いま注目すべき腕時計をデザインの視点から切る、雑誌『Pen』で好評連載中の「並木教授の腕時計デザイン講義」。今回のテーマは「厚さ10㎜以下の薄型パーペチュアルカレンダー」。知性とエレガンスを内に秘めた、デイリーに使いこなす複雑機構“パーペチュアルカレンダー”に注目!

機械式時計の複雑機構は、長らく厚みと切り離せない存在であった。パーペチュアルカレンダーはその筆頭格。大小の月や閏年を自動的に判別し、1世紀にわたって修正を必要としないこの機構は、数百の部品が幾層にも重なる精緻な構造を持つ。そのためケースは必然的に厚くなり、重厚さこそが複雑時計の威厳とされてきた。
だが近年、この常識が鮮やかに書き換えられている。設計技術や工作精度の飛躍的な向上により、ケース厚が10㎜を切る薄型パーペチュアルカレンダーが次々と誕生しているのだ。複雑機構と薄型化という、一見相反する要素が見事に両立され始めたのである。
この変化がもたらすのは、単なる“記録更新”という技術競争の成果にとどまらない。薄型化されたパーペチュアルカレンダーは、これみよがしに誇示するための道具でも、コレクションケースにしまって眺めるだけの特別な存在でもない。袖口にすっと収まり、オフィスから週末のレストランまでデイリーに使いこなす相棒となる。外見は端正なドレスウォッチの佇まいでありながら、その内部には悠久の時を刻むインテリジェンスを秘める。静かな気品と奥行きを備えた、現代的なエレガンスといえるだろう。さらにスポーツウォッチの構造を採るモデルであれば、アクティブな場面にも平然と寄り添ってくれるはずだ。
技術革新がもたらした複雑時計の実用化は、文化的な解放でもある。重厚さを捨てて軽やかに時を纏う選択は、知性を備えた大人にこそふさわしい。
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1.VACHERON CONSTANTIN(ヴァシュロン・コンスタンタン)
トラディショナル・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー
ケース厚わずか8.43㎜という驚異的な薄さの中に2100年まで調整不要な永久カレンダー機構を収めた。超薄型「Cal.1120 QP」を搭載することで、複雑機構でありながらも外観は端正。メゾンの伝統的なドレスウォッチの美学を崩すことなく、高度な機構を静かに共存させた。シャツの袖口に自然に収まる薄さは、日常のビジネスシーンでこそ真価を発揮する。
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2.AUDEMARS PIGUET(オーデマ ピゲ)
ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー
ラグジュアリースポーツのアイコン「ロイヤル オーク」に、パーペチュアルカレンダー機構を搭載した自社製「Cal.7138」を組み込み、ケース厚を9.5㎜に抑えた。スポーツウォッチとしての力強い造形を保ちながら、複雑機構を高次元で融合させている。5つの特許を保有するメカニズムにより、すべての表示をリューズのみで調整可能。まさに、デイリーに使える複雑時計の到達点だ。
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3.JAEGER-LECOULTRE(ジャガー・ルクルト)
マスター・ウルトラスリム・パーペチュアルカレンダー
厚さ9.2㎜のスリムなケースに収められたのは、約70時間のロングパワーリザーブを誇るマニュファクチュール製「Cal.868」。週末に外していても、週明けに時刻を合わせ直す必要はない。カレンダー表示とムーンフェーズはケース側面のシングルコレクターで調整可能。整然とした表示と実用性を兼ね備えた設計は、ジャガー・ルクルトらしい技術力を静かに物語る。

並木浩一
桐蔭横浜大学教授/時計ジャーナリスト
1961年、神奈川県生まれ。1990年代より、バーゼルワールドやジュネーブサロンをはじめ、国内外で時計の取材を続ける。雑誌編集長や編集委員など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。ギャラクシー賞選奨委員、GPHG(ジュネーブ時計グランプリ)アカデミー会員。著書に『ロレックスが買えない。』など多数。
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