クリエイションが生まれる道を整え、“人”と“夢”をつないで映像をつくる【映像プロデューサー・大野瑞樹】

  • 写真:土田 凌
  • 文:照沼健太
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大野瑞樹●1991年、東京都生まれ。野村證券を経て、2017年にギークピクチュアズ入社。25年に独立し、父の会社を引き継ぎアクロバットフィルムを2次創業。初年にして多数の作品を手掛ける。JAC AWARD 2023プロデューサー部門グランプリ受賞。

野村證券で売り上げ日本一。これは、エリート営業マンの成功譚ではない。気鋭の映像プロデューサー、大野瑞樹のスタートだ。昨年末の紅白歌合戦で話題を呼んだ米津玄師による『IRIS OUT』の世界初歌唱パフォーマンスや、グーグル「Gemini」の広告、AIのみでつくられたミュージックビデオなど、数多くの注目作に携わってきた。

その青春はサッカーに捧げられた。高校で全国3位、大学で関東大学選抜候補に選出。その闘争心のままに飛び込んだ証券の世界では、入社3年目にして商品別売り上げの頂点を極めた。だが26歳のある日、ふと立ち止まり考えた。

「これだけの努力をすれば日本一になれる。だったら別の世界で、心に素直に、夢を追いかけてもまだ間に合うのではないか?」

脳裏にあったのは、当たり前のように家に転がっていたたくさんのカメラ、そして映像プロデューサーである父と語り合った記憶。

「僕もプロデューサーになろう」

浮かんだ思いは、もう止まらなかった。2017年、急成長中だった映像制作会社ギークピクチュアズに飛び込む。完全なる未経験ながら最初の仕事は、あの中島哲也監督の現場。周囲に心配されながらも、巨匠に食らいついた。撮影資料づくりから始まり、ていねいな進行、現場での気配り。つくり手として基礎が培われた。

Ado自身が作詞・作曲を手掛けた楽曲『ビバリウム』で初の実写となる配信ジャケットのビジュアルと、ミュージックビデオの両方をプロデュースした。

大野曰くプロデューサーとは、“誰かがなにげなく語った夢を応援し、カタチにしてしまう人”。しかし道筋を構想し、人をつなぎ、言葉にならないニュアンスを汲み取りながら作品を立ち上げる。その行為は紛れもないクリエイションであり、大野自身がつくり手だ。

「クリエイションの世界って、言葉ですべてを語ることが難しい。だから直接その人に会って、人生観まで感じ取るようにしています。そうしないと、本当にやりたいことの核にたどり着くことは、絶対にできない」 

お金の扱いにも美学が宿る。

「関わる人がお金で嫌な思いをしていないか、すごく気になる」

予算の配分ひとつで現場は変わり、作品の行方も左右される。美しい予算設計もまた、作品の質を決める創作行為。証券営業で叩き込まれた数字感覚が結実する。

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オフィスに掲げられた標語。「アクロバット」という言葉には驚嘆や熱狂、熟練、機敏、軽妙、バランス、身軽さなどの意味を込め、妥協せず、いつも心躍る判断をすることを信条としている。

25年に独立した。動機はふたつあった。プロデューサーは作品の責任者。自ら会社経営することで全権責任者となり、さらなる高みを目指すこと。そして、映像業界そのものを豊かにすること。

父の会社、アクロバットフィルムを第二次創業するかたちで起業のハードルを下げ、1期目から広告、長編映画、MV、ライブまで、約50本をすべて自社で手掛けた。

「これまで出会った信頼するクリエイターと一生懸命やっていたら、その人たちも僕も一緒に成長し、結果に結びついてきました」

だからこそ出会いを大切にし、一つ一つの現場に全力で向き合ってきた。

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起業を決意した当時から、毎日綴っている3年日記。同じ日付の記録が縦に並んでいる。具体的な内容については、「僕の熱い部分が出まくっていてNGです(笑)」

金融知識を備えた万能型コンテンツプロデューサー。それが大野の掲げるアイデンティティだ。

「プロデューサーがお金をつくることができれば、クリエイターは余計な仕事をしなくていい。考える時間に当てられるし、プライベートも充実させられる」

大野自身も、その余裕の中でよりよい作品を生み出したいと願うクリエイターのひとりだ。いいものをつくるための環境を設計し、自らもその中で生きる。その循環が、彼の核にある。

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アクロバットフィルムが2018年、24年に獲得した国際エミー賞のノミネートメダル。24年はドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM パラリンピック」(WOWOW)がスポーツドキュメンタリー部門にノミネートされた。

展望を問うと、「日本でいちばんいいコンテンツをつくりたい」と迷いなく答えた。いま“世界”が近い時代にあるからこそ、まずは自国で最高の作品をつくることが先だと信じている。

「日本人全員が『これはすごい』と誇れるものをつくる。そしたら絶対、世界で勝てる」

映画、CM、MV、ライブ、グラフィック。ジャンルを横断し、仲間たちと日本を代表するコンテンツで世界を驚かす。その横顔は確信に満ちていた。

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PICK UP 

『IRIS OUT』第76回NHK紅白歌合戦 パフォーマンス
2025年末、第76回NHK紅白歌合戦で話題を呼んだ米津玄師による『IRIS OUT』の世界初歌唱パフォーマンス。スペシャルゲストとしてHANAが参加した。
『JANE DOE』ミュージックビデオ
米津玄師と宇多田ヒカルの共演という歴史的瞬間を美しく切り取ったMV。決して視線が混じり合うことのない静かな緊張感と切なさが漂う映像が、楽曲の感情を詩的に描き出す。

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PERSONAL QUESTIONS

大きな仕事が終わった後にすることは?

すぐに次のプロジェクトの準備や打ち合わせが始まります(笑)。旅行にも行きたいんですが、止まったら動けなくなりそうで、ゆっくりできればと思いながら走り続けています。

改めて勉強したいことは?

世界経済です。以前は毎日、株式市場を見ていましたが、最近またニュースが世界を動かす構造が面白くなってきた。数学も好きで、方程式を解く感覚はアートに近いと思うんです。

最近ハマっていることは?

ランニングと3年日記。日記は独立を意識してから書き始めて、目標と反省を毎日記録しています。自分がどう変わって、なにが変わらないのか。それを確認できるのがいいんです。

いま会いたい人は?

メッシと大谷翔平。僕のルーツが出てますね(笑)。どちらもひとつの道を極めて世界を驚かせている人。その集中力と覚悟に憧れます。いつか映像で関われたら最高ですね。