【京都国立近代美術館で開催】「加守田章二とIM MEN』展、静かなる対話の軌跡を辿る

  • 文:小長谷奈都子
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会場では、加守田作品から着想を得た9つのシリーズを、テキスタイルとともに展示。

京都・岡崎の京都国立近代美術館で開催されている展覧会『加守田章二とIM MEN』は、工芸とファッションという異なる領域が交差する試みだ。陶芸家・加守田章二の作品と、イッセイ ミヤケのメンズブランド、アイム メンによる衣服が、時代や分野を超えて静かに呼応する。

2021年にスタートしたアイム メンは、イッセイ ミヤケの「一枚の布」という思想を現代的に更新しながら、ものづくりの可能性を探るブランド。今回の2026年春夏コレクションの着想源となったのが、加守田章二の造形世界である。

加守田章二(1933–1983)は、日本の陶芸史において異彩を放つ存在だ。大阪に生まれ、京都で陶芸を学び、益子や遠野を拠点に制作を展開。縄文的とも形容される荒々しい土の表情、緊張感を帯びた造形、そして緻密に計算された紋様が特徴で、その作品は見る者の感覚を揺さぶるオーラに満ちている。

 

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コレクションの核となる「ウロコモン」シリーズ。紋様や質感、立体感を丹念に布に落としこんでいる。

 

「綺麗とか気持ちいいというより、少しゾワッとするような感覚に惹かれました」と語るのはデザイン/エンジニアリングを担う河原遷。加守田の作品に触れたとき、そこに既存の美意識とは異なる別の基準を見出したという。「イッセイ ミヤケが積み上げてきた工芸的とも言える服づくりと、素朴で力強く、それでいて整理された美しさには、どこか通じるものがあると感じました」

とはいえ、陶器と衣服は本来まったく異なるものだ。単純な引用ではなく、表情や色彩、とりわけマットな質感に着目し、それを布へと翻訳することで、作品のエッセンスをすくい取ろうとした。

「2026年春夏コレクションのタイトルは『ダンシング テクスチャー』。ひとつひとつのテクスチャーに立体感があり、どこか動いているように感じられることから名付けました。ものづくりって、集中するとゾーンに入る感覚があると思うんですが、それはダンスのように、音に合わせて体が自然に動く感覚に近い。その“踊るように作る”感覚を、加守田さんの作品から強く感じました」

さらに、「陶芸の世界ではよく知られた存在でありながら、一般にはまだ広く知られていない。その魅力に触れるきっかけになればと考えています。ファッションと工芸、双方の入口から新しい出会いが生まれることを期待しています」と続ける。

 

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河原が「この服を着たい」と感じ、コレクションの起点となった一着。先染めのストライプ生地にオリジナルのデジタルプリントを重ね、かすれやゆらぎを表現した。

会場では、2026年春夏コレクションを象徴するピースと、インスピレーション源となった加守田作品が対話するように並ぶ。なかでも「ウロコモン」はコレクションの核となるシリーズで、『彩陶壺』(1971)の紋様や質感を、ボンディングオパールという手法で表現。マットな表面感を再現するために、約70種に及ぶ素材の組み合わせが試されたという。また、「カーヴィネスシャツ」は『壺』(1978)に見られる、くっきりと浮かび上がるストライプ状の色彩から着想を得たもの。単に柄や色を写し取るのではなく、造形そのものを衣服へと取り込んでいる点にも注目したい。

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マットな地と白い波模様のコントラストが際立つ『彩色壺』(1975)をもとにしたシリーズ。8種類の糸を使い分け、質感や色味、土の粒子が光に反射する様まで引き出している。

 

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真俯瞰のフォルムや、紋様を平面へと展開したパターンなど、土と向き合い続けた加守田の姿勢に寄り添うように、多様なアプローチを重ねたコレクションとなった。
 



そのテキスタイルを支えたのがテキスタイルデザイン/エンジニアリングの小林信隆である。「加守田さんのものづくりに触れて、そのエネルギーを自分たちでも体現したいという思いが強くありました。質感や色彩以上に、制作に向き合う執着のような力に惹かれたんです」。京都や滋賀、岡山の工房を巡り、職人とともに試作を重ねたプロセスは、これまでのやり方を一歩踏み越えるものだったという。

その素材を衣服としてかたちにしたのがデザイン/エンジニアリングを板倉裕樹だ。加守田作品に見られる、点対称の紋様が器を取り巻くように展開される構成や、造形と紋様が響き合う関係、幾何と有機が重なり合う多様な表現に着目。そこから得た発想をもとに、モチーフから形を立ち上げたり、外形から導いたりと、幅広い表現へと展開した。

 

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約20年にわたる作陶のなかで独自の表現を切り拓いた加守田章二。本展は、その名品を鑑賞できる貴重な機会でもある。

 

一方、京都国立近代美術館の主任研究員・大長智広は、加守田の制作についてこう語る。「プロセスの各段階でどのような手を加えるかが明確に設計されており、偶然に委ねるのではなく、完成像を見据えて進められている。歪みさえも前提として捉え、そこにどう介入するかまで含めて構想されている点に、確かな技術と意志がある」

さらに、自然や古典から学びながらも、それを単に引用するのではなく、自らの視点で読み替え、造形と装飾の関係として再構成している点にも特徴がある。「作品に見えているのは原典ではなく、加守田自身の解釈──いわば“彼の眼差し”です」と大長は語る。


こうした姿勢は、アイム メンの今回の試みとも深く響き合う。対象をそのままなぞるのではなく、自らの解釈を通して異なる素材や構造へと翻訳していく。そのプロセスに通底しているのは、ものづくりの本質に向き合おうとする強い意志である。本展は、つくり手とそれを受け取る人とのあいだに新たな関係を立ち上げ、その先に広がる可能性を静かに示している。


「加守田章二とIM MEN」

京都国立近代美術館1階ロビー
〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町26-1

期間:3月28日(土) − 6月21日(日)

https://www.momak.go.jp/

※IM MENデザインチームと京都国立近代美術館研究員によるギャラリーツアーを下記日時で開催予定。
4月12日(日)、5月9日(土)、5月17日(日)
各回14時から30-40分程度
予約不要