伝統を愛し、敬意を払いつつ、最新のダンヒルを創造するサイモン・ホロウェイ【2026年注目のデザイナー&ディレクター】

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    かつてないほど活発にファッション界が動いている2026年。誰がどのブランドに移り、どのようなコレクションを発表したのか? 注目のデザイナー、ディレクターたちの最旬コレクションとともに、彼らのクリエイションを紐解く。

    2026年、ファッション界において、激動とも言える時代が到来した。デザイナー、ディレクターの交代が続く中、各メゾンのクリエイションは日々更新され、伝統と革新が交差する新たな世界が生まれつつある。今回は、各ブランドの服づくりを担うデザイナー、クリエイティブディレクターたちを紐解き、いま手に入れたいアイテムを紹介。 彼らが生み出す“新たな伝統”を見逃すな。

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    サイモン・ホロウェイ

    キングストン大学で学び、ラルフ ローレン、アニオナなどで要職を歴任。英国スタイルとデザインコードに精通し、時代を超えた英国らしいコレクションを生み出す。ジェームス・パーディ・アンド・サンズのクリエイティブ・ディレクターを経て、2023年よりダンヒルのクリエイティブ・ディレクターを務める。 

    2015年 アニオナ クリエイティブ・ディレクター就任
    2020年 ジェームス・パーディ・アンド・サンズ クリエイティブ・ディレクター就任
    2023年 ダンヒル クリエイティブ・ディレクター就任

    英国の矜持を再定義、叛逆の美を描く

    英国クラフツマンシップとエレガンスの代名詞であるダンヒルは、1893年にアルフレッド・ダンヒルが創業。2023年にクリエイティブ・ディレクターに就任したサイモン・ホロウェイは、自身の豊かな経験をもとにその歴史とDNA に敬意を払い、クラフツマンシップとマスキュリンなエレガンスをさらに強化している。

    彼が手掛ける26年春夏コレクションは、英国独自の「二面性」がインスピレーション源だ。ウィンザー公を思わせる洗練されたドレスコードに、ブライアン・フェリーなど英国ロックアイコンたちがもつ退廃的で反抗的な優雅さを融合。

    特にメゾンの伝統である自動車文化から生まれたカーコート、シアサッカーやリネンを用いたテーラードが目を引いた。なかでもウールとシルク混紡のシアサッカーを用いたセットアップは、構築的なシルエットにリラクシングな要素を内包。シーズンテーマである着こなしの「二面性」を、優雅さと気楽さというふたつの側面で美しく体現している。

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    ジャケットとパンツは、ドライで涼やかな肌触りとシャリ感を味わえる、ウールシルクのシアサッカー素材。夏の定番素材であるコットンのそれとは異なるハリのある生地が、ダンヒルらしい英国的シルエットをシャープに描き出す。ポップな色づかいとの「二面性」を実感したい。ジャケット¥410,300、パンツ¥125,400、シャツ、タイ(ともに参考商品)

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    「私にとってテーラリングは、身体と対話するもの」

    老舗ダンヒルで、才能を余すところなく発揮しているサイモン・ホロウェイ。2026年1月、AWコレクションを発表したばかりのミラノで特別なインタビューの機会を得た。新作のラインアップを披露したばかりの彼に、ダンヒルでのクリエーションについて話を聞いた。


    ──英国紳士の伝統や遊び心を感じさせながらも、非常に現代的なコレクションをつくり上げていらっしゃいます。こうしたダンヒルのクリエーションを通じて、どのようなメッセージを伝えようとしていますか。

    サイモン・ホロウェイ(以下、ホロウェイ) ダンヒルの各コレクションは、130年にわたる歴史的遺産を再構築しながら語るものです。ダンヒルは、自動車に関するアイテムを基盤とする総合的なライフスタイルブランドとして誕生しました。当時のダンヒルは、車そのものに関わっていました。ラゲージや内装のレザー、金属製のダッシュボードやアクセサリー、そしてもちろんワードローブも含めてです。もともとダンヒルはスポーツ・テーラーとしてスタートし、顧客一人ひとりのためのビスポークとしてすべてを扱っていました。そこが衣服ブランドとしての基盤であり、レザーグッズやハードラグジュアリーへとつながる重要な要素でもあります。

    その後1920~30年代のアールデコ期、ダンヒルはデザイン・製品設計において非常に精力的な時代を迎えます。これはダンヒルというブランドの本質を形づくる上で非常に刺激的な要素となりました。20世紀後半には洗練されたオーダーメイドのテーラリングやイブニングウェアへと発展し、1980年代にはブレザーをはじめ優れたジャケットの代名詞として知られるようになります。こうした総合的な歴史が、ダンヒルのコレクションの源泉です。

    私たちは常に、オリジナルのカーコートやドライビングジャケットに着想を得たアウターウェアを提案し、それはフットウェアにも展開されています。もちろんフォーマルテーラリングも揃えています。私自身、ビスポークに携わる職人たちに感銘を受けています。手作業による高度な職人技、素材開発の意義、そしてもちろん 1960年代のトルーマン・カポーティの有名なタキシードへのオマージュも常に反映されています。

