ニューヨーク
ニューヨークを代表する景色と言えば、マンハッタンの摩天楼だろう。新旧交えて立ち並ぶ高層ビルのなかでもひときわ目を引くのは、鉛筆のようにスリムな形状を持つスタインウェイ・タワー(正式名称:111 West 57th Street)だ。世界で最も細長い超高層建築として知られており、ニューヨークを代表するランドマークとなっている。
始まりは1世紀以上前。ニューヨークの富が築いた高層ビル
ニューヨークに初の高層ビルが誕生したのは 1890 年。1910 年~1930 年代には黄金期を迎え、当時欧米で流行していたアール・デコ様式を取り入れた高層建築が次々と誕生した。幾何学的デザイン、豪華な装飾に加え、モダニズムとの融合がその特徴とされ、アメリカの富を象徴するものだった。クライスラー・ビル、エンパイア・ステート・ビルなど、黄金期に建設された有名な高層建築を見ると、ほとんどがウェディングケーキのような階段状のシ
ルエットを持っていることが分かる。これは光が歩道に届くように高層ビルにセットバックを設けるという、ニューヨーク市のルールに沿って開発されたためだ。このルールが、現在のニューヨークのスカイラインを形づくった歴史的要因とされている。
最新技術でつくられた極細高層ビル 伝統的特徴を維持
スタインウェイ・タワーは、高さ 435 メートルの超高級コンドミニアムとして2021 年に完成した。ニューヨーク屈指の超高層建築であると同時に、幅と高さの比率が約 1:24 という世界で最も細長い超高層ビルとして知られている。最新技術を活用し限界に挑戦した建築だが、実はニューヨークの伝統的な超高層ビルに息づく職人技、歴史、哲学へのこだわりが詰まった建物でもある。スタインウェイ・タワーは、正確には新築ではない。建物の基部には、1925 年に名門ピアノメーカー、スタインウェイの「スタインウェイ・ホール」という歴史ある建造物が保存されており、このホールの改修という形で建設された。デザインを担当したのは、ニューヨークに拠点を置く、SHoP アーキテクツ。タワーの東西のファサード(外観)に、テラコッタ、ガラス、ブロンズの細工を施しており、歴史的なニューヨークのタワーが持つ質感、素材感、細部へのこだわりを再現している。
タワーは北側が高く、南側が低くなるようセットバックが多重化されており、形状は、階段状ではなく、羽のようなシルエットになっている。高くなるほど幅が狭まるため、頂部はほぼ線状。下から見上げると空に消えていくようなデザインであることから、「天国への階段」というニックネームが付いている。セットバック部分は、東西ファサードにそびえるテラコッタ装飾の各柱の頂部に、装飾を配置する場としても機能。古典的なタワーの伝統に則ったこの手法により、建物の統一感を出している。
黄金時代へのオマージュ 生き残るアール・デコ
タワーの設計者は、可能な限りマンハッタンの戦前の黄金時代を彷彿とさせる要素を取り入れようと考えたとデザイン雑誌「AD」に述べている。フィナンシャル・タイムズ紙は、アール・デコは都市のスカイラインと私たちの潜在意識のなかで生き残っており、簡単に消えることはないと説明。最先端の技術を用いた一見最も現代的かつ超スリムな高層ビルでさえ、アール・デコへのオマージュをささげていると述べている。土台となった「スタインウェイ・ホール」だが、ニューヨーク市ランドマーク保存委員会から保存対象として指定を受けており、高層化に伴い修復工事が施され、内部も美しく生まれ変わっている。最新技術と伝統が共存するスタインウェイ・タワーは、建築愛好家なら一度は訪れてみたい場所だ。
Webライター
早稲田大学第一文学部卒業。レコード会社に勤務した後に渡米し、コミュニケーション学の修士号取得。米ノースウエスト航空機内誌の編集を経て、日本航空の機内エンターテイメントの選定買付に携わる。夫の転勤で通算9年の東南アジア滞在後、帰国して世界のニュースを紹介するライターに。現在は関西の片隅で、仕事の合間にフランス語学習に奮闘中。
早稲田大学第一文学部卒業。レコード会社に勤務した後に渡米し、コミュニケーション学の修士号取得。米ノースウエスト航空機内誌の編集を経て、日本航空の機内エンターテイメントの選定買付に携わる。夫の転勤で通算9年の東南アジア滞在後、帰国して世界のニュースを紹介するライターに。現在は関西の片隅で、仕事の合間にフランス語学習に奮闘中。




