今を遡ること23年前。日本の家電業界に突如として現れ、旋風を巻き起こしたブランドが「amadana」だ。登場するや否やデザイン性に優れたスタイリッシュな家電を次々と世に放ち、感度の高い人たちを虜に。新製品が発表されるたびにファッション誌やライフスタイル誌などのメディアでも紹介され、話題を集めた。
このamadanaが、今年「Music Products」と題したオーディオ製品を次々と発売する。第一弾として縦置きの「ワイヤレスFM クロックラジオRC10」と横置きの「ワイヤレスFM クロックラジオRC20」が登場。続いて、3月26日にはスピーカー内蔵レコードプレイヤー「PR30」が発売となった。
しばらく製品の自社開発を控えていたamadanaが攻勢に転じた今、創設者の熊本浩志がこれまでの軌跡を振り返り、今後の展開について語った。
「今は家電の分野でもデザインが悪いものを探すほうが難しいくらいデザインは大衆化しましたが、amadana設立当時はいわゆる工業製品がデザインによって語られる時代ではありませんでした。そんな時代にデザインコンシャスな家電を提案したブランドがamadanaだったんです」と当時を振り返る熊本。
ブランドを設立した2003年は、まだ高度経済成長の名残りがあり、大量生産大量消費かつ安価が正義だった時代。そんな当時の状況に対して、熊本は多くの人たちが疲弊しているのではないかと感じていたという。
「人々は別のところに価値や豊かさを求め始めているのではないかと思っていましたし、当時はライバル製品のスペックを超えるために競争しているメーカーばかりだったので、我々amadanaはそれとは異なる価値観で家電を選べるように選択肢を増やしたかったんです」
熊本は、amadanaのデザイナーにインテンショナリーズの鄭秀和を起用。洗練されたデザインに加え、素材に木材を使用するなど工芸品的な要素も盛り込み、日本のインテリアとも親和性の高い、これまでにない家電を次々と生み出していった。規模の経済が最優先される工業製品の分野においてはありえないことだったが、だからこそ面白がられ、多くのファンを獲得した。
しかし、その後、グローバル化の波によって、amadanaはビジネスモデルの軌道修正を余儀なくされる。それはちょうど従来の携帯電話がスマートフォンに変わっていった頃だった。
「時代の変化に合わせて、さまざまな業種とコラボレーションを行うなど、amadanaを自社開発が中心の会社からクリエイティブソリューションを軸にした事業体に変えていきました。例えば、中国や台湾でライセンスによって製品をつくったり、ビックカメラさんと共同でTAG label by amadanaをつくって専売を行ったり。ブランドを運用して収益をあげるようなビジネスモデルにシフトしていったんです」
そして、現在。日本には海外から多くの観光客が訪れるようになるなど、さらに時代が変化。amadanaも次のステージに向けて、新たな挑戦を始めている。
「これだけインバウンドで多くの方が日本を訪れるようになった今、日本になにを求めているかといえば、クリエイティブなことだと思いますし、食にしてもモノにしても世界の人たちからの評価が高い。特に東京は文化の成熟度が高く、海外の文化を独自にミックスできてしまうし、それがひとつの武器だと思っています。日本がこれまで以上に注目されている時代だからこそ、我々はamadanaの製品をグローバルなサプライチェーンにのせて世界に発信していきたいですし、そういう時代の空気を今は強く感じます」
これからは製造業から創造業へ変わることが重要だと話す熊本。
「創造業であることを強みとして活かしながら、日本の製品をグローバルのサプライチェーンにのせて世界に展開していく座組みが、amadanaだけではなく、多くの日本のメーカーやブランドにとっての生きる道だと思うんです。量産力ではグローバルメーカーに敵わないため、amadanaは日本のクラフトマンシップとこれまでにさまざまな業種との協業で培ったクリエイティブ力で勝負していこうと思います」
それを実現するため、amadanaは2024年7月、台湾のAcerグループに加入。これまで以上にグローバルに展開できる環境を手に入れた。そして、昨年12月に日本国内向けのモニター3機種を発表。amadanaの新章が幕を開けた。
2026年は前述した通り、「Music Products」と題したオーディオ製品に力を入れていく予定で、「ワイヤレスFM クロックラジオRC10」、「ワイヤレスFM クロックラジオRC20」に続き、スピーカー内蔵レコードプレイヤー「PR30」が発売となった。
「音が好きな人と音楽が好きな人は似て非なるものだと思っています。音にこだわる人がつくるオーディオ製品はケーブルにこだわったりして、それはそれで素晴らしいと思いますが、我々はもっとカジュアルに音楽を楽しみたい。だからMusic Productsと名乗っています」
世の中にはインターネットラジオや音楽配信サービスが広がっているが、「ワイヤレスFM クロックラジオ」も「PR30」も音楽を聴く姿勢として、それらとは一線を画すものだ。
「ワイヤレスFM クロックラジオ」はアナログ方式で、アンテナを伸ばして電波を拾い、ラジオ番組を聴く。
「スマートフォンが一台あれば、手軽にインターネットラジオが聴ける時代に、ラジオにスイッチを入れてアンテナを調整したり、周波数を合わせたりしてラジオ番組を聴く。我々はこのひと手間、不自由さゆえの豊かさをあえて大切にしています。PR30にしても同様で、蓋を開けてレコードをセットして針を落とす。この所作を行うことで音楽を聴くことができますし、針を落とした瞬間に自然とアルバムや楽曲にまつわる個人的な思い出が蘇ってくる。我々は効率化を追求した便利さよりも、音楽を聴くまでの主体的な時間を大切にしたいのです。それによって、音楽とより深く向き合えると思っていますので」
ちなみに「ワイヤレスFM クロックラジオ」は、ブルートゥースにも対応しているため、スマートフォンを介してインターネットラジオや音楽配信サービスを楽しむこともできる。スマートフォンのワイヤレス充電も可能だ。
「音楽が好きだから配信サービスでも聴きますし、レコードでも聴く。二分しているわけではなくて、共存しているんです。例えば、全自動マシンで淹れたコーヒーも飲みますが、ハンドドリップで淹れる時間や所作も大切にしたいと思う感じと一緒。嗜好性の高いものは、アナログ的なことも求める傾向にあると思います。音楽でいえば、特にEPレコードなんて一曲を聴くためだけにターンテーブルにセットして針を落としたりする。でも、それが楽しいし、同じ一曲を聴くにしても、配信サービスで聴く時とは不思議と感じ方が変わってくるんです」
「PR30」は、アンプとスピーカーを搭載したオールインワン仕様であることも特徴のひとつだ。
「我々は音楽をカジュアルに楽しみたいので、PR30さえあれば、レコードで音楽が聴けるようにしました。これなら気分によっていろいろな部屋で手軽にレコードの音を楽しむこともできますし。しかもスピーカーを本体の下部に設置することで、物理的な奥行きを確保できました。これによって高音やボーカルがしっかりと響き、音量を絞っても音が豊かです。また、音量をあげても基本的に音が割れることはありません。想定以上に良い音が出るので自分でも驚いているほどです」
今年はさらに「Music Products」として、CDプレイヤーやカセットプレイヤーなどを次々と発売する予定で、詳細の発表が待ち遠しい。
「amadanaは渋谷で生まれたブランドなので、音楽をはじめとするこのエリアで盛り上がっているカルチャーをプロダクトの形で世界に発信していきたいと思います」と熊本。
Acerグループへの参画によって、今後はより積極的にグローバルな展開を行うamadana。日本が誇るデザイン家電の雄が、これまで以上に世界中の感度の高い人たちを魅了していく。