沖縄の新たな文学を切り拓き、 歴史と若者たちの“生”をつなぐ【小説家・豊永浩平】

  • 写真:湯浅 亨
  • 文:今泉愛子
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豊永浩平
豊永浩平 ●2003年、沖縄県那覇市生まれ。琉球大学人文社会学部卒業。在学中の24年、『月ぬ走いや、馬ぬ走い』でデビュー。第67回群像新人文学賞、第46回野間文芸新人賞を受賞。最新作の『はくしむるち』は第39回三島由紀夫賞を受賞した。

沖縄戦に動員された少年兵と、現代の少年たちが交錯する長編小説『はくしむるち』。明治政府による琉球処分から沖縄戦、そして現在の米軍基地まで続く沖縄の歴史を、弱冠23歳の小説家・豊永浩平は若者たちの〝生〟をつなぎ現代の小説として結実させる。デビュー作の『月ぬ走いや、馬ぬ走い(ちちぬはいや、うんまぬはい)』にも共通する、ふたつの時代を交互に描く構造は、手塚治虫の漫画『火の鳥』から着想を得た。

「小説を書くなら、自分が生まれ育った場所を理解し、そこからなにが出てくるかを見なくてはいけないと思いました。その過程でぶち当たったのが暴力です」

豊永が描くのは、暴力が大きく横たわる日常。少年兵も少年たちも、いまを生き延びることに精一杯だ。読んでいると、振り子のように時代が行き来することで、暴力はいつの時代にもかたちを変えて存在していることに気付く。

沖縄の歴史を描いた小説はこれまでもあった。しかし豊永は、歴史小説として完成させるのではなく、現代につなぐことに力点を置く。その背景には、沖縄という土地への切実な眼差しがある。

「沖縄は多くの人にとって、リゾートとして訪れる南の島として捉えられています。行きたい場所は、沖縄美ら海水族館であったり国際通りであったり。僕が生まれる前から既にそのイメージが強かったようですが、琉球大学で学ぶ中で、沖縄がこれまで積み重ねてきた歴史やイメージの変遷を再認識して、その変化を考えてもらうことを意識しました」

豊永浩平がコレクションするフィギュアの一部
フィギュアのコレクションの一部。『はくしむるち』の主人公・行生はウルトラマンが大好きな少年として描かれる。初代ウルトラマン(左)と仮面ライダークウガは、自宅でもこうして台に座り、豊永の執筆を見守る。

リゾート地として盛り上がる一方で、沖縄が歩んできた歴史は年々見えにくくなっている。

「現在と過去をリンクさせることで、〝生〟の重さはどの時代も同じなんだということも感じてもらえるのではないかと考えました」

豊永にとって時代をつなぐことは、小説を面白くする技法ではない。使命なのだ。だが硬派な作風の半面、特撮やヒップホップなど、随所からサブカルチャーへの造詣が深いことも伝わってくる。こうした引き出しの多彩さを活かして読者を引き込みながら、読み終えた後には鮮烈な印象を残す。

デビュー作も舞台は沖縄だ。お盆に海を訪れた男子小学生の前に、78年前、沖縄で命を落とした日本兵の亡霊が現れる。そこから時代や世代を異にする人たちが沖縄を語り継いでいく。暴力が連鎖していく構成は圧巻だ。

両作品には巻末に参考・引用文献リストが付されている。

「沖縄戦の当事者世代ではない自分がなにに依拠して書いたのかを、しっかりと示しておく必要があると思いました」

入念な下調べは史実を扱う上で責務であり、同時に作品の力強い骨格を成す。

豊永浩平が次作に向けて読み込んでいる資料
次作に向けて読み込んでいる資料。史実をベースに物語を組み立てている。悩みは「学生時代のように大学図書館が利用できないこと」という。

2作を上梓し、作家として順調なスタートを切った豊永は、大学卒業後の25年、生まれ育った沖縄から東京へ拠点を移した。

「僕にとってはずっと沖縄から見えるものがひとつの大きな世界で、それが小説にもつながっていました。東京に来て気づいたのは、この賑やかさの裏側には、沖縄が受け止めてきたものがあるということです。テレビのニュース番組で報じる内容も東京と沖縄とでは大きく異なります。沖縄には米軍基地があり世界情勢と地続きだということも沖縄から離れて見えてきたことのひとつです」

その気付きは新たに小説の推進力になっていく。

目標とする作家を問うと、ノーベル賞作家、大江健三郎の名を挙げた。大江もまた東京で、故郷である愛媛県の村を重要なモチーフとして繰り返し書いた作家だ。

「大江さんは23歳のときに芥川賞受賞作のほかに長編を2本書いています。その筆の速さはとてもまねできそうにありません」と苦笑するが、大江の作品は熱心に読み込んでいる。

現在は沖縄を舞台にしたSF小説を執筆中だ。沖縄の風土を独自のかたちで問い直す試みは、まだ始まったばかりだ。

豊永浩平が譲り受けた、大江健三郎のお守り
愛媛にある大江健三郎の生家を訪れた際、大江の母が息子のためにつくったお守りを関係者から譲り受けた。いまは豊永の自宅に飾られている。

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PICK UP 

『はくしむるち』
『はくしむるち』
いじめに遭う行生と、80年前の沖縄戦の少年兵の修仁。異なる場所で暴力にさらされるふたり。やがて行生はある計画を実行する。タイトルは“白紙もどき”と、怪獣ムルチが由来。
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『月ぬ走いや、馬ぬ走い』
琉球大学に在学中の21歳の時に上梓したデビュー作。第67回群像新人文学賞、第46回野間文芸新人賞などを受賞。現在は文庫版も発売中。

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PERSONAL QUESTIONS

毎日欠かさず行っていることは?

読書が習慣で、最近は宗教書と哲学者レヴィナスの『全体性と無限』(熊野純彦訳)を毎日、朝と寝る前に読んでいます。どちらも分厚いのでちまちまと読み進めるしかないんです。

いま行きたい場所は?

アメリカが植民地だった時代の13州、マサチューセッツ州やニューヨーク州などに行きたいです。次作とも関連しているので、やはり自分の足でその場に立ちたいと思っています。

好きな配信コンテンツは?

東映特撮YouTubeチャンネルをよく観ます。『仮面ライダークウガ』など古い作品がいろいろ配信されるんです。最近ではNetflixの『ひゃくえむ。』『超かぐや姫!』も観ました。

会ってみたい人は?

脚本家の井上敏樹さんですね。平成仮面ライダーシリーズの脚本を多く担当した方です。漫画家さんも何人かいますが、特に市川春子さん。単にサインをもらいたいだけですが(笑)