【愛おしすぎる子犬】長沢蘆雪の“ゆるカワ”ワールドが炸裂!「最後の江戸絵画まつり」で見逃せない、 64年ぶりの展覧会

  • 文:はろるど
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『春の江戸絵画まつり 長沢蘆雪』ビジュアル。前期と後期で大幅な展示替えが行われる。詳しくは展示予定表を参照。Photo:harold 

江戸時代中期の画家、長沢蘆雪(ながさわ ろせつ)の東京で64年ぶりの展覧会『春の江戸絵画まつり 長沢蘆雪』が、府中市美術館にて開かれている。伊藤若冲らと並び「奇想の画家」として評価される一方、愛嬌あふれる表現から「かわいい絵」の名手としても注目を集める。その奔放さと親しみやすさが同居する独自の画風に、改めて光を当てる。

蘆雪の個性を語る上で欠かせない「ラフ」とは?

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長沢蘆雪『唐子遊図襖(部分)』 個人蔵 前期・後期展示

「描き方」と「何を表現したのか」という視点から、蘆雪の魅力に迫る本展。冒頭では、師の円山応挙の作品も並び、その違いを見比べることができる。応挙の多くの門人の中で、蘆雪は師匠そっくりに描けた画家とされるが、線のやわらかさや造形の温もりには個性がにじむ。同じ虎でも蘆雪の描く姿はどこか引き締まり、一方で鶴ではとぼけた表情をしているように思える。主題に応じて自在に変化する筆致に、蘆雪ならではの表現が見てとれる。

「ラフ」という感覚もまた、蘆雪を語るうえで欠かせない。象徴的なのが、俳諧において哀感を帯びた存在として詠まれてきたナメクジを描いた『なめくじ図』だ。蘆雪はその這う軌跡を、濃淡のある一本の線でさらりと捉え、簡潔でありながら妙に生々しい存在感を立ち上げている。さらに、ただ一匹がぼんやりと前を向く『蛙図』も面白い。肩の力が抜けたような佇まいに、ゆるさと即興性がにじみ、「ラフ」の奥行きを実感させる。

小さな生き物や動物たちから感じる、命の気配

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『春の江戸絵画まつり 長沢蘆雪』展示風景 提供:府中市美術館 『映像で楽しむ「長沢蘆雪」』と題し、本展を企画した金子信久(府中市美術館学芸員)がYouTubeにて展示の見どころ語っている。

生き物たちを、愛おしく、心を宿すかのように描き出す点で、蘆雪は江戸絵画の画家の中でもひときわ異彩を放っている。『鶏親子図』では、餌をついばむひよこたちが鳴き交わすように群れ、『猫図』では吊り上がった目と小さな瞳が猫ならではの気まぐれさを巧みに伝える。さらに『鶏雛図』では、向き合う二羽が今にも言葉を交わしそうな気配すら漂う。いずれも観ていると親密な感情を呼び起こし、心もふっと和む。

木々や草花、鳥や動物たちを描いた『花鳥図屏風』にも目を向けたい。右隻には大きな岩と花を咲かせた薔薇の枝が広がり、左隻では水辺の上へ藤の蔓がのびやかに伸びていく。岩には雀がとまり、その向かいからは鼬がひょいと顔をのぞかせ、藤には五羽の燕が羽を休めている。ぱっと見の華やかさこそ控えめだが、こちらを見返す雀や燕の愛らしさは格別だ。飾り気のない、静かでやさしい小さな命の気配が、画面いっぱいに満ちている。---fadeinPager---

前期展示の見どころ「子犬の絵の歴史と蘆雪」で知る子犬の絵の特徴 

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長沢蘆雪『菊花子犬図』 個人蔵 前期・後期展示

江戸時代に子犬の絵が広まった背景には、中国や朝鮮からもたらされた作品の影響がある。そうした中で、応挙は狩野派などとは異なる、写実的でありながら愛らしい子犬を描いた。そして蘆雪もまたこの潮流に応え、おそらく応挙以上に多くの子犬図を手掛け、表現の幅を広げていく。本展を企画した金子信久(府中市美術館学芸員)によれば、そのタイプは応挙風の写実的なものから、かたちを崩し、ラフな線で捉えたものなどまで、大きく4つに分類できるという。

蘆雪の子犬図の白眉とされる『菊花子犬図』も、思わず頬がゆるむ一作だ。ゆるやかなフォルムの子犬たちが、上に折り重なったり、押し合いへし合いしながら噛みついたりと、それぞれ異なるしぐさでひと塊になっている。一方で目を凝らせば、墨線は繊細に引き分けられ、そっと添えられた黄色の菊がやわらかな彩りを加える。おおらかさと緻密さが同居する、その絶妙なバランスの中で、子犬たちのにぎやかな情景が立ち上がってくる。

蘆雪の代表作として名高い串本・無量寺の竜と虎の襖絵も公開!

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長沢蘆雪『虎図襖(部分)』 無量寺・串本応挙芦雪館、重要文化財 後期展示

最後に展示替えと混雑状況について触れておきたい。本展は前期・後期で大幅な展示替えが行われる構成となっている。前期の見どころは、蘆雪の描く愛らしい子犬たち。一方、後期には和歌山・無量寺に伝わる『竜虎図襖』が公開される。蘆雪の代表作として名高いこの襖絵は、いまにも画面を突き破らんばかりの虎の迫力が圧巻でありながら、ユーモラスで親しみを感じさせる表情も印象に深い。力強さと愛嬌が同居する、蘆雪芸術の真骨頂といえる。

3月14日に開幕した本展は、早くも高い注目を集め、連日多くの来場者で賑わいを見せている。訪問前に確認しておきたいのが、同館公式サイトで公開中の「混雑予想カレンダー」。現在の来場状況をもとに、混雑が見込まれる日時が可視化されていて、鑑賞計画の指針となる。長年、春の恒例企画として親しまれてきた「春の江戸絵画まつり」も、本展をもってファイナルを迎える。巡回なし、府中の地で培われてきたこの企画の集大成を、見逃さないようにしたい。

『春の江戸絵画まつり 長沢蘆雪』

開催期間:開催中~2026年5月10日(日)
前期:3月14日(土)〜4月12日(日)
後期:4月14日(火)〜5月10日(日) ※作品の大幅な展示替えを行う。
開催場所:府中市美術館
東京都府中市浅間町1丁目3番地(都立府中の森公園内)
開館時間:10時〜17時 ※展示室入場は16時30分まで
※4/25~5/6は18時まで開館 入場は17時30分まで
休館日:月 ※5/4は開館
観覧料:一般 ¥800
www.city.fuchu.tokyo.jp/art/tenrankai/kikakuten/2026_Rosetsu.html

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。