IWCシャフハウゼンが今年のテーマとして掲げたのは「エンジニアリング」だ。そもそもIWCは、アメリカ人の時計技師であり、エンジニアのフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズによって1868年に創業されたブランドで、そのDNAにはパイオニア精神が宿る。そうしたエンジニアリングの情熱が息づく最新作と向き合ったのが、俳優の福士蒼汰。役者として常に挑戦心を抱き、新たなステージに立つ福士は、IWCの新作を纏い、なにを思うのかーー。
エンジニアリングが目指す、果てしない宇宙への旅
パイロット・ウォッチ・ベンチュラー・バーティカル・ドライブ/宇宙飛行認証を取得した2026年の最新作。ベゼルはチタンの軽量性とセラミックの硬度や耐傷性を兼ね備えるセラタニウムを採用。堅牢性と弾性に優れ、温度変化や腐食にも耐える。自動巻き、セラミックケース、ケース径44.4㎜、パワーリザーブ約120時間、ラバーストラップ、10気圧防水。¥4,079,900
一般的なエンジニアリングから思い浮かぶイメージは、理路整然としたロジカルな発想と効率や合理性に基づく機能の追求だ。しかし、IWCの提唱するエンジニアリングには、それ以上の豊かな創造性とかき立てられるような熱い情熱が根底にある。その象徴となるのがIWCを代表する天才時計技師、クルト・クラウスだ。
ムーブメント開発責任者として1980年代に革新的な永久カレンダー機構を開発。それまで熟練の時計師にしか組み立てられず、使用においても煩雑な設定操作を要した複雑機構を再設計し、量産性に優れ、日常的に使うことのできる実用機構へと進化させたのだった。それは、当時クオーツ時計の台頭によって低迷していた機械式時計の復興に貢献し、現在に至るIWCの技術革新の先鞭をつけたといっていいだろう。
だがそれもけっして数理や机上の論理から生まれたのではない。基本にあったのは「もう少しこれができるはずだ」というシンプルにして最も大切な問いを続けることにあったという。可能性の限界を押し広げることで、さらに新しい視座に立つ。エンジニアとは、そうした心の持ち方や姿勢であり、問題の解決に向き合い、不断に行動する職業であるということだ。
「時計を完全に組み立てて、それが完璧に動くのを見ることができる。それは私にとって、時計製造の誇りでした」とクラウスは語る。時計製造の頂点を極めた偉人であり、知識の宝庫ともいえる氏の言葉こそがIWCに受け継がれるエンジニアリングの精神なのである。
ブランドの標榜するエンジニアリングのテーマは、1936年に初のパイロット・ウォッチを発表してから90年を迎え、そのさらなる先にある宇宙へと向けられた。IWCはこれまでも有人宇宙飛行ミッションに参加し、宇宙空間での計時の実績を積んできたが、それは従来の航空時計を改造したものであり、特殊な用途への専用設計ではなかった。
昨年IWCは宇宙居住技術企業であるVASTの公式タイムキーパーを務めることを発表し、現在建設中の世界初の商用宇宙ステーションとなる「Haven-1」での飛行に向けて協業を進めている。そこでゼロから特別に設計・開発された次世代のツールウォッチが「パイロット・ウォッチ・ベンチュラー・バーティカル・ドライブ」である。
振動や圧力変化など過酷な使用環境に耐えることはもちろん、シンプルなデザインには本来あるべきリューズはない。これは宇宙飛行士が手袋を装着した指先でも、ベゼルの回転で巻き上げや時刻合わせができるように設計された。その機能も左サイドのロッカースイッチによって容易に切り替えができるのだ。
文字盤には時分秒針のほか、白いV字型の先端をもつ24時間表示針を備える。24時間に16回もの日の出と日の入りを体験する宇宙空間にあっても、地球上の昼夜のサイクルを維持するための機能であると同時に、第2時間帯を表示することも可能だ。
宇宙飛行認証を取得した初のIWCウォッチであり、ここから無限に広がる時を刻み始めるのだ。
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「永久」と呼ぶにふさわしい、世代を継いで進化する“詩的”な複雑機構
最新モデルの「ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・プロセット “プティ・プランス”」を纏う福士。リューズだけで直感的に操作できる仕組みに興味津々の様子だった。2100年まで調整が不要な複雑機構「パーペチュアルカレンダー」は、詩的であり、どこか知的な雰囲気をも醸成する。
はるかな天空の動きが人類に時の概念をもたらして以来、いつの時代も宇宙は時計づくりに携わる者に刺激と新たな創造性を与えてきた。永久カレンダーもそのひとつだ。日付表示は大の月と小の月にかかわらず、4年に1度の閏年でも正確に自動日めくりする。このグレゴリオ暦の複雑なリズムを機械的に自動処理する複雑機構をさらに進化させたのが、前述のクルト・クラウスである。
1985年に発表した「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフ」は、それまで日付や曜日、月やムーンフェイズといったそれぞれの表示調整用に備えた個別のコレクターを省き、リューズ操作だけで簡単に同期調整できるようにした。さらに閏年の4年周期を示すのではなく、4桁の西暦表示によってより長い時間の流れを表示し、2100年に1日の先送りを要するまで正確に作動するのだ。
