【建築家が読み解くサグラダ・ファミリア教会】“光”が建築に生命を与える、聖書の世界を体現する教会の全容とは

  • 文:山村 健 写真:吉川 愛
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ガウディが長年の探求で見つけた建築観と宗教観が貫かれる未完の教会“サグラダ・ファミリア教会”。聖書の世界を体現する全容を、気鋭のガウディ研究者で建築家の山村健が紐解く。

ガウディが託した5つの要素のうち、Pen Onlineでは“光”を抜粋して紹介する。光が建築に生命を与えると信じたガウディ。時々刻々と変化する光をいかに創造に結びつけたか――。

アントニ・ガウディが没後100年を迎える2026年、サグラダ・ファミリア教会のメインタワーがついに完成した。ガウディが残したメッセージを紐解くことが、大きな転換期を生きる我々にとって、未来への道標になるはずだ。

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朝日を受けて輝く、東側の「降誕の正面(ファサード)」。キリスト降誕などが表現される。photo: Takeshi Yamamura

ガウディの建築は、光とともに輝き、また硬直していく。ガウディが生前に手掛けたサグラダ・ファミリア教会の「降誕の正面(ファサード)」は東を向き、朝日を受けると天使たちが輝き始め、キリストの誕生を祝福する。

一方、西に面する「受難の正面」では、磔刑のキリストが夕暮れとともに光を失い、石の塊のように硬化し、生命がすっと消滅していくように見える。

ガウディは、生涯をかけ、理想的な光を探究した。「降誕の正面」をはじめとするその姿は「石の聖書」と評されるように、建物全体で聖書の世界を表現しようとしている。もともとこの教会は、1882年に定礎が置かれたが、施主と建築家の意見の相違が起きた。そこで白羽の矢が立ったのがガウディである。ガウディは2代目の建築家として、人生をかけて設計と建設に没頭した。

バルセロナを上空から見ると、碁盤の目のような街路が広がる。都市計画家のサルダーが構想した、113.33mグリッドの街区のひとつが教会の敷地となった。通常、祭壇は東向きに配置するのが教会建築のセオリーだが、この街区の制約により、北向きに設置されて工事が始まっていた。そこでガウディは、東・西・南にそれぞれ「降誕の正面」「受難の正面」「栄光の正面」を設けることにした。

各正面には聖書の重要な場面が彫刻で表現され、朝日を受ける東側の「降誕の正面」には、受胎告知、キリスト誕生の瞬間、東方の三博士の訪問などの場面が刻まれている。それらの彫刻は朝日を浴びて、輝き始める。一方、夕日とともに徐々に光が失われていく西側の「受難の正面」には、最後の晩餐やイエス・キリストの磔刑が表現されている。

そして、太陽が最も強く輝く南側の「栄光の正面」には、イエス・キリストの復活が表現されることになった。つまりサグラダ・ファミリア教会は、太陽の光によって見るべき正面が変化し、その光そのものをコンセプトとして、建築全体でキリスト教の理念を表現しているのだ。

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夕日で深い陰影が生まれる「受難の正面」には、イエス・キリストの磔刑が表現されている。photo: Takeshi Yamamura

 また、それぞれの正面には4本ずつ、計12本の塔がそびえ立っている。先端は「鐘塔頂華」と呼ばれ、立体幾何学を用いた抽象的な造形が色彩豊かに彩られている。それは、ヴェネチアン・グラスを含むトレンカディスと呼ばれる陶片モザイクタイルによって、太陽光を受けて煌めくのだ。

ガウディは建築学校を卒業して間もなく、自らの建築に対する理想を書き留めた。『日記装飾論』と呼ばれるそのノートには、古代ギリシア建築において、遠方からの視認性には幾何学的形態が有効であることが記されている。さらに晩年、弟子たちに「光が建築に生命を与える」と語っていた。この鐘塔頂華は、その理念の結晶として、太陽の光を受けて今も輝き続けているのである。

そして光は、外部のみならず内部においても、空間に生命を与える要素となっている。

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先端が光り輝くマリアの塔。光を受けるだけでなく、教会自体が光を発して街を照らす。photo: Takeshi Yamamura 

 

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山村 健|建築家

1984年生まれ。東京工芸大学准教授。博士(建築学)。YSLA Architects共同主宰、建築デザインと建築論を一体的に学ぶ研究室を主宰。ガウディ研究が評価され、日本建築学会奨励賞を受賞。

 

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