    これはシンプルなブラックタイから、ベルベットのジャケットやコートを通した遊び心のある表現、クラシックへの興味深いアレンジまで、あらゆるイブニングウェアに影響を与えています。つまり各コレクションは、毎シーズン異なる方法で、異なるファブリックストーリーで、異なるキャラクターで、こうしたムードや瞬間すべてを参照しているのです。その根底には、英国生地に対する徹底的な研究開発が軽やかに構築され、常に現代的な視点で服に反映されているのです。

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    ウール、シルク、リネンという三種混紡素材。やわらかな着心地と適度なハリ感、パッと目を引く鮮やかな色づかいとトラディショナルな品格が絶妙に共存し、豊かな「二面性」を表現。ジャケット¥435,600

    ──あなたのコレクションには、ブランドへの深い敬意を感じます。

    ホロウェイ ダンヒルの歴史には深い敬意を抱いています。サヴィル・ロウには伝統を専門とする美しいテーラーがあり、ロンドンで働く多くの素晴らしいデザイナーがいますが、ダンヒルは、唯一無二の英国クラシックハウスです。ダンヒルを守り、高め、発展させることは、私にとって非常に重大な責任だと考えています。

    私がダンヒルに抱く理想は、コレクションを見た時に「これこそ本来あるべき姿だ」と思えること。いま見ても「昔からこうあった」と感じさせること。もちろん現実はそうではないので、これは修正主義的な歴史の復元作業とも言えるでしょう。そして当然ながら、敬意を払いつつ、同時に静かな革新性も感じさせる形でブランドを進化させていくことです。

    ──ジェンダーをめぐる意識が大きく変わっている現在ですが、コレクションからは男性ならではの服の楽しさを強く感じます。「男性だからこそ」と感じることはありますか。

    ホロウェイ ダンヒルのユニークさは、ファッションそのものとは少し距離を置いた位置にある点だと思います。ファッションがジェンダーレスでニュートラルになっていく一方で、ダンヒルはより普遍的で時代を超えた領域に存在している。それは、長年にわたるマスキュリンなテーラリングの伝統の上に築かれた、独特の男性的な世界です。ある意味で他とは逆行することが、結果として独自性を生み、確固たるエレガンスとして顧客に伝わっているのだと思います。

    それは誇りや男性らしさではありますが、私たちのアプローチはあくまで現代的で感受性のあるものです。時代遅れの男性像に閉じこもることはありません。そのバランスの中で美しさを見つけることが、私の仕事だと思っています。

    ──ダンヒルを手がけて4シーズンが経ちました。クリエイティブディレクションにおいて変化したことはありますか。

    ホロウェイ 最初のコレクションでは、ダンヒルの長い歴史という芸術を再解釈してデザインしましたが、そのアプローチは変わっていません。当初、一緒に働く人々に説明したのは、一貫性をもって人々に寄り添い、毎シーズン新たな驚きで喜ばせたいということでした。つまり意図的に反復的で、一貫性を保つこと。最初のシーズンに選んだ生地や形の中には、5シーズン経った今もコレクションに残っているものがあります。

    サイクルを緩やかに、スローダウンさせること。革製品にも同じアプローチを適用し、シーズン性をほぼ排除しました。半年ごとに新作バッグを急いでリリースする代わりに、コレクションに時代を超えた価値と品質を創出したいと考えたのです。生地や色の情熱といった新たな要素は加わるかもしれませんが、 ダンヒルの製品——スーツであれ美しいジャケットやコート、あるいは週末用の素晴らしいバッグなどであれ——に投資するお客様に確信を持っていただけるよう考えました。

    その製品が常に存在し続け、1シーズンで消え去ったり使い捨てになったりしないこと。ファストファッションとは正反対の存在です。職人技と高品質な素材、美しいディテールを称えるスローファッションです。クローゼットにしまい、5年後に出しても新鮮さを保ち、世代を超えて受け継がれ、後世でも愛され続けるような品々を創り出すことに、私たちは情熱を注いでいます。

    ──過去の人物のスタイルから着想を得ることも多いですが、2026SSではブライアン・フェリーやチャーリー・ワッツが登場しました。その背景を教えてください。

     ホロウェイ メンズウェアの世界で、私は男性の人物像に興味があります。ダンヒルの男性像は決して一人ではありません。常に様々なタイプの男性たちの異なる側面を表しています。

    英国には多くの文化的アイコンが存在します。貴族であれ、卓越した音楽家であれ、偉大な俳優であれ、それぞれのキャラクターには驚くべきスタイル感覚とワードローブが結びついています。私が探求したいのはまさにその点です。