こうした高精度と実用性を両立しつつ、約80個のパーツで構成するモジュール式にしたことで製造やメンテナンスも向上した。それは、高性能をただ複雑な機構で実現するのではなく、優れた設計によって部品点数を減らし、メカトラブルを避け、耐久性も上げるという合理的なエンジニアリング発想であることはいうまでもない。
ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・プロセット “プティ・プランス”/大径ケースと大型リューズというビッグ・パイロットの特徴を活かし、最新鋭の多彩な表示を搭載しながらも視認性や操作性に優れる。自動巻き、セラミックケース、ケース径42.9㎜、パワーリザーブ約60時間、シースルーバック、ラバーストラップ、10気圧防水。¥6,314,000
1985年に発表された画期的な永久カレンダー機構は、ムーンフェイズの高精度化など技術に磨きをかけながらも、基本機構を変えることなくこれまで継続してきた。しかし40余年を経た今年、ついに大きな進化を遂げた。それが“IWCプロセット”だ。
クラウスが発明した革新的な機構にもひとつの課題があった。リューズひとつですべてのカレンダーを同期調整できたが、前進しかできなかったのである。これを解決すべくIWCプロセットは開発され、完全に同期させたホイールに基づく設計により、前後調整が初めて可能となり、カレンダーの設定と操作がより容易にできるようになった。
これを搭載する「ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・プロセット “プティ・プランス”」は、個別のコレクターはもちろん、リューズ位置の変更や複雑な設定も不要で、特許取得済みのクイック修正機能によってカレンダーは1日単位で正確かつ感覚的に表示を調整できる。
さらに上方に位置したブランドのシグネチャーであるムーンフェイズも改良された。北半球と南半球の月相を同時に表示するユニークなダブルムーンは、これまでおもに約577.5年に1日の誤差とされていたが、これを1040年に1日の誤差へとさらに高精度化した。クラウスの偉業は次世代を担う技術者によって継承され、新たな永久カレンダーとして進化を続けていくのだ。
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星の王子さまに込められた、慈しみと探検心に思いを馳せて
IWCと、フランス人パイロットであり作家のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの遺族とのコラボレーションは、今年20周年を迎えた。2009年には人道主義や教育の価値を守ることを目的に財団を設立し、以来IWCはその主要パートナーを務めている。
両者を結びつけているのは、子どもや若者の教育支援、識字率向上、社会的に不利な環境にある人々の支援への共通した思いであり、限定モデルを継続的に発表し、その収益を活動プロジェクトに寄付する。それは単なるブランドのコラボレーションとは異なるのだ。
サン=テグジュペリの代表作『星の王子さま』は、650以上の言語と方言に翻訳され、幼い王子が故郷の星を離れ、壮大な宇宙の旅の間、出会ったものと愛や喪失、友情について会話を交わす。描かれているのは、ヒューマニズムという時を超えた深遠なるテーマであり、そこには郵便航空飛行士だった作者サン=テグジュペリが冒険と孤独の経験から育んだ慈しみの眼差しが注がれている。そんな天空に広がるロマンティシズムもIWCのパイロット・ウォッチの世界観に共通する魅力だ。そして両者がコラボレーションしたモデルを手にすれば、きっとその思いに近づくことができるだろう。
パイロット・ウォッチ・マーク XX “プティ・プランス”/自社製ムーブメント「Cal.32112」を搭載し、シリコン製脱進機の採用のほか、従来の42時間から約120時間に駆動時間を飛躍的に伸ばした。自動巻き、SSケース、ケース径40㎜、パワーリザーブ約120時間、ラバーストラップ、10気圧防水。¥897,600
20周年を祝うアニバーサリーエディションでは、前述のパーペチュアルカレンダーをはじめ、クロノグラフや3針モデルなど多彩なパイロット・ウォッチが発表された。さらに、このアニバーサリー企画は初めて「ポートフィノ」コレクションにも展開される。
なかでも注目度が高いのは「パイロット・ウォッチ・マーク XX“プティ・プランス”」だ。歴代のコラボレーションモデルでは、「パイロット・ウォッチ・マークXVII」と「マークXVIII」が登場し、特徴であるブルー文字盤とホワイトの針やインデックスの躍動感あるコントラストとパイロット・ウォッチならではのシンプルな機能美が人気を呼んだ。
新作は、2022年に発表された「マーク XX」をベースに、ディープブルーの文字盤にホワイトのインデックスと、ホワイトのスーパールミノバを施したゴールドカラーの針を備える。アニバーサリーエディションにふさわしいドレッシーなスタイルは、「EasX-CHANGE システム」の搭載によりブルーのラバーストラップからレザーストラップにも容易に交換でき、シックにも着けこなせるだろう。もちろんケースバックには「星の王子さま」のイラストが刻印され、その愛らしさに愛着もさらに増す。
