【大地から浮くホテル】たった4本の柱で支える「砂漠のリゾート」。大胆すぎる設計思想に驚きの声

  • 文:青葉やまと
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砂丘の上に出現する、白い構造物。アラブ首長国連邦(UAE)で構想が進む「EQAホテル&スパ・ガーデンズ」は、いわば宙に浮くホテルだ。屋上には熱帯庭園とインフィニティプールを予定し、中東の砂漠建築に新たな風を吹き込む。

4本の柱で砂漠に浮かぶホテル

砂丘の稜線の向こうに現れるのは、まるで宙に浮かぶようにして横たわる白い構造物。地面との接点は、たった4本の柱だ。建築事務所サニナ・アーキ・クラブ(Sanina Arch Club)が描いたホテル構想、「EQAホテル&スパ・ガーデンズ」だ。

建物を地上高くに持ち上げる4本の柱は、彫刻を思わせる優美なデザインだ。機能的にもただの支柱ではなく、内部にはエレベーターや階段、設備系統を収める。

建築デジタルマガジンのアメージング・アーキテクチャーが紹介するこのプロジェクトは、まだ構想段階にとどまる。だが、その発想が面白い。建物全体を浮かせることで、直下の砂漠には手を加えずに済む。地形も動植物も、ほぼそのまま残す狙いだ。

大地を支配するのではなく、砂漠をほぼ手つかずのまま残し、風景と共生する。一見して奇をてらったようなデザインには、土地との共存の意味が込められている。

熱帯庭園からの眺望は「浮くホテル」ならでは

建物の頂に目を向けると、砂漠の乾いた風景とは対照的に、熱帯の緑が広がる。

屋上にはトロピカルガーデンが配され、中央にインフィニティプールが据えられる設計だ。計画では、バーやラウンジも備わる。プールに浸かれば、眼下に連なる砂丘の稜線を一望。砂漠に高々と掲げられたホテルだからこそ得られる、格別に贅沢な視界だ。

運営面でも独自の発想がある。スパゾーンは宿泊客だけでなく、外部から訪問するゲストにも開放できる設計となっている。壁の内側に閉じがちな高級ホテルとはあえて性質を変え、地域に開かれたウェルネスの拠点をつくろうという構想だ。

浮くか、潜るか

中東の砂漠地帯では近年、地形と一体化したラグジュアリーリゾートの構想が相次いでいる。

その先駆けとなったのが、2025年1月にサウジアラビアのヒジャーズ山脈で開業した「デザート・ロック」だ。イタリアの建築・デザインWebマガジンのデザインブームによると、紅海沿岸の大規模高級観光開発「レッド・シー・プロジェクト」の一環として建設された。

設計を手がけたオッペンハイム・アーキテクチャーは、ペトラ遺跡で知られるナバテア文明の岩窟建築に着想を得たという。断崖からせり出すヴィラに、岩盤に埋め込まれた洞窟のスイート。山肌と一体化したユニークな客室だ。

サウジアラビアの巨大開発「ネオム(NEOM)」でも、紅海北端のアカバ湾に面した天然オアシスにスパ&ホテル「エラナン」が計画されている。英建築デザイン誌のデジーンが2024年2月に報じた。

デザート・ロックは山肌に「潜る」ことで一体化し、EQAホテルは4本の柱で砂漠からあえて距離を取る。風景を壊さないという狙いは同じでも、2者はまるで逆の手法を選択した。

自然と向き合う設計哲学

もっとも、デザート・ロックがすでに開業しているものの、EQAホテルはまだ構想の段階にとどまる。中東では壮大な構想が頓挫した例もあり、残念ながらネオムも構想の見直しを迫られている。EQAホテルが現実のものとなるか、この先の展開が注目される。

EQAの設計チームは、本プロジェクトで「バランスのホテル(a hotel of balance)」とのコンセプトを掲げた。壮大さと軽やかさ、そして革新を目指すと同時に、自然への敬意を込める。相反する価値を一つの建物のなかに織り込む構想だ。

アメージング・アーキテクチャーは、この設計思想の本質を「レガシー志向の建築」であると表現する。華麗さを傲慢に誇示するのではなく、建物を自然の「延長」と捉える哲学だ。

大地に手を触れないと決めた設計者たちは、構造上の難題をあえて引き受け、建築が土地に何を残し、何を残さずにおくかという問いに向き合っている。

砂漠の上に静かに浮かぶこのホテルで彼らが形にしようとしているのは、大地に触れないことでこそ風景と共生できるという理念だ。資金力に物を言わせるイメージも根強い中東のリゾート開発の一角にありながら、あえて自ら設定した難題に設計チームは向き合おうとしている。

青葉やまと

フリーライター

1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。

青葉やまと

フリーライター

1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。