    例えば2026SSシーズンは、チャールズ国王とブライアン・フェリー、チャーリー・ワッツという、非常に似たワードローブを持つ三人の「王」の対比をテーマにしました。一人はイングランドの王、もう一方はロックンロールの王、というように。どちらも時代を超えたエレガントなワードローブにアクセスできるという、非常に英国的な概念です。そして両者とも、全く異なる方法でそれを実現しているのです。

    それぞれ時代を超えてエレガントですが、その着こなし方は全く異なっていました。チャールズ国王は外交的な着こなしをし、チャーリー・ワッツ、ブライアン・フェリーはまったく異なる態度でそれを着こなしていました。ある意味で、着ていると服は違って見えますが、実際には非常に似ているのです。

    私は、この矛盾をこのコレクションで表現したかったのです。ところで、 いま流れているのはブライト・フェリーのサウンドトラックで、彼の最新作から抜粋したものです。私はこの曲が大好きです。

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    創業者、アルフレッド・ダンヒルの名を冠した「アルフレッド40」は、ビジネスに必要なアイテムをすべて持ち運べる、美しく仕立てられた格調高いブリーフケース。独立した2つのコンパートメントは整理しやすく、熟練した職人による精緻な手作業により制作されている。バッグ(W40×H28×D13cm)¥654,500

    ──インスピレーションの源について教えてください。

    ホロウェイ 一つだけを挙げることはできません。実際にたったひとつのものごとからインスピレーションを得ることは非常に稀です。ダンヒルのデザインプロセスは、最初は感覚的なものから始まり、時間をかけて徐々にストーリーを構築していきます。そして非常に早い段階から、イングランドやイタリアの生地工場と協議を始めます。私たちはこれらの職人的な工場と密接に連携し、アーカイブを精査して美しい生地の参照例を見つけ出します。それらをより軽量に再創造し、現代的な感覚に仕上げているのです。

    アーカイブ参照資料から一枚のヴィンテージ生地を見つけ出し、 そこから次第に大きなものへと発展し、その周りに物語を紡いでいくこともあります。まるで雪玉が坂を転がり落ちるように、どんどん大きくなり、最終的に一室に収まるコレクションとして完成するのです。

    いま流れている音楽は映像がないのに、すごくクールな響きがあります。80年代のブライアン・フェリーを彷彿させつつ、繊細な手法で仕上げられていて、すごくインスピレーションを受けるんです。いま観ているスパイドラマシリーズ——『ジャッカル』であれ『ナイト・マネージャー』であれ——エディ・レッドマンやトム・ヒドルストンといった素晴らしい英国俳優たちが出演している作品群は、どれも本当に刺激的です。必ずしも彼らの正確な衣装そのものがインスピレーションの源というわけではありません。むしろ、その雰囲気や、あらゆるものに漂うネオフィルムノワール的な要素に強く刺激を受けています。時には、ヴィンテージのジャケットで、サイズが完璧に合わないものを見つけることもあります。でも、例えば襟のデザインがクールだったりして、そこに何か新しいものへと昇華させたい要素があります。インスピレーションは実に様々な場所から湧き上がるものですね。

    ──最後になりますが、2026SSで反響の大きかったルックを教えてください。

    ホロウェイ 主に二つ、いや三つあると思います。クライアントが特に反応するのはスエードやレザーといったアウターウェアですね。エントリーではなく非常にラグジュアリーな提案で、素晴らしい工場と密に連携しています。私たちの歴史的背景ゆえ、おそらくそこに本質的なものが宿っているのでしょう。カットや仕上げのディテールはもちろんフィット感、革やスエードの色味にも力を入れています。フランスなど特定のタンナーから調達していますが、こうした研究と細部へのこだわりが、最終的にクライアントから高く評価されているのだと思います。

    また、スプリング コレクションで特に好評だったのはスタイリングです。例えばクラシックなネイビーのブレザーにグレーのパンツを合わせつつ、サングラスでクールに若々しい印象を加える。若々しいと言うのは不適切な表現かもしれませんが、年齢に関係なくクールに見えるという点ですね。ブライアン・フェリーが非常にクラシックな服を着ながらも、クールな要素のエネルギーをまとっていたという考え方に通じています。私はこのツイストが大好きで、日本の顧客は誰よりもこれを理解していますね。

    3つ目は、イブニングのスモーキングジャケットのようなアイテムでした。レッドカーペットで多くの俳優が着用していました。ドウェイン・ジョンソンはじめ、多くの男性がオーク・グールディングを欲しがっていました。ロンドンの英国ファッションアワードでも話題になり、大きな関心を集めました。顧客も熱心で、 セールス担当者に「いつ入荷するの?」とメッセージを送ってくるほど、非常に高い関心が寄せられました。本当に興味深いことです。ダンヒルのお客様たちはエレガントなアイテムにも、ラフなアイテムにも反応しますが、いずれにしても最も洗練されたものに反応する傾向がありますね。

    ──興味深いお話し、ありがとうございました。これからの活躍にも期待しています。

    ●ダンヒル(ダンヒル☎0800-000-0835)

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