坂本ヤエカ
白金の静かな住宅街に、坂本龍一の気配がそっと息づく場所がある。「YAECA HOME STORE」内に誕生した「坂本ヤエカ」は、坂本が生前構想していた図書プロジェクト「坂本図書」の思想を受け継ぎ、2025年末、この場所が第二の拠点として静かに開かれた。
店内に足を踏み入れると、天井まで伸びる大きな本棚がまず視界を占める。そこに並ぶのは、坂本龍一が実際に所蔵していた本と同じタイトルの古書たち。小説や詩集、思想書、絵本までジャンルは多岐にわたり、彼の思考の軌跡をたどるような選書が続く。これらの本は自由に手に取り、読むことも購入することも可能。坂本図書の協力のもと、蔵書は定期的に入れ替えられ、訪れるたびに新たな出合いが生まれる流動的な本棚となっている。
耳を澄ませば、赤松音呂による作品「Chozumaki」が静かな響きを空間に添える。偶発的に立ち上がる自然音は、まるで音楽の余白のように漂い、読書の時間に柔らかな奥行きを与えてくれる。
併設された喫茶室では、サヴール洋菓子店のケーキとコーヒーを楽しみながら、本を片手にゆったりと過ごすことができる。庭に置かれたドイツ製ピアノは、坂本龍一が3歳の頃から弾いていた一台。「自然に返す実験」の一環として屋外に据えられ、静かな時間の流れを見守っている。
ここは古書店でも、カフェでもある。そしてそのどれにも収まりきらない場所でもある。本を開き、音に耳を澄まし、思考を巡らせる。そんな静かな時間の中で、坂本龍一の感性にそっと触れてみてほしい。