ナット
吉祥寺の古いアパートの一室に、ひっそりと灯る古道具屋がある。店の名は「ナット」。扉を開くと、そこには独特の風景が広がっている。
空間の中心に据えられているのは、大きな台。その上に、古道具や日用品、ハンドメイドの品々が布の上に並べられている。この陳列方法は、店主がかつて蚤の市で限られたスペースにできるだけ多くの品を並べようとしたことから偶然生まれたものだという。物が密度をもって集まりながらも、不思議と窮屈さを感じない。むしろ一つひとつの存在感が浮かび上がり、自然と視線が引き寄せられていく。
集められているのは、プラスチックやアルミなど、平成以降に一般化した素材を使った比較的近代の日本の道具たち。全面が白一色の日本製ルービックキューブ、旅館のゲームコーナーで見かけるスマートボール、箱だけが残ったドライバーセット…どこか見覚えがありながらも、普段は見過ごしてしまうような品が所狭しと並ぶ。
しかし、この店ではそれらが単なる懐かしい物としてではなく、置かれることで新しい意味を帯びてくる。用途や背景、時代の気配がふと立ち上がり、思わず手に取って眺めたくなる。まるで店主の私室に迷い込んだかのような親密な空間の中で、モノとの静かな対話が始まるのだ。
タイミングが合えば、店主がお茶を勧めてくれることもある。そんな何気ない時間もまた、この店の魅力のひとつ。日用品と古道具のあいだにある小さな物語を探しに、ふらりと訪れてみたい一軒だ。