【リアルすぎて怖い】ロン・ミュエクの巨大彫刻が暴く、人間の「心」の正体|森美術館

  • 文&写真:はろるど
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ロン・ミュエク『マスクⅡ』 2002年 個人蔵 展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026年 カルティエ現代美術財団と森美術館の共催により実現した国際巡回展。パリ、ミラノ、ソウルに続いて、ここ東京にて開催されている。

「リアルすぎる彫刻」で知られるアーティスト、ロン・ミュエク(1958年オーストラリア生まれ、英国在住)。しかし森美術館で開催中の『ロン・ミュエク』展で体験するのは、単なる技巧への驚きではない。巨大化した人体、あるいは極端に縮小された身体…。展示空間を進むうちに、強い違和感に襲われ、自らの知覚までも揺さぶられる。

巨大な女性像が生み出す、不思議な違和感とは?

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ロン・ミュエク『イン・ベッド』 2005年 所蔵:カルティエ現代美術財団 展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026年

『イン・ベッド』は、2006年に開催された「カルティエ現代美術財団コレクション展」(会場:東京都現代美術館)に出品され、作品写真が展覧会のキービジュアルに使用されたことでも話題を集めたもの。全長約6.5メートル、幅約4メートルに及ぶ巨大な彫刻には、白いベッドに横たわる中年女性の姿が表現されている。手で顎を支えながら、透き通るような瞳で宙を見つめる表情は、どこか物思いに沈んでいるようにも思える。

その前に立つとモニュメントのような作品の大きさに圧倒されるが、ちょうど目線の高さに位置する女性の横顔に目を向けると、決して視線が合わないことに気づく。また目尻の皺や眉毛、指の爪に至るまで生々しいリアリティを備えながら、実際の人体とは異なるスケール感によって不思議な違和感を生み出している。そして「彼女は一体何を思っているのか」と想像を掻き立てても、心の内は容易には見えてこない。

わずか50点ほどしか存在しないミュエク作品

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ゴーティエ・ドゥブロンド『ロン・ミュエクのスタジオ、ロンドン、2005-2013』 2005〜2013年 25年以上にわたってミュエクの制作過程を記録してきたドゥブロンド。本展ではミュエクの制作の舞台裏を捉えた、写真シリーズと映像2点が展示されている。

ロン・ミュエクとはどのようなアーティストなのだろうか。ドイツ系の人形職人を母にもつミュエクは、テレビや映画の造形制作の世界でキャリアをスタートさせ、1990年代半ばから彫刻作品の制作を開始する。1996年にはロンドンのギャラリーで開催された展覧会に出品し、現代美術界にデビューを果たした。以降、具象彫刻作家として活動を続けるが、その表現は当時の英国現代美術界において決して主流ではなかった。

2001年、第49回ベネチア・ビエンナーレで巨大な少年像『ボーイ』を発表すると、国際的な注目を集める。近年にはソウルやオランダ・ハーグで個展を開催し、2025年から翌年にかけてはシドニーでも個展を開いた。そしてミュエクの創作の特徴として挙げられるのが、非常に寡作であること。一作品の完成までに数ヵ月から数年を要することもあるため、この30年間で制作された作品数は50点ほどしかない。---fadeinPager---

小さな「若いカップル」と「買い物中の女」が映すもの

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ロン・ミュエク『若いカップル』 2013年 所蔵:ヤゲオ財団コレクション(台湾) 展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026年

その約50点の作品のうち、本展では日本初公開6点を含む11点が紹介されている。ひときわ小さな『若いカップル』に注目したい。身長1メートルにも満たない10代の男女は、身体を寄せ合うように立ち、その距離感からは親密な関係性がうかがえる。少年は少女に何かをささやいているようにも見えるが、少女の表情はこわばっているようだ。「なぜだろう」と思い背後へ回ると、少年が少女の手首を強くつかんでいることに気づかされる。

一人の母親と赤ん坊をモチーフとした『買い物中の女』もまた、何気ない日常のなかに潜む、拭いきれない違和感を表した作品といえる。コートの内側に赤ん坊を抱えた母親は、重そうな買い物袋を両手に提げ、疲労というよりも、むしろ悲しみを滲ませた表情で立ち尽くしている。そして赤ん坊は母親へ視線を向けているにもかかわらず、彼女自身は気づかないまま、ぼんやりと遠くを見つめている。「なぜそんなに辛そうなの?」と思わず声をかけたくなる。

日本初公開の『マス』に積み重なる無数の「誰か」

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ロン・ミュエク『マス』 2016〜2017年 所蔵:ビクトリア国立美術館(メルボルン)、2018年フェルトン遺贈 展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026年 オーストラリアのメルボルンで開催された「NGVトリエンナーレ 2017」で初公開された『マス』。空間の構造など合わせて再構成されるのが特徴で、森美術館でも約300㎡にわたるサイトスペシフィックな展示となる。

巨大な頭蓋骨の彫刻で構成されるインスタレーション『マス』が、日本で初めて公開されている。上下逆さまになり、時に積み重なる頭蓋骨の数は全部で100点。実際の人間の頭よりもはるかに大きく、頭蓋骨の隙間を縫うように歩いていると、まるで墓場のなかに迷い込んだような錯覚に囚われる。注意したいのは、一つとして同じ頭蓋骨がないこと。色やひび割れ、歯の欠け方などが異なっていて、それぞれに別の「誰か」であったことを物語っている。

フランスの写真家で映画監督のゴーティエ・ドゥブロンドによる、2点の映像もぜひ見ておきたい。そのうちの一つでは、ミュエクがかつて使用していた、ロンドンのスタジオや作品展示の現場を記録。粘土の造形から表面の細かな仕上げ、さらに複数のパーツを組み合わせて完成させる工程が克明に捉えられている。映像にじっくり向き合うことで、ミュエクの人間への眼差しがどのように作品に投影されているのかを深く感じることができる。

『ロン・ミュエク』

開催期間:開催中〜2026年9月23日(水)
開催場所:森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー
開館時間:10時~22時
 ※火曜日は17時まで。ただし8/11、9/22は22時まで
 ※最終入館は閉館時間の30分前まで
会期中無休
観覧料:一般¥2,300(平日) 他
https://www.mori.art.museum/jp/

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。