最近、都内でテスラの新型「モデルY」を見かけない日がない。昨年、テスラは非公表ながら1万台以上を販売し、「モデルY」はEVカテゴリーで堂々の販売No.1に輝いた。環七の交差点で右折待ちする「モデルY」、二子玉川ライズの平置き駐車場に並んで駐車している「モデルY」……。もはやテスラは、東京の街の風景だ。
マンション住まいでも成立する、テスラのEV生活
気になっていたのは、乗り手のライフスタイルだ。
EVといえば自宅充電が前提で、一戸建て向きのガジェットと思われてきた。事実、世田谷の住宅街では白い「モデル3」が庭先に停まっているのがお馴染みの光景。ところが最近、都内でテスラに乗っている層はマンション住まいが多い。とりわけ新型「モデルY」はその傾向が強くて、自宅充電ができない立体駐車場のユーザーさえ、普通に乗り回している。
なぜか。テスラ・スーパーチャージャーがあるからだ。250kWの高出力で、バッテリー残量10%から80%まで、ほとんどの拠点で30分以内に充電できる。スマホを眺めたり買い物を済ませて駐車場に戻るころには、もう十分走れる状態になっている。さらに新車購入者向けの無料利用キャンペーンも打って、「マンション住まいでも乗れるEV」という新しい常識を充電費込みで売り込んでしまった。クルマを売りながら、ライフスタイルの提案までやってしまう。いかにもイーロン、もといテスラらしい流儀だ。
弱点を潰し切った、“つくり直し”のようなモデルチェンジ
その「モデルY」が今回、かなりの磨きをかけてきた。外科手術でいえば患部を精密に特定した上で、メスを入れつつ骨格ごと組み直す。そのぐらいのダイナミズムがある。
まず足まわり。相変わらず硬い。思わず笑ってしまったものの、今回は、その硬さが意図されたソリッドさとして伝わってくる。足まわりの剛性が高められ、感応型アダプティブダンパーを得たことで、重心の高いSUVとは思えないほど洗練された身のこなしになった。
峠道でも上屋の重さを意識させず、コーナーをスムーズにトレースしていく。個人的には今回のモデルチェンジはこの足まわりに尽きると思っていて、それほどまでに「モデルY」のイメージを根っこから更新するベースの改良になった。
その足まわりがあって、次に静粛性が生きてくる。ホイールハウスの遮音を強化し、ドアの密閉性を高め、その上で遮音ガラスを組み入れ、オーディオのセッティングを入念に詰めた。特に低域の処理が巧みで、車体そのものをウーファーボックスに見立てた重心の低い鳴り方をする。乗り込んだ瞬間、静けさのカーテンが降りてくるような、一個上の高級性能にたどり着いている。
スタイリングも美しい。流れに磨かれた川石のように、面がなめらかに連続している。Cd値を追いながら視覚的な均質さを徹底的に追求する姿勢は、エンジニアのこだわりとデザイナーの審美眼が共鳴した結果だと思う。EVにした途端、洗車に行く回数が減ると言われるけど、「モデルY」は手洗いで時間をかけて洗っていたい。
インテリアだって寄り添ってきた。以前の「なにもないことが価値」というストイックさから一歩進んで、スピーカーもエアコン吹き出し口も巧みに隠しながら、異素材の質感や人工革のステッチで表情をつけている。まるで英国製のトレンチが、飾り気のない容の中に、かすかな柔らかさを忍ばせるようなさりげなさだ。---fadeinPager---
クルマに宿る、イーロン・マスクの執念と美意識
今回、熱海までこのクルマで走った。実感としては先代とはまるで別のクルマ。箱根の峠も含めて、「EVだから我慢」という感覚はほぼ消えていた。出先で充電に困らないインフラがあって、スマホが車両の鍵になる合理性の上に、数ミリ単位の偏執が積み重なって、このクルマは工業製品の域を超え、つくり手の体温まで帯びはじめている。
だからこの新型「モデルY」は、かつてないほどイーロン・マスクの匂いがする。弱点は個別に年次改良を入れる積み重ねと、「OSまとめて更新する」ようなテックファーストの一気呵成なモデルチェンジが、プロダクトの完成度を高めてる。一人の人間の執念とこだわりと美意識が、そのままクルマの個性として染み出してきている。
ああ、そうだ。トランプの片棒を担いでいたイーロン・マスクは、到底受け入れられない。政治的な言動も、その立ち位置もNOだ。それであっても、生み出すプロダクトの美しさを否定することは出来ない。このテスラという企業の面白さ、イーロンを中心としたハードコアなエンジニアリングの営みは、切り離すべきだ。イーロンが嫌いでも、彼のつくるものが人類を前に進めるなら、その果実は平等に降り注ぐ。それがテクノロジーの、無慈悲にも見える公平さなのだから。
今年中に日本での申請が予定されているFSD(フルセルフドライブ)は、現時点で他社の追随を許さないし、テスラがEV事業を縮小してでも進めようとしているAIやロボティクス、さらにはニューラルネットワーク研究やスペースXに至るまで、一気通貫に夢のような絵空事を現実に着地させようとしている。そしてそのダイナミクスとねじれごと、愛すべき一台。新型「モデルY」は、いまのテスラをそのまま体現している。
テスラ モデル Y
全長×全幅×全高:4,800×1,920×1,625㎜
モーター:フロント=交流誘導電動機/リア=交流永久磁石同期電動機
最高出力:フロント/リア 158 /220 kW
最大トルク:フロント/リア240 /350 Nm
走行距離:682km(WLTC)
駆動方式:AWD(デュアルモーター四輪駆動)
車両価格:¥6,476,000
テスラコール
TEL:0120-966-774
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