ライカカメラ社 グローバル シニア ブランド リプレゼンタティブ “Mr. M”。1984年、ドイツのライカカメラ本社(当時のErnst Leitz Wetzlar GmbH)入社。本社サービス部門、フランスのサービス部門勤務などを経て、本社商品企画部門責任者に就任。「ライカM7」「ライカMP」などの新世代アナログM型ライカ、「ライカM8」以降のデジタルライカMシステムの企画、商品化を成功へと導く。2021年上級副社長に就任。25年12月1日より、“Mr. M”として全世界に向けたライカブランドの広報、啓蒙活動に従事。

ライカが“直営店”を開くまで

世界のラグジュアリーが集まる銀座。いま、ここにライカの直営店が店を構えていることはごく自然だ。しかし20年前のライカは違ったとステファン・ダニエルは振り返る。

「いまでこそライカはハイブランドとして知られていますが、当時はいわば“カメラメーカー”としての側面が強い時代でした。我々にとって“カスタマー”といえばカメラ販売店のことを指しており、お客様と直接向き合う機会は多くありませんでした」

カメラメーカーであるライカ自身が直営店を開くことは容易ではなかった。地域のカメラ販売店にとっては新しい試みでもあり、当初は慎重な声もあったという。しかし、直営店の誕生によりライカの知名度は高まり、それを求める人が地元のカメラ店にも訪れたことで、ブランドと販売店の双方にとって良い関係が築かれていった。

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ライカ銀座店の外観。岸和郎の設計により、ショーウィンドウを置かず、カメラから生まれる人と人のコミュニケーションを見せて銀座の街との一体感を大切にしている。

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“旗艦店世界第一号”に銀座が選ばれた理由

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オープンの経緯を聞く小山。ライカ銀座店 店長の高橋志陽が当時を振り返る。

カメラや写真を愛する者が集うライカストア。いまや世界に70店舗を超える自社販売網の起点は日本、そしてラグジュアリーの息づく地、銀座だった。

「日本にはクラフトマンシップやブランド哲学への高い評価と敬意、そして写真、特にライカに対する深い理解があります。その中でも銀座は、日本有数の歴史と伝統が根付いた地として、本物志向のお客様が訪れる場所であることから、ライカの世界観を体現するのに理想的な立地でした。上質なカメラやレンズを扱うライカストアでは、お客様との対話や試し撮りといったプロセスが重要です。銀座は街全体に落ち着いた雰囲気があり、お客様が時間をかけて製品を体験しやすい環境が整っています」とライカ銀座店の店長 高橋志陽が振り返る。

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銀座への出店を知り、ライカに最も似合う場所だと感じた小山。「銀座には、確固たる歴史と品格がある。もののわかる大人が集う街ですね」

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“Mr.M”と語り合う、M型ライカの魅力

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小山の私物ライカ。手前から時計回りに「ライカM10-D」、フィルムカメラの「ライカM7」と「ライカMP エルメスエディション」、そして世界に1台の「くまモンのライカM」。

いまも昔も、ライカを代表するのはM型ライカ(ライカMシリーズ)だ。小山にとってのMは、旅と日常のお供だけではない。全国の銭湯や風呂を巡る連載「湯道」や、ともに働く社員のプロフィール写真も自ら撮影するという。その魅力とは?

「Mの魅力は“継承”ですね。昔のレンズも使い続けられる特別さがあります。デジタルカメラになると聞いたときは少し失望しました。でも実際にライカM8(20年前に発売されたM型初のデジタル機)を手にしたら、フィルムを交換するように底蓋を外してSDカードを入れる必要があったり、フィルムライカからの“変わらなさ”に驚かされました」

M型ライカに便利さは求めず、ほどよく不便なところが好きだと話す小山。フィルムライカの“お作法”をあえて残したようなデジタル機の使い心地によって、すんなり移行できたと振り返る。

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出番が多いのは、デジタルカメラでありながら背面モニターがない異端児「ライカM10-D」。“ファインダーをのぞいてる”というカメラの原体験をピュアに研ぎ澄ませたモデルだ。

スムーズなデジタル化に成功したM型ライカは、最新機種「ライカM EV1」でも小山の先入観を覆してみせた。

素通し感覚の光学ファインダーをのぞき、機械式時計のように精密なメカニズムでピントを合わせる“レンジファインダーカメラ”という方式は、いまやM型ライカだけの伝統。なんとそれを大胆にも取り払った新機軸が「ライカM EV1」だ。登場するやいなや、世界のライカファンを騒がせた。

「やっぱり光学ファインダーをのぞきたいので、発売のニュースにはまったく興味が持てませんでした。Mが便利になることへの不安が蘇ったのです」と小山も振り返る。

「でも、これも実際に使ってみたら使いやすかった。いままでのレンズを使いながら快適に撮れるところに魅力を感じて、欲しくなりました(笑)。ライカを買うたびに『もう買わないぞ』と思うんですけど、いつもピンポイントで僕のツボを突いてくるんですよね」

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話題の最新モデル「ライカM EV1」。伝統的なM型ライカのフォルムを守りつつ、電子ファインダーで現代的に撮影できるミラーレスカメラだ。

そんな「ライカM EV1」について、“Mr.M”はどう考えているのか。

「これは“M”という道具箱に加わる新たな選択肢です。より細かくピントを合わせるサポート機能がありますし、超広角やマクロといった、これまであまり得意でなかったレンズも便利に使えます」

「もちろんMシリーズのコアはレンジファインダーカメラです。ライカM EV1が登場したからといって、次の“M”がこれに切り替わるわけではありません。モノクロ専用機も、背面モニターがないモデルも、このライカM EV1も、すべては“M”のファミリーメンバーなのです」

