デザイナーのYOONとアーティストのVERBAL、ふたりで立ち上げたアンブッシュ(AMBUSH)は瞬く間に人気のファッションブランドへと成長した。ふたりはオーデマ ピゲの創造性に引かれる時計愛好家でもある。そしてその情熱の表れとして、「ロイヤル オーク コンセプト」の限定モデルが完成した。
実験的なクリエイティブ精神が生んだコラボレーション、「ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン」
「come again」「let go」「miss you」など数々のヒット曲を生み出してきたm-floのメンバーであり、音楽プロデューサーとして知られるVERBALだが、ファッション&ジュエリーブランドのアンブッシュのCEOとしての顔も持つ。アンブッシュは、VERBALとそのパートナーでありデザイナーのYOONによって2008年に設立。当初はジュエリーブランドとしての活動であったが、YOONの生み出す東京のストリートカルチャーを反映した革新的なデザインが世界中で反響を呼び、ルイ・ヴィトンやサカイとのコラボレーションや、YOONのディオール オムのジュエリーデザイナー就任なども大きな話題となった。
その後、15年にトータルのファッションブランドへと転換してからも、その勢いはさらに加速。17年には新進デザイナーの登竜門でもある「LVMHプライズ」でファイナリストに選出されたほか、ナイキやコンバースといったグローバル企業とのコラボレーションを重ねるなど、国内外から高い評価を得てきた。
そんなクリエイティブな姿勢と挑戦心を貫いてきたYOONとVERBALだが、腕時計には強いこだわりを持ってきた。ふたりともにオーデマ ピゲを愛用しており、今回のコラボレーションモデルが生まれるきっかけとなったのも、VERBALが所有する「ロイヤル オーク コンセプト CW1 アラクライト」だ。VERBALは以前からオーデマ ピゲを着用していたが、当時のオーデマ ピゲのCEOフランソワ-アンリ・ベナミアスの計らいで憧れの腕時計を手にしたことが契機となり、オーデマ ピゲへの愛着をさらに深めていく。
そしてYOONとVERBALの実験的なクリエイティブがオーデマ ピゲ側の好奇心に火をつけ、今回のコラボレーションにつながったという。
VERBAL「オーデマ ピゲと新しい『ロイヤル オーク コンセプト』を一緒につくるにあたり、このシリーズは根底に“実験の場である”というものがあるので、なにか思い切った楽しいことができそうだと思いました。私たちは男女のデザインを手掛けているので、男女兼用のコンセプトウォッチってすごい面白いかも、といった具合に話が進みました」
過去の「ロイヤル オーク コンセプト」では、43㎜や44㎜といった大きめサイズのケースを用いることが多かった。もちろんそれは、搭載するハイコンプリケーションムーブメントのサイズも含めた論理的な理由である。しかしフライングトゥールビヨンのみを用いるシンプルなコンプリケーションであれば、ケースサイズはコンパクト化できる。その結果、YOONとVERBALによる「ロイヤル オーク コンセプト」は、38.5㎜というケース径のフライングトゥールビヨンモデルとなった。
YOON「当初のデザインアプローチは、時計に不要なものを排除したいということでした。できるだけミニマルにして、トゥールビヨンに視線を集中させ、あらゆる要素や質感を活かして美しい作品をつくり上げたかった。私たちがやりたいことを伝えると、オーデマ ピゲから『これはできるけど、これは難しいですね』という感じで返答が来ました。私たちのアイデアに対して、オーデマ ピゲとして求められる品質水準で実現できるか否かに、重点が置かれていたと思います」
VERBAL「オーデマ ピゲは複雑機構やデザイン性に目が行きがちですが、時計としての性能に問題はないか、ムーブメントとして正しく機能するかという部分をすごくていねいに考えているブランドです。それこそ“機能がフォルムをつくる”のだということを実感しました。そのため直感や本能的に浮かんだデザインであっても、機能性や耐久性など、さまざまな制限がかかる中で実現が難しいこともありました」
YOON「オーデマ ピゲ側が同社の歴史上かつてない新しいことに挑戦しようとしてくれたのは、本当に素晴らしかったですね。ですから私たちが取り組むすべてにおいて、双方の妥協を許さないよう、しっかりと時間をかけて確認できました」
VERBAL「時計をつくるというのは、僕たちがやっているファッションビジネスとはまったく違う時間の流れでしたね。それでも『ロイヤル オーク コンセプト』という限られた枠の中であっても、爆発的な“強さ”を生み出すことができましたし、インパクトのあるコラボレーションモデルになったと思います。制限があるからこそ生まれる美もある、ということは大きな勉強になりました」
YOON「ファッションなら試行錯誤の余地はもっと広いですし、うまくいかなければ別の案に進むことができます。しかし、時計ではそう簡単にはいきません。ですから、何度も話し合いを重ね、お互いを理解し学び合う過程がありました。また、彼らも私たちのデザインに関するフィードバックを受け入れつつ、オーデマ ピゲとして妥協することなく受け止めようと努めてくれました。美しいものをつくろうとすると、時間がかかるのは“必然”でした」
