【20年ぶり来日】ゴッホの名作『夜のカフェテラス』が上野へ、この夏必見の大展覧会|上野の森美術館

  • 文&写真:はろるど
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フィンセント・ファン・ゴッホ『自画像』 1887年4月~6月 クレラー=ミュラー美術館
© Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands.

ファン・ゴッホの前半生に焦点を当てた『大ゴッホ展 夜のカフェテラス』が、上野の森美術館にて開催されている。74点のすべての出品作は、オランダが誇るクレラー=ミュラー美術館のコレクション。ファン・ゴッホの作品約60点に加え、彼が影響を受けたハーグ派や印象派の作品も並ぶ。画家がいかにして「ゴッホ」になったのか。その問いを解く鍵が、この夏、東京に集まっている。

ミレーへの共鳴、そして最初期の作品群 

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フィンセント・ファン・ゴッホ『麦わら帽子のある静物』 1881年11月後半~12月半ば クレラー=ミュラー美術館
© Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands.

バルビゾン派やハーグ派から幕をあける本展。農民の労働と農村の風景を実直な眼差しで描いたミレーは、ファン・ゴッホが生涯にわたって敬愛した画家のひとりだ。『パンを焼く女』は、かまどにパンを入れようとする農婦のひとこまを捉えたもの。何気ない日常の所作でありながら、その人物はゆるぎない実在感をもっている。そうした様子に画家は強く共鳴し、初期から晩年まで繰り返しミレーのモチーフを参照していった。

1880年、27歳のときに画家として生きることを決意したファン・ゴッホ。翌年の『麦わら帽子のある静物』は最初期の作品で、のちの制作の参考資料として長く手元に置かれていた。また『大工の仕事場と洗濯場』には自宅の裏手を窓から眺めた光景が描かれ、線遠近法を用いた構図など、臨場感を与えようとした工夫も見られる。それに鉛筆や黒チョークをはじめとした、多様な画材を使い分けていた点にも目を向けたい。

オランダ時代が生んだ、織工と白い帽子の肖像

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フィンセント・ファン・ゴッホ『織機と織工』 1884年4月~5月 クレラー=ミュラー美術館
© Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands.

オランダのニューネン時代、ファン・ゴッホは織機に向かう織工の姿を繰り返し描く。北フランスへの旅で目にした織工を「夢遊病者のような人」として共感を覚えると、複雑な構造を持つ織機そのものに惹かれていく。そして自ら名刺サイズの写真に収めるほど愛着を示した『織機と織工』などを制作するが、実はこの時代は機械生産が主流となり、織工は「消滅しゆく職業」に他ならなかった。

画家が興味を持ったモチーフとして、ニューネンの女性たちが日常的に被っていた白い帽子があげられる。『白い帽子をかぶった女の頭部』は、プリーツのついた白いガーゼの帽子を身につけた女性の頭部をクローズアップした作品。帽子と影になる顔の対比が「明暗技法のような色調をもたらしている」と自ら手紙に記したように、暗い色調の中に表れる光の効果や奥行きを探求している。---fadeinPager---

印象派との出会いが開いた、光と色の世界

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フィンセント・ファン・ゴッホ『レストランの室内』 1887年夏 クレラー=ミュラー美術館
© Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands.

パリへ出たファン・ゴッホは、印象派との出会いなどにより、わずか2年で色調や筆触を劇的に変化させた。自ら居住していた『モンマルトルの丘』では、同地を象徴する風車が並び、それまでの作品からは想像もつかないほど青く明るい空が広がっている。またパリではモデル代の工面が難しく、代わりに自らの姿を繰り返し描くようになった。細かい筆致を用い、淡い色彩でまとめた『自画像』は、それを代表するような一枚だ。

ブルジョワジー向きのレストランを舞台とした『レストランの室内』は、新印象派の手法を最も鮮明に示す作品のひとつ。スーラやシニャックを思わせる点描の筆使いに加え、補色によるコントラストが効果的に用いられ、上品で落ち着いた雰囲気も感じられる。ただ画家自身は中産階級にシンパシーはなく、本作も一度使用された古いカンヴァスの裏に描かれていることから、実験的な性格を帯びていた可能性も否めない。

約20年ぶりの来日、『夜のカフェテラス』の前に立つ

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フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス(フォルム広場)』 1888年9月16日頃 クレラー=ミュラー美術館
© Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands.

約20年ぶりに来日を果たした『夜のカフェテラス(フォルム広場)』が圧倒的な輝きを放っている。アルルの中心フォルム広場で夜中に描かれた本作は、画家が愛読していたモーパッサンの小説「ベラミ」の冒頭、主人公が目にしたカフェの夜景がモデルとされている。テラスを照らす黄色いガス灯の灯りは、鮮やかなコバルトブルーの夜空に瞬く星々の美しさをいっそう際立たせている。

何度も図版で目にした傑作といえども、リアルな画布の前に立つと気づきは尽きない。思いのほか絵具が厚く盛られたランプの灯りは、人々の集うテラスを煌々と照らし出す。しかし画家の視点はどこか奥まった位置にあるようで、会話すら聞こえてきそうなほど賑やかな光景を描きながら、静かな孤独感がそこはかとなく漂う。「そう、これは黒のない夜の絵だ」との言葉を記した画家の心中を自由に思いながら、絵の前にしばし佇んでみてほしい。

『大ゴッホ展 夜のカフェテラス』

開催期間:開催中〜2026年8月12日(水)
開催場所:上野の森美術館
東京都台東区上野公園1-2
開館時間:9時~17時30分
 ※金・土・祝日は19時まで。
 ※入館は閉館の30分前まで
会期中無休
入場料:一般¥2,800(平日) 他
※7月1日からは完全日時指定予約制。チケットの購入や入場方法に関する詳細は、東京展公式サイトをご確認ください。
https://grand-van-gogh-tokyo.com/

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。