本質を変えず、挑戦も忘れない。ライカの“強さ”を感じさせるメッセージだ。 

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小山がパリへスタッフと新プロジェクトの視察に出掛けた際に「ライカM EV1」で撮影した1枚。朝の風景。建物の外壁を照らす、淡い光のニュアンスをもすくい取る。デジタルカメラとしての基本性能の高さがあらわれた。ライカ ズマロンM f5.6/28mm。photo by Kundo Koyama

「ライカM EV1」の詳細を見る

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写真文化の発信地・ライカ銀座店のこれから

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「ここを訪れるたびに、写真を撮りたくなるんです」と小山。期間ごとに入れ替わる作品の数々が、写真を愛する人々を触発する。

小山にとって、ここライカ銀座店とはどんな場所なのか。

「ギャラリーがあって、職人にプレミアムプリントを発注できたり、カメラのことを相談できたりする。ストアであると同時に、写真にまつわる駆け込み寺のような、頼りになる存在ですね。こうしてギャラリーで作品を見ていると、『最近はスマホでラクに撮ることが増えたなあ』と反省します(笑)。でも、これだけスマホが普及したら“カメラ”そのものがなくなっていても不思議ではないのに、まだちゃんとある。カメラは“その瞬間を撮りたい”と思う意欲を起こさせる装置であり続けていますね」

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ライカ銀座店のある「みゆき通り」を歩くふたり。「お店の前にあるパーキングメーターが意外と空いてて、便利なんですよ」と小山。

そもそも、カメラを売るライカストアにギャラリーを設置する理由とはなんなのだろうか? ステファン・ダニエルに聞いた。

「もちろん写真文化への貢献という側面もありますが、ライカストアをより気軽に訪れていただける場所にするというのも目的のひとつです。ギャラリーを併設することで展示が変わるたびに来店のきっかけが生まれ、お客様とのコミュニケーションの機会も自然と増えていきます。もうひとつ大切にしているのは、これからカメラを手にしようとする方に“よい写真”を見ていただくことです。『ライカでこんな写真を撮ってみたい』と感じてもらうことが、私たちにとって大きな意味を持ちます。カメラという道具そのものを並べるだけではなく、それによってどのような表現ができるのかを、実際の作品を通して伝えていきたいのです」

ライカギャラリーは現在、世界に約30カ所が存在する。日本には銀座、京都、表参道の3カ所に存在し、フォトギャラリーのひとつとして通う写真ファンは多い。

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「そのレンズはなに?」「好みの焦点距離は?」——人が行き交い、クルマが通る。動き続ける銀座がふたりのフォトグラファーを触発する。

さて、これからのライカはどうなっていくのか。“Mr.M”は真新しいレンズを示した。

「革新(Revolution)というより、進化(Evolution)を期待してください。この『ライカ ノクティルックスM f1.2/35mm ASPH.』はその典型です。これまでノクティルックスと名の付くレンズは大きく存在感があり、持ち出されるシーンは限定的でした。しかし今回は最新技術によって小型化を実現し、日常的に持ち歩けるサイズへと進化しました。このように、“特別を日常にしていく” といった進化を重ねていきたいと考えています」

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ライカは“人”を撮りたくなる。カメラを構えれば、相手も続く。今日もライカは人々の関わりを写し撮る。

最後に小山に聞いた。ライカ銀座店のオープンから20年を経たいま、ライカの可能性と強みはなにか?

「“変わらない”という強さがありますね。でも実は、変わらないことと変わることは同居している。銀座店ができた頃からは、ライカの“変わること”への貪欲さも感じています。驚いたのは、ドイツのライカ本社に併設されたホテルです。ラグジュアリーホテルとは違った間口の広さで、写真魂を刺激する空間になっていました。こんなホテルが世界中にあれば、そこに写真のうまい人が集まってきて、写真を撮る。そんな地域創生すらも可能にすると思うんです。たとえば“食”と組んだり、写真を起点にした文化のコラボレーションを広げてほしいですね」

比類なきカメラやレンズをつくり、優れた写真で魅力を伝える。ライカの原動力は常に「写真」への貢献だ。日本から始まったライカストアは“カメラを売る場所”を超え、世界各地で写真文化の重要な発信地となっている。

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ステファン・ダニエルを小山愛用の「ライカM10-D」で撮影した。photo by Kundo Koyama

小山薫堂×ライカM EV1

今回の対談の後、フランスへスタッフと新プロジェクトの視察に出かけた小山薫堂が、最新機種「ライカM EV1」で旅の様子を捉えた。

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旅の一コマ。その場の雰囲気を捉えつつ、ピントの当て方で主役を引き立てる。photo by Kundo Koyama
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飛翔の一瞬を切り取る、実にライカらしいスナップショットだ。空の青とオレンジが溶け合うグラデーションも美しい。ライカ ズマロンM f5.6/28mm。photo by Kundo Koyama 
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猫との触れ合い。よく見ると、ピントは猫の瞳に合っていることがわかる。ライカM EV1らしい緻密なピント合わせだ。ライカ ノクティルックスM f1.2/50mm ASPH.。photo by Kundo Koyama
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モノクロ写真を撮るときに、ファインダーも白黒画面で見られるのはライカM EV1ならでは。人物の前後になにがあるか、かたちを残したままボケていく描写が甘美だ。ライカ ノクティルックスM f1.2/50mm ASPH.。photo by Kundo Koyama
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エッフェル塔。街灯やライトアップと、わずかな夜空の明かり。この幅広い明るさを破綻なく受け止められる能力は、“カメラ”ならではの余裕だ。photo by Kundo Koyama

 

ライカカメラジャパン

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