ロサンゼルスの大通り上空約9メートルに、うねるコンクリートの巨体が浮かぶ。総工費約1125億円、構想20年のLACMA新館が4月に開館する。建て替え前の本館にあった15万点超の収蔵品を新館では単一フロアに並べ、国・年代別の分類を廃止。「大西洋」「地中海」と海洋圏で文化をつなぐ、斬新な展示構成を採用した。
大通りの上空9メートルに浮かぶ美術館
ロサンゼルスの大動脈・ウィルシャー大通りを歩けば、うねるようなコンクリートの巨体が頭上に現れる。地表約9メートルに浮かぶその正体は、4月に開館するロサンゼルス郡美術館(LACMA)の新館「デヴィッド・ゲフィン・ギャラリーズ」だ。
設計はスイスの建築家ペーター・ツムトア氏。米LA地域誌のロサンゼルス・マガジンによると、約3万2000平方メートルあるギャラリーを、たったひとつのフロアに集約するという。総工費は7億5000万ドル(約1125億円)に迫る。マイケル・ゴーヴァン館長の就任からちょうど20年の節目で開館を迎える。
新館の足元に広がるのは、屋外に設けられた開放的な彫刻庭園。中でもひときわ目を惹くのが、バルーンアート風の彫刻作品で知られる現代美術家、ジェフ・クーンズ氏の、「スプリット・ロッカー」だ。子供用の木馬を巨大化したような愛らしくも迫力ある作品で、高さは約12メートル、ビル4階分に及ぶ。全体を約6万株の多肉植物や在来植物で覆っており、育つにつれ作品の表情が少しずつ変わっていく趣向だ。
LACMAは、世界各地の美術品15万点超を収蔵しており、アメリカ西部最大の規模を誇る。その大半が建設期間中、収蔵庫で出番を待っていたが、晴れて待望の開館時期となった。4月19日の開館から2週間は、メンバー優先で来場者を迎え入れる。
同美術館は街灯が所狭しと並ぶ屋外インスタレーション「アーバン・ライト」でも有名であり、ソーシャルメディアで見たことがあるという人もいるだろう。
「海」で大陸をつなぐギャラリー構成
単一フロアに全ギャラリーを集約した新館の設計には、展示の常識を覆す意図が隠されている。
館長兼CEOのマイケル・ゴーヴァン氏は、それまでの発想を捨て、国・年代・素材別の百科事典のような分類を廃止した。代わりに据えた軸が、海洋圏という発想だ。
北米・ヨーロッパ・アフリカを「大西洋」と位置づけ、ギリシャ・ローマ・中東を「地中海」のコンセプトでつなぐ。ゴーヴァン氏はロサンゼルス・マガジンに、「展示構成は、移動や相互のつながりという概念を重視している」と語る。
こうした展示手法の改革は、建築的な要件から来る必然でもある。一般的な大規模美術館では、棟や階に分かれていることから、展示対象の文化圏も自然と区切られてきた。
だが、全コレクションをひとつのフロアに並べる新館の構造では、そうした仕切りがそもそもない。海を軸に文化圏を横断する展示はゴーヴァン氏の構想だが、この建築の構造上も、海洋を軸に展示ゾーンをゆるやかに連携させる発想はごく自然であった。
ただし、これほど急進的な試みを好むゴーヴァン館長ゆえの摩擦も生じた。2020年の芸術専門誌「アートニュース」のインタビューでゴーヴァン氏は、従来展示されていた作品の多くが「ヨーロッパや西洋の植民地主義と資本主義の産物」だと説明。発言を受け、ヨーロッパ古典作品の最大の寄贈者だったアーマンソン財団は2020年に寄付を打ち切った。
このほか、COO(最高執行責任者)、CFO(最高財務責任者)、学芸・展覧会担当の副館長が相次いで美術館を去っている。
「破壊行為」との批判を超えて
さらに、今回のプロジェクト全体が、発表当初から激しい論争の的だった。
保存運動家らは「Save LACMA」などの市民団体を立ち上げ、建て替えに異を唱えた。建築評論家のグレッグ・ゴールディン氏は米西部日刊紙のロサンゼルス・タイムズへの寄稿で、旧施設の解体を、「市民的破壊行為」と断じている。
賛成派も黙ってはいない。俳優のブラッド・ピット氏やダイアン・キートン氏らが公聴会で新案を擁護し、理事会は全会一致で資金拠出を承認した。
いずれにせよ、建て替えは避けて通れない道だった。旧館はすでに満身創痍だったのだ。雨漏りが常態化し、職員の間では「LEAKMA(リークマ)」というあだ名までついていた。英語の「leak(漏れ)」にかけた自嘲だ。嵐のたびに壁から美術品を外す。そんな有り様だった。
2014年の評価では、最低限の修繕だけで約2億4600万ドル(約369億円)。その額を見れば、ゴーヴァン氏がロサンゼルス郡の出資1億2500万ドル(約187億5000万円)を、「格安だった」と語るのもうなずける。
新館の建設単価は1平方フィートあたり約2082ドル(約31万2300円)。館長のゴーヴァン氏は、「美術館として平均的なコスト」と説明する。たしかに、インフレ調整後のニューヨークのホイットニー美術館(約2910ドル=約43万6500円)と比べても低い。水漏れに悩まされ続けた旧館の維持だけで2億ドル超(約300億円超)が必要だったという現実を踏まえれば、新築という選択には合理性があった。
2028年のロス五輪を控え、話題性の高まっているロサンゼルス。国際美術専門紙のアート・ニュースペーパーの取材に対し、画廊主のピーター・グールズ氏は「ロサンゼルスは(米国内から見て)南半球とアジアへの橋渡し役だ」と語っている。今後、世界的なアートハブとしての台頭が期待されている。
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