1924年にアンドレ・ブルトンが定義づけ、新たな現実を志向した芸術運動、シュルレアリスム(超現実主義)。誕生から約100年、美術にとどまらず、広告やファッション、インテリアなど多様な分野への広がりに光を当てる展覧会が、東京オペラシティアートギャラリーで開催されている。
国内の美術館などに所蔵される多彩な作品が一堂に
オブジェ、写真、インテリアなど6つの章から、国内の美術館に所蔵される多様なジャンルの作品を紹介する本展。オブジェや写真などの並ぶ導入部では、マルセル・デュシャンやマン・レイとともに、フランシス・ピカビアの作品が目を引く。なかでも『黄あげは』は、人物の顔や裸体の男女像、それに建築物などを水彩にて描いたボックス・コンストラクション。アゲハチョウの姿も見えるが、絵とともに本物の標本も配置され、まるでだまし絵のような効果を生んでいる。
ヴォルスの『美しい肉片』は、脂や筋などの肉の断片を接写したもの。強い光のもとで細部まで露わとなり、表面の複雑な造形や質感が鋭く浮かび上がっている。よく見れば生々しい触感さえ想起させる一方、支持体との関係は曖昧で、どこか不穏な気配を帯びる。このようにシュルレアリストたちは写真技術を自由に使い分け、日常的なモチーフを新奇で意外性のあるイメージへと転化させていった。
マグリットの山高帽の男に見る、その謎めいたイメージ
サルバドール・ダリ、マックス・エルンスト、ルネ・マグリットなど、シュリレアリスムを代表する作家たちの名品も揃っている。『王様の美術館』と『レディ・メイドの花束』は、ともにマグリットの代表的なモチーフである山高帽の男が描かれた作品。『王様の美術館』では男の姿がシルエットとして切り抜かれ、その向こうに丘の連なる森と一軒の館が建つ静かな風景が広がっている。
一方の『レディ・メイドの花束』では、画家自身ともされる山高帽の男の後ろ姿に、ルネサンスの巨匠ボッティチェッリの名作『春』に登場する花の女神フローラが重ねられている。無関係なもの同士の組み合わせや現実と非現実の対比などを描いたことで知られるマグリットだが、本作では春の女神への関心を背景に、男と女神との婚姻を暗示するイメージとして読み解くこともできる。---fadeinPager---
日常空間へと浸透するシュルレアリスム
ダリの手がけたフランス国有鉄道の観光ポスターは、シュルレアリスムが広告表現へと波及した一例だ。『オーヴェルニュ、フランス国有鉄道』には火山という土地の特徴を取り入れつつも、蝶のイメージが組み込まれ、「本来あるべき場所にないものを出会わせて違和感を生じさせること」を意味するデペイズマンの効果が発揮されている。コラージュなどの技法を含め、日常的な視覚を撹乱する試みが見て取れる。
日常生活の場である室内の秩序を転覆させることも、シュリレアリスムにとって大きな意味を持ち得ていた。ソファ『ボッカ』は、イタリアのデザインチーム、スタジオ65が、ダリのリップ・ソファへのオマージュとして制作したもの。ボッカはイタリア語で唇を意味し、マリリン・モンローのそれをモデルにしている。また詩人のエドワード・ジェイムズは、自邸のデザインをシュルレアリストに依頼し、内装から家具に至るまで夢と現実が交錯するような空間を築いた。
ファッションに宿る豊かな想像力
ファッションとシュルレアリスムに関する展示がハイライトを飾っている。衣服をまとったマネキンや身体への欲望は、シュルレアリストらのインスピレーション源となり、ファッション雑誌やモード写真にもその表現が積極的に採り入れられていく。シュルレアリストと親交の深かったデザイナー、エルザ・スキャパレッリは、ダリらと協働を通して、人を驚かせるようなドレスや香水瓶、ジュエリーを次々と発表していった。
単なる様式ではなく、日常と世界を連動させる実践として捉え直すことで、新たな輪郭を帯びて立ち現れるシュルレアリスム。美術の領域を越えて及ぶその豊かな射程は、身近な風景の見え方さえ揺さぶる。「これもシュルレアリスム?」と思わず口にしてしまうほど、これまで数多く行われてきた関連の展覧会とは一線を画す、発見に満ちた展開を、東京オペラシティアートギャラリーで体感してほしい。
『拡大するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ』
開催期間:開催中~2026年6月24日(水)
開催場所:東京オペラシティ アートギャラリー(ギャラリー1、2)
東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー3F
開館時間:11時〜19時 ※入場は18時半まで
休館日:月(ただし5/4は開館)、5/7(木)
入場料:一般¥1,800 他
https://www.operacity.jp/ag/









