東京都庭園美術館で開催中の『建物公開2026 アニマルズ in 朝香宮邸』は、日本を代表するアール・デコ建築として知られる本館の魅力を紹介する、年に一度の建物公開展。今年は「アニマルズ」をテーマに、旧朝香宮邸にゆかりのある思いがけない動物たちに着目し、その意匠の背景を読み解いている。
かつて数多くの動物が飼育されていた旧朝香宮邸
朝香宮鳩彦王・允子妃の自邸として1933年に竣工した旧朝香宮邸、すなわち東京都庭園美術館・本館。主な部屋の内装をアンリ・ラパンやルネ・ラリックらの芸術家が手がけ、全体の設計を皇室建築を担った宮内省内匠寮が担当している。その朝香宮邸には、白孔雀や鶴といった鳥類をはじめ、ドーベルマンやシェパードなどの犬、さらにチンチラ兎などの多様な動物が飼育されていた。カナリヤと熱帯魚については、ベランダで飼われていたことも分かっているという。
本館の室内装飾に、鹿や魚といった動物のモチーフが用いられていることは、あまり知られていない。たとえば神話の楽園世界のような空間が広がる、大客室の壁面の装飾パネルだ。生い茂る木々やアーチ状の構造物などとともに、ライオンの壁泉や水を飲む鹿が描かれ、牧歌的な雰囲気が醸し出される。また大食堂の壁画にも、池に白鳥や黒鳥が泳ぐ様子が表され、後景の壁泉の周りにはイルカや水鳥と思しき姿も見て取れる。
ラジエーターのカバーにも注目!朝香宮にゆかりの動物たちとは?
思わず動物たちを探しながら歩いてしまうが、「こんなところにもいたの?」と驚くのが、各部屋に設置されたラジエーターの金属製の飾りだ。現存するラジエーター用の飾り金物のうち、大食堂と若宮寝室、合い間、若宮居間にあるのは、魚と貝をモチーフとした意匠が見られる。一方で2階広間やベランダなどに置かれているものは、日本の伝統的な文様である青海波に鳥をあしらったデザインが用いられている。
朝香宮にゆかりのある動物たちの作品や資料にも目を向けたい。大客室に飾られたトナカイの剥製は、朝香宮鳩彦王の旧蔵品。鳩彦王はしばしば狩猟と嗜んだとされ、軽井沢の別邸にも鹿の剥製を飾っていたという。また絵画制作を趣味としていた朝香宮允子妃が成婚前、内親王時代に描いた『ウサギ』のスケッチも魅力だ。動物の造形を巧みに捉え、羽毛の質感にまで心を配っているが、可愛らしく、それでいて上品な佇まいがたまらない。---fadeinPager---
アール・デコの動物表現からポンポンのかわいらしい彫刻まで
アール・デコの動物表現に着目した、新館の展示が思いがけないほど充実している。『ヌーヴェル・ヴァリアシオン 20枚の図版による75の装飾モティーフ』とは、画家・テキスタイルデザイナーとして活動したエドゥアール・ベネディクトゥスによる装飾デザイン集の一部で、動物をモチーフとしたもの。手彩色による鳥や魚が、幾何学的な構図の中に鮮やかに浮かび上がっている。なお朝香宮邸の殿下居間の壁面やカーテンのテキスタイルには、彼のデザインが採用されている。
滑らかな動物彫刻で知られるフランソワ・ポンポンの作品も見逃せない。実際の動物の観察を重視したポンポンは動物園に足繁く通って、形態の把握を試みる。会場では当時、特に人気を博した磁器の『シロクマ』をはじめ、『ヒグマ』や『ほろほろ鳥』などのブロンズの作品が、彼自身が集めた動物園の絵はがきとともに並べられている。このほか、ルネ・ラリックの手がけた動物モチーフによる花瓶や鉢なども展示に彩りを添える。
ウインターガーデンを特別に公開、撮影も楽しもう!

本館の最上階に位置する3階のウインターガーデンが特別に公開されている。かつて温室として設けられたこの空間は、床に黒と白の石が市松模様に敷き詰められ、大きなガラス窓に囲まれていた開放感のある造りを特徴としている。室内に置かれた赤いスチールパイプの家具は、朝香宮鳩彦王がかつて購入したマルセル・ブロイヤーのデザインによる椅子の復刻品だ。建築と家具、そして外光が織りなすモダンな佇まいを体感しておきたい。
『建物公開2026』では、会期中、会場内の写真撮影も可能(一部作品を除く)。趣向を凝らした建築空間とともに、動物をモチーフとした装飾などを写真に収めることができる。また普段は閉められていることの多いカーテンが可能な限り開け放たれ、旧朝香宮邸からも庭園の美しい新緑を望める。そして展示を堪能したのちは、広々とした芝庭や和の趣に満ちた日本庭園へ。都心にいることを忘れさせる豊かな緑の中をゆっくりと歩き、この場所ならではの余韻に浸りたい。
『建物公開2026 アニマルズ in 朝香宮邸』
開催期間:開催中~2026年6月14日(日)
開催場所:東京都庭園美術館(本館+新館)
東京都港区白金台5-21-9
開館時間:10時〜18時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(ただし5/4は開館)、5/7(木)
観覧料:一般¥1,000 他
https://www.teien-art-museum.ne.jp