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福士蒼汰が語る、「いまを大切に生きる」ことの重要さ
撮影では最初に手にした「パイロット・ウォッチ・ベンチュラー・バーティカル・ドライブ」に、福士蒼汰は強い関心を寄せた。その理由は、俳優デビュー時期に宇宙をテーマにした「仮面ライダーフォーゼ」の主人公を演じたからだ。「宇宙と聞くと、まずそのヒーロー時代が蘇りますね」と笑う。
「『仮面ライダーフォーゼ』に出演させていただいたのが15年前で、時が経つのはあっという間だなという思いがある一方で、着実に一歩一歩、歩んできたように感じます。簡単に過ぎたわけではないですが、本当にいい時を過ごすことができました」
月を見るたび、そんな思いが深まると同時に創造性をかき立てられるという。
「以前、月をテーマにしたショートフィルムの監督をさせていただいた際、夏目漱石が『アイラブユー』を『月がきれいですね』と訳したとされる逸話や、さらに二葉亭四迷が その返事を『死んでもいいわ』と訳したことに着想を得ました。登場する恋人たちの恋愛は進みながらも、そこに儚さがある。そのなかで月の持つエネルギーと永続性について思いを深めました」
自身にとって月はそんなロマンの対象なのだろう。そして月光に輝く部分と影の部分が同時に存在しているところにも強く惹かれるという。「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフ」に魅了されたのは、緻密な機構にさらなる完成度を極めたエンジニアリングだ。
「細かな部分に気を配り、注意を払う。でもそうしなければとんでもなく大きなミスにつながることがわかっているのだと思います。先程お話を伺いましたが、複雑なカレンダー機構を改良し、より実用的に使えるようにした点も興味深いです。直感的に操作でき、こうなったらいいと感じたことを実現したわけですよね。それも機械式で」
そうしたエンジニアリングに惹かれると同時に、趣味で武術も嗜む。そうしたフィジカルな志向とはどのように共存するのだろう。
「精神性みたいなところは似ている気がします。武術も無駄のない動きは美しく、とてもしなやか。やっていてすごく面白いです。研ぎ澄まし、合理的になるほど美しいという魅力はエンジニアリングともつながっていると思います」
その上で、「実は僕、理系なんですよ」と打ち明ける。「俳優の道を選んでいなければ研究者になっていたかもしれないですし、それこそ実験室にこもって黙々と研究をしていたかも」と語るように、根っからのエンジニア気質だったのだ。
続けて福士は、「『星の王子さま」の作者が元郵便飛行士というのも面白いですね」と「パイロット・ウォッチ・マーク XX“プティ・プランス”」の印象を語る。どんなに苛酷な状況でも飛び続けなければならない仕事への使命感や勇敢さ、不屈の精神があったからこそ、サン=テグジュペリは大空に広がるロマンティシズムを感じたのだろう。そしてそこに90年にわたってパイロット・ウォッチをつくり続けるIWCとの親和性を感じるという。その腕につけた時計のブルー文字盤もよく似合う。なにしろ自身の名には“蒼”があるのだから。
最後に自分にとって時間とはどのような存在か尋ねた。
「以前、先輩の役者さんから誕生日に置き時計をいただきました。『素晴らしい時を刻んでください』というメッセージが添えられていて。その方はもう亡くなられてしまいましたが、時間を見るたびに横に置いたそのメッセージを目にして、『素敵な時間を過ごそう』と思います。俳優という仕事は、いまという時間をいかに感じるかが大切で、どれだけ準備を整えても本番のその瞬間こそが重要です。そしていまを生きている存在を演じられた時に、見てくださる方も人間的なものを感じとっていただけますし、感動していただけると思います。いまという、生きている上で大切にすべきものが僕にとっての時間なのです」
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「パイロット・ウォッチ」誕生90周年を祝う、“空の、その先”へ導く7日間限定のエキシビションが開催

IWCはパイロット・ウォッチ誕生90周年を祝い、初のエキシビションを開催する。「The Next Space Age Exhibition」と題し、“空の、その先”を探訪する旅にゲストを導く。また、宇宙空間で使用できる腕時計「パイロット・ウォッチ・ベンチュラー・バーティカル・ドライブ」をはじめとする、パイロット・ウォッチのコレクションを多数展示する予定。IWCが掲げる宇宙へのロマンをぜひ体験してほしい。
「The Next Space Age Exhibition」
開催期間:2026年7月17日(金)~ 7月23日(木)
会場:ヒルズカフェ
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ ヒルサイド 2F
営業時間:11時~20時(7月17日は15時まで)
IWCシャフハウゼン
0120-05-1868
www.iwc.com

柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどのジャンルを中心に、現在は広告制作や編集ほか、時計専門誌やメンズライフスタイル誌、デジタルマガジンなどで執筆中。