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アベンチュリンダイヤルや赤い“心臓部”など、実体験から導き出された美しきディテール
今回の三者によるコラボレーションモデル「ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン」は、YOONとVERBALが望んだ「エナジーの源」の象徴としてカラーリングされた赤いトゥールビヨンキャリッジが目を惹くデザインだが、それを取り巻くブラックのアベンチュリンダイヤルも印象的だ。そこには、打ち合わせの際に訪れたスイスのオーデマ ピゲ本社での経験が関係しているという。
VERBAL「フライングトゥールビヨンは時計の心臓部分ですし、オーデマ ピゲの技術力を示すもの。完全にスケルトン構造にするということも考えました。でもふたりでオーデマ ピゲの本社があるル・ブラッシュを訪れた時に見た、ジュウ渓谷の夜空が感動的に素晴らしかったんです」
YOON 「ル・ブラッシュで見上げた夜空から、大きなインスピレーションを得ました。この感動をどのように表現するか、どうしたらこの美しい星や空を再現できるかと考えたところ、ブラックアべンチュリン製のダイヤルはまさに最適でした」
VERBAL「アベンチュリンのキラキラと輝くテクスチャーは、まさにあの場所で見た星空。そこにトゥールビヨンの赤いキャリッジが輝く。湾曲したサファイアクリスタルの風防も光の効果を生み出し、美しくきらめくんです」
YOON 「ダイヤルのオープンワークの構造は、赤いトゥールビヨンキャリッジへと視線を誘導するように、自然とこのデザインへと向かっていきました。すべてがちょうどよいバランスで融合し、本当に美しい仕上がりになったと思います」
実際に手首に時計が収まる様子を見ると、光の効果はかなり強い。それはダイヤルの素材やオープンワークの建築的な構造だけでなく、ベゼルやケースの仕上げにも理由がある。アイコニックな八角形ベゼルは天面部分を縦のヘアライン仕上げにして、斜面は加工が難しいチタン素材でありながら、完璧なポリッシュ仕上げとなっている。しかしケースは一転してサンドブラストによるマット仕上げ。チタン素材特有のグレーメタリックの色調が強調され、ベゼルとケースの輝度のコントラストが、腕に華やぎを加える。
YOON「仕上げに関しては、どこに目を向けさせるかを重視しました。サファイアクリスタルの風防には光沢感があるので、その真横に来るベゼルはヘアラインで若干輝度をさげています。ストラップとつながるケース部分もマットにすることでバランスを取りました。すべてがポリッシュ仕上げにすると、どこに目を向ければよいのかわからなくなりますからね。こういったテクスチャーの組み合わせは、ファッションアイテムをレイヤードさせたり、素材を切り替えたりする感覚に近い。また、ファッション同様に、時計も質感が大切です。どういう素材を使い、それをどう組み合わせるかは、ファッションデザイナーとしての経験が生きました」
VERBAL「新しいことにチャレンジするYOONの感性が、歴史あるオーデマ ピゲのようなブランドと面白いシナジー効果を生み出したと思います。そもそも最初はシンプルでミニマルな時計というアイデアから始まり、機能やムーブメントの意味を知ることによって視野が広がり、素材の特性や仕上げを考えて、最終的にこういう時計にまとまった。オーデマ ピゲから話を聞くことで腑に落ちることも多かったですし、新しい美的感覚を得ることもできました。時計というプロダクトの開発を進める経験は、今後の僕らのクリエイションにもよい影響を与えてくれると思っています」
YOONとVERBALはファッションや音楽のジャンルで大きな成功を収めたクリエイターだが、オーデマ ピゲとのコラボレーションを通じて圧倒されたのは、職人たちの献身や時計技術をどのように発展させるかという情熱だったという。同時に、彼らが持つカルチャーやクリエイションを融合させることで、スイスの歴史的時計ブランドもまた、新しいエナジーを得たと言えるだろう。
YOONとVERBAL、そしてオーデマピゲの情熱から生まれた「ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン」は、そこに関わるすべての人にとって、新しい頂点であり、新しい始まりとなるものだ。


ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン/手巻き、チタンケース、ケース径38.5㎜、パワーリザーブ約72時間、マイクロモザイクパターンのラバーストラップ(付け替え可能なブラックとレッドの2本付属)、シースルーバック、2気圧防水、世界限定150本。176,800CHF(参考価格¥39,270,000)

篠田哲生(時計ジャーナリスト)
1975年、千葉県生まれ。時計専門誌やビジネス誌、ファッション誌、ウェブ、新聞など40を超える媒体で時計記事を執筆。そのほか、時計イベントの企画や登壇も行う。近著の『教養としての腕時計選び』(光文社新書)は、韓国と台湾で翻訳版が発売されている。
オーデマ ピゲ ジャパン
TEL:03-6830-0000
www.audemarspiguet.com









