AI技術で制作工程の無駄をなくし、 ファッションの未来を切り拓く【スペキュラティヴ・ファッションデザイナー・川崎和也】

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:倉持佑次
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川崎和也 ●1991年、新潟県生まれ。2019年にSynflux株式会社を創業し、代表取締役CEOを務める。アルゴリズムやデジタル技術を取り入れた服づくりを軸に、ファッションにおける持続可能性や生産のあり方を探求し、国内外で発信を続けている。

ファッションにおける「美しさ」と「効率」は両立できるのか。その問いに、テクノロジーの側から挑み続けているのがSynflux(シンフラックス)代表の川崎和也だ。デザイナーであり研究者、そして起業家でもある彼は、衣服設計の根幹である「型紙」に着目し、産業の構造そのものを更新しようとしている。

衣服をつくる工程において、見過ごされがちな問題がある。布地の上に型紙を配置して裁断する際、どうしても余り布が生じることだ。一般的なアパレル生産では、その廃棄率は約3割に達するとされる。つまり、仕入れた素材のうち相当量が製品になることなく切れ端として処分されている。

「100万円分の生地を仕入れても、30万円分はそのまま廃棄されてしまう計算です。コストの問題だけでなく、環境負荷としても無視できません」

この課題に対し、川崎が開発したのが「アルゴリズミック・クチュール」という技術だ。AIが型紙の形状と配置パターンを最適化することで、従来の設計では避けられなかった無駄を大幅に削減。実証では廃棄量を約3分の1減らし、一着当たりの生地使用量も約15%削減する成果を上げている。

さらにこの技術は、従来のサプライチェーンにも変化をもたらす可能性を秘めている。最適なパターン生成がデータベース化されることで、小ロットやオンデマンド製造との相性が高まり、過剰在庫を前提としない生産体制への移行も見えてくる。つまり、制作工程の革新が、そのまま流通や販売のあり方にまで波及していくのだ。

この技術の本質は、単なる効率化だけにとどまらない。AIが生成する膨大なパターンの中には、人間の発想からは生まれにくい形状も含まれる。川崎はそれを「新しい美の入り口」として捉える。

「従来なら不合理として排除されていたかたちの中に、魅力的な造形が潜んでいることがあります。AIは効率化のための道具であると同時に、発想を広げるパートナーでもあるんです」

実際にエイポック エイブル イッセイミヤケとの協業では、アルゴリズムによって導かれた型紙から、従来とは異なる新たな衣服構造が立ち上がった。そこには、機能性と造形性が同時に共存する瞬間があったという。

川崎がこうした領域に踏み込んだ背景には、ファッション産業の時間軸への違和感がある。シーズンごとに更新され続ける短期的なサイクルの中で、構造的な問題は後回しにされがちだった。

「ファッションはどうしても目の前のシーズンに追われる産業です。でも、100年単位で考えた時になにが残るのか、誰かが考えてもいいはずだと思いました」

その視点は、彼が掲げる「スペキュラティヴ(思索的)」という姿勢にも通じる。すぐに答えが出ないテーマに対して、長期的に問いを投げかけ続ける態度だ。Synfluxの活動もまた、単なるプロダクト開発ではなく、産業のあり方そのものを問い直す実践として位置づけられる。

現在、同社は国内外のブランドと連携しながら技術の社会実装を進めている。ゴールドウインやイッセイ ミヤケといった企業との協業に加え、ヨーロッパ市場への展開も視野に入れる。環境規制が進む欧州では、廃棄物削減や資源効率の向上が強く求められており、その文脈においても川崎のアプローチは高い親和性を持つ。

「環境のためにデザインを我慢するのではなく、創造性を保ったまま問題を解決する。その両立を実現することが、自分たちの役割だと考えています」

衣服は感覚的なプロダクトであると同時に、工業的なプロセスの産物でもある。その両義性に正面から向き合い、数式と美意識を接続する試みは、既存のファッションの枠組みを静かにゆさぶる。川崎和也の実践は、派手な表現とは異なる地点から、産業の未来を確実に書き換えつつある。

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イッセイミヤケによるA-POCの思想と、アルゴリズムを掛け合わせたプロジェクトを展開。「アルゴリズミック・クチュール」により、一枚の布から無駄なく導いたパターンで、機能性と造形美を両立するジャケットを具現化した。© ISSEY MIYAKE INC. / photo : Olivier Baco

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アルゴリズム設計により型紙配置を最適化し、無駄を大幅に削減。従来(上)と比較しパターン効率を高めた設計工程を可視化した図。

 

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ゴールドウインとの共同技術を用い、効率と環境配慮を両立した衣服も提案。写真はロンドンで行われた展示会の様子。 © Fabrica X / photo : Calum Barlow

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PICK UP 

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『惑星のためのファッション』(BNN)
ファッション産業が抱える過剰生産や大量廃棄の問題に対し、衣服のデザインと技術を軸に、持続可能な社会への道筋を示す。ものづくりを考える視点が詰まった川崎初の単著。

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PERSONAL QUESTIONS

仕事以外で時間を使うことは?

ほぼ仕事と地続きなんですけど(笑)、本を読んだり、考えごとをしている時間は多いです。社会とかテクノロジーの話を、自分の関心と結びつけて整理する感じですね。

影響を受けた本・言葉は?

最近だと『アバンダンス 「豊かな時代」を呼びさませ』が印象に残っています。制約ありきではなくて、豊かさを前提に考える視点が面白くて、結構影響を受けました。

思考がクリアになる瞬間は?

別々の領域の考え方がつながった時ですね。研究的なロジックと、ファッションの感覚的な部分が噛み合うと、一気に整理されて視界が開けるような感覚があります。

個人的な関心テーマは?

やっぱり服づくりの仕組みそのものですね。どういう構造で一着ができているのか、その裏側をちゃんと理解して、よりよく更新していきたいなと思っています。