ニュートンによるプリズム実験の再現から生まれた連作『Opticks』の展示。©Studio Sugimoto
パリから飛行機で1時間あまり。南フランス、オクシタニー地方の主要都市ロデーズは、黒一色の抽象画で知られるピエール・スーラージュの生まれ故郷だ。この街のシンボルのひとつとなっているのが、2014年に開館したスーラージュ美術館。アーティスト本人からの寄贈を中心に500点を超えるコレクションを誇り、常設展のほかに、これまで年2回のペースで企画展を開催してきた。同美術館が今年9月13日まで開催しているのが、杉本博司の作品展『Reprendre la Mélodie(本歌取り)』である。
長谷川等伯へのオマージュが息づく『松林図』
展覧会のタイトルの由来になったのは、2001年に撮影された『松林図』。長谷川等伯の水墨画『松林図』に想を得て、全国の松の名所を巡った末に辿り着いた彼が、皇居で見た究極の人工美を “水墨写真”にした作品だ。
6枚の写真が構成するパネル2点からなる『松林図』(2000年)。ピエール・スーラージュ「Peinture 390 x 130 cm, 17 mars 2019」(奥)と対峙する。©Studio Sugimoto
スーラージュ美術館館長のモード・マロン=ヴォイェヴォスキーは、「個人作品の美術館として、ピエール・スーラージュの作品と出合い、響き合い、絆を作るという考えで企画展を行ってきました。杉本博司とスーラージュの、コンセプトとフォルムについての共通点を考察しようというのが展覧会のアイデアです」と語る。「両者ともに、起源という概念と作品における時間の概念にこだわった。スーラージュは黒を色彩の起源とし、杉本は連作を通して時間へのアプローチや連続性を探究しています」
8つのテーマでたどる杉本博司の創作世界
展覧会は、杉本の軌跡を代表する8つのテーマを巡り、1970年代から2023年までの作品を紹介している。企画展会場で紹介される5テーマの後半にはスーラージュの3作品が対峙し、残る3テーマの展示は常設展の中に挟み込まれている。30歳の年齢差があり、実際に出会うことこそなかった世代の違う二人のアーティスト。両者の作品が会場で向き合うことによって、抽象とは対極に語られることの多い写真というメディアのコンセプチュアルな力が増幅されるようだ。
「劇場」から「Opticks」へ、代表シリーズが並ぶ展示空間
展示は「劇場」シリーズから始まる。映画館に据えた大型カメラで、映画の始まりから終わりまでシャッターを開放して撮影したシリーズは、一枚の写真に時の流れが宿ったもの。ニューヨークの映画館からのちにイタリアの「オペラハウス」に繋がっていく連作だ。
「劇場」シリーズより。杉本博司『サム・エリック、ペンシルベニア』(1978年)©Hiroshi Sugimoto
続いて、展示は『松林図』、さらに冬の冷気を通過してプリズムに分光される光、その粒子をポラロイドで捉え、大きな色画にした『Opticks』へ。色鮮やかな作品の次には、人類の起源と言われる人々が見た風景と同じ景色を探して世界中の海を撮影した「海景」と、数学の世界を目に見える形にした「数理模型」が現れる。湾曲する展示壁を持つ展示デザインは、アーティスト本人が手がけたものだ。


左:杉本博司『Opticks 661』2025年。右:杉本博司『Opticks 632』2024年。©Hiroshi Sugimoto
「海景」シリーズと「数理模型」より『数理模型025 hypersphere: constant curvature Surface, revolution of hyperbolic type』2023年。©Studio Sugimoto
常設展で実現する、スーラージュ作品との共演
常設展コーナーでは、『Brush Impression』『Joe』『Revolution』の3テーマがスーラージュ作品に並んだ。ピューリッツァー財団美術館の安藤忠雄建築に内包されたリチャード・セラの彫刻を『溶ける建築』と同じ手法で撮影した連作『Joe』は、スーラージュ作品の黒の陰影にとともに、美術館の展示壁の質感とも呼応する展示となっている。
「Brush Impression」シリーズより、『いろは歌四十七文字』(中央・2023年)。左右はスーラージュの作品。©Studio Sugimoto
リチャード・セラの巨大彫刻の光と影をとらえた『Joe 2082』『Joe 2053』『Joe 2072』(いずれも2004年)。窓から差し込む外光に浮かび上がるスーラージュの黒の陰影と響き合う。
建築ファンにも薦めたい、スーラージュ美術館の魅力
美術館は、カタルーニャの建築家集団RCRアルキテクタスの設計による建築でも知られる。周囲の風景に溶け込むコールテン鋼の赤茶色の低層建築は彼らの代表作のひとつ。この夏、南仏ロデーズに足をのばして建築とアートを堪能してはどうだろうか。
庭園の中に佇むスーラージュ美術館。5つの並行六面体で構成されている。©RCR-Musée Soulages Rodez – photothèque Rodez Agglomération/photo Jean-Louis Bories
『SUGIMOTO Reprendre la Mélodie展』
開催期間:開催中〜2026年9月13日(日)
開催場所:Musée Soulages
Jardin du Foirail, avenue Victor Hugo 12000 Rodez
開館時間:10時〜13時、14時〜18時(火〜金)、10時〜18時(土、日)※7、8月は10時〜18時(月〜日)
休館日:1月〜6月、9月〜12月の月曜日、1月1日、5月1日、11月1日、12月25日
観覧料:一般12ユーロ
TEL :+33(0)5.65.73.82.60