【マセラティ MCプーラ チェロ試乗記】天から降ってくるカタルシス、 エンジンだけが鳴らす歓喜のコンバーチブル 第242回東京車日記

  • 写真&文:青木雄介
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2025年にグッドウッドで初公開された「MC20 チェロ」の進化形。

マセラティ「MC 20」が「MCプーラ」になって帰ってきた。諜報員のコードネームからインドの神様みたいな愛らしい名前に変わったものの、モデルチェンジではなくてマイナーチェンジ。インテリアもエクステリアも正直そんなに変わっていない。「名前を変える意味はあるのだろうか?」って思ってたんだよね。乗るまでは。

荒々しさを脱ぎ捨てた、新しいMCモデルのかたち

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アルカンターラを主役にしたコックピットは、軽量感とグリップ感、上質さを両立。

「MC 20」は往年のスーパーカーの雰囲気があったのね。動きの一つひとつに主張があって、18年ぶりのMCモデルっていう気概が全身からにじみ出てた。「MCプーラ」はひと味違っている。アクセルもブレーキもステアリングも、全部つながって淀みなく流れる。

まるで俳優のスティーブ・マックイーンがル・マンのコックピットを降りて、モナコの港でクルーザーに乗り込むときの佇まい。荒々しさと洗練が同じ身体に収まっている。バンカラなイメージはレーシングモデルである「GT2 ストラダーレ」に任せて、「MCプーラ」はマセラティらしいスーパースポーツに振り切った。役割分担がはっきりしたぶん、このクルマが何者か、よくわかるようになったはず。

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ダラーラ開発のカーボンファイバーモノコックが、軽さと俊敏性を支える。

じゃあ軟弱になったのかというと、まったくそんなことない。心臓であるV6ネットゥーノは相変わらず神がかっているのね。アクセルを踏む前から、インダストリアルなアイドリング音にプレチャンバーの爆発音が重なって、ネプチューンが三叉槍を震わせているようなカリスマを感じる。踏み込めばターボのタービン音とブローオフバルブが呼吸するように場を支配して、変速のたびにエンジンがガツっと身震いする。この音が、そのままこのクルマのキャラクターで、オープンにして全開にしたとき、その漢くささに細胞が沸き立つ。

V6ネットゥーノがもたらす、極上の“カタルシス”

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低く絞り込んだテールとリアスポイラーが、レーシングヘリテージと造形美を演出する。

ミドシップ特有の回頭性の高さがあって、軽さが効いてるサーカスの陽気な軽業師のよう。極上のカタルシスが、天から降ってくるみたいな感覚がある。これこそ、ネプチューンのエンジンにふさわしい恩寵とでもいうか。ドライブモードは峠なら断然「コルサ」。「MC 20」のようなフレームがねじれんばかりの荒々しさは影を潜めたものの、一度「コルサ」を味わったら街乗りでさえ「スポーツ」が基本になると思う。難点をいえばもう少し制動力が欲しくて、峠に持ち込むならオプションのカーボンファイバーローターは入れておいたほうがいいかも。

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モデナ製マセラティの象徴であるネットゥーノエンジンが格納された、エンジンフード。

電動化が進むほどクルマは重くなり、パワフルで賢くなって、ドライバーはどんどん補助される。オープントップにして、自然の空気とともにエグゾーストノートを全身で浴びると、なにより軽いことが心に残る。

その時間が、とても自由で贅沢だと感じられるふるまい。数値じゃなくて、感覚の鮮度。マセラティはそのコントラストをひと目盛り上げて、絶妙な品に仕上げてしまう。魅力はここに尽きる。

ライバルがハイブリッドに向かっているいま、マセラティは純エンジン車の美点をひたすら磨き直して、瀟洒なスタイリングに閉じ込めた。スーパースポーツだからV8やV12でなければいけない理由なんてない。このエンジンにこのスタイリングでこそ、既に殿堂入り決定なんだ。

マセラティ MCプーラ チェロ

全長×全幅×全高:4,667×1,965×1,214㎜
エンジン:V型6気筒ツインターボ
排気量:3,000cc
最高出力:630PS/7,500rpm
最大トルク:730Nm/3,000〜5,500rpm
駆動方式:RWD(後輪駆動)
車両価格:¥35,450,000〜

マセラティ コールセンター
www.maserati.com