いま注目すべき腕時計をデザインの視点から切る、雑誌『Pen』で好評連載中の「並木教授の腕時計デザイン講義」。今回のテーマは「針のないジャンピングアワー」。時を跳躍する複雑機構“ジャンピングアワー”に注目!

ジャンピングアワーとは、毎正時に時表示のディスクが瞬時に跳躍する複雑機構である。通常の腕時計は、針が円運動を描くことで時間の連続性を視覚化するが、ジャンピングアワーではあえて針を排し、小窓(ギシェ)から数字をのぞかせる表現方法をとる。分表示も針ではなくディスクを用いるモデルが多く、いわば「機械式によるデジタル表示」といえるだろう。そのルーツは懐中時計の時代に遡り、1920年代のアールデコ期には、直線を基調としたデザインとの親和性の高さから、腕時計の意匠として一世を風靡した。
デザイン上の特徴は「文字盤の再構築」にある。中央を軸に回転する針が存在しないためレイアウトの自由度が増し、小窓も上下左右、あるいはアシンメトリーに配置したりと多彩で自在。針の不在は、文字盤の装飾を途切れることなく見せられる利点もある。
一方、ミニマルで静謐な外観とは裏腹に、内部のメカニズムはきわめて動的で複雑だ。ディスクを毎正時に瞬時にジャンプさせるため、1時間かけて力を蓄え一気に解放する高等技術が要求される。一定のリズムでのみ運針するアナログ時計と異なり、1時間ごとにリズムを破調するエネルギーの制御を誤れば、時計の精度にも悪影響を及ぼしかねない。ジャンピングアワーは、極限まで計算された「力学の結晶」なのである。
その努力の上に実現する、瞬間のスペクタクル。実用性を超えた高度なメカニズムと引き算の美学が融合し、1時間に一度、あざやかに時を跳躍する。
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1.AUDEMARS PIGUET(オーデマ ピゲ)
ネオ フレーム ジャンピングアワー
1929年製「プレモデル 1271」から着想を得た針を持たない文字盤には、ブラックPVDコーティングを施したサファイアクリスタルを採用。アールデコ後期のストリームライン・モダン様式を、縦方向のゴドロン装飾を施した長方形ケースで再構築し、ムーブメントには瞬時ジャンプを実現する機構が新設計された。名門が培ってきた伝統と革新が結実した逸品だ。
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2.CARTIER(カルティエ)
タンク ア ギシェ
カルティエを代表する腕時計を再解釈した独創的コレクション「カルティエ プリヴェ」の一本。アールデコ全盛の1928年に発表された歴史的名作の意匠を甦らせた、小窓(ギシェ)のみで時刻を示すミニマルで端正なデザインが特徴だ。97年のメゾン創業150周年を機に発表されたプラチナ製モデル、2005年のピンクゴールド製に続く、待望の復刻モデルである。
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3.FRANCK MULLER(フランク ミュラー)
グランド カーベックス マスター ジャンパー
3つの開口部と5つのディスクで時・分・日付のすべてがジャンプする、世界初のトリプル・ジャンピング機構。ブランドを象徴するトノー型ケースの中央に、独立した3つの小窓が縦に並ぶ構成が際立つ。きわめて高度な技術を要する一方、外観には独特の美学が貫かれ、流麗な三次元曲線と針を排した幾何学的なシンメトリーが視覚的コントラストを描き出す。

並木浩一
桐蔭横浜大学教授/時計ジャーナリスト
1961年、神奈川県生まれ。1990年代より、バーゼルワールドやジュネーブサロンをはじめ、国内外で時計の取材を続ける。雑誌編集長や編集委員など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。ギャラクシー賞選奨委員、GPHG(ジュネーブ時計グランプリ)アカデミー会員。著書に『ロレックスが買えない。』など多数。
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