【写真家・森山大道の語られざる魅力】ミュージアムのあり方に一石を投じた回顧展が、世界7都市で熱狂を呼んだ理由

  • 写真&文:仁尾帯刀
Share:

KYOTOGRAPHIE 2026で話題となった森山大道の回顧展。

60年以上に及ぶ写真家の軌跡をたどった展覧会のキュレーターに、森山の作品が世界中で人気を集める理由を訊いた。

杉本博司、森山大道、レボハン・ハンイェ─知っておくべき写真表現のいま。現代の写真家たちの活動とその作品に目を向けながら、写真というメディアの奥深い魅力を浮き彫りにしていく。

『揺さぶる写真』
Pen 2026年8月号 ¥990
Amazonでの購入はこちら
楽天での購入はこちら

各都市で熱狂を巻き起こした、膨大な物量で魅せる回顧展

A_DSCN3101.jpg
写真集『プリティ・ウーマン』より 2017年、東京
約1年にわたり、東京で撮影された作品を集めた写真集に収録された1枚。京都を含む世界各国8都市で開催された、チアゴ・ノゲイラのキュレーションによる森山大道の回顧展で象徴的に使われていた。

 4月に開催された第14回目の「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026」では、「EDGE(エッジ)」をテーマに、京都の街中で国内外の写真家による大小さまざまな写真展が展開され、世界各国から約38万人の来場者を動員した。その中でも特に大きな反響を呼んだのが、シグマによるサポートのもと、京都市京セラ美術館で開催された、森山大道の回顧展だった。

1960年代から現在に至るまで、60年以上に及ぶキャリアを網羅する、200点以上の作品を時系列に並べた展示は、改めて森山の写真世界の壮大なスケールと奥深さを示した。

G_Daido-Moriyama_invite__1080-x-1350.jpg
2025年の4月から6月まで、イタリア、レッジョ・エミリアの写真祭「FOTOGRAFIA EUROPEA」のプログラムとして開催された回顧展のポスター。
F_FAW_DaidoMoriyama_Plakate_A1+A2_final.jpg
KYOTOGRAPHIEと時を同じく、2026年の1月から5月まで、オーストリア・ウィーンのフォト・アーセナル・ウィーンで開催された回顧展のポスター。
C_K1-Moriyama-jakojulisteet-210224-1.jpg
2024年の3月から6月まで、フィンランド・ヘルシンキのフィンランド写真美術館で開催された回顧展のポスター。ロングランで多くの来場者を迎えた。 © The Finnish Museum of Photography, Design: Jaakko Pietiläinen

この回顧展は、2022年にブラジル・サンパウロのIMSパウリスタで開催され、その後ベルリン、ロンドン、ヘルシンキなど6都市を巡回し、イギリスのガーディアン紙から「年間最優秀写真展」に選ばれるなど、各地で熱狂を呼んできた展覧会を再構築したものだ。

本展のキュレーターであるIMS(モレイラ・サレス研究所)現代美術部門ディレクターのチアゴ・ノゲイラに、森山の作品が、いまも世界中の観衆を魅了し続ける理由を訊いた。

B_Thyago Nogueira-4785.jpg

チアゴ・ノゲイラ Thyago Nogueira ●キュレーター ブラジルのモレイラ・サレス研究所(IMS)現代美術部門ディレクター/キュレーター。同所の写真雑誌「ZUM」編集長も兼務。おもにブラジル人写真家の展示を手掛けるほか、世界各地の写真賞の審査委員を担うなど多面的に活動。

 「回顧展に訪れた海外のキュレーターたちに、未だ掘り下げられていない森山さんの魅力について語ったところ、各国への招致を望む声が次々とあがりました」

E_TPG–DaidoMoriyama–Tokyo1982.jpg
C/O Berlinの直後となる2023年の10月から翌年2月まで、イギリス・ロンドンのザ・フォトグラファーズ・ギャラリーで開催された回顧展のポスター。 © The Photographers’ Gallery, Design: Masaki Miwa
D_7EF658A4-A017-42A0-8828-B2E6853DF658.jpg
サンパウロのIMSパウリスタに続いて、2023年の5月から9月まで、ドイツ・ベルリンのC/O Berlinで開催された回顧展のポスター。 © C/O Berlin Foundation, Design: Naroska

雑誌文化の中で育まれた、既存の美的概念を覆す写真表現 

本展が森山の過去の写真展と大きく異なっていたのは、森山がおもな作品発表の場としてきた印刷メディアと、写真家との関わりを中軸に作品を展示したことだ。

戦後日本で培われた、雑誌メディアと写真家との挑戦的かつ豊かな関係は、世界に類を見ないもので、そのメディアを自由に泳ぎ回った森山の作品群は、観るものに改めて写真表現の可能性を訴えた。

H_341_MD_00269_204mm_294mm.jpg

『アクシデント』シリーズより『アクシデント・6 事故』1969年

『アサヒカメラ』誌上で1969年1月号から1年間、12回の連作として発表された『アクシデント』シリーズの一枚。テレビ画面やポスターの複写といった手法を大胆に取り入れたシリーズとして知られる。 © 森山大道写真財団

「回顧展を開催するにあたり、森山さんの創作の軌跡をたどるために、19年に石橋財団・国際交流基金の助成を受けて訪日しました。森山さんご本人に加え、森山さんの写真集を数多く手掛けてきたパブリッシャーの町口覚さんや神林豊さんにもお会いして話をうかがうなかで、印刷メディアこそが、森山さんの表現の主戦場であったことを知りました」

I_399_MD_00218_222mm_290mm.jpg
『プロヴォーク』第3号より 1969年、東京
写真家の中平卓馬、高梨豊、評論家の多木浩二、詩人の岡田隆彦らとつくった写真雑誌『プロヴォーク』は、わずか3号で終わったが、いまも世界の写真シーンに大きな影響力を及ぼしている。 © 森山大道写真財団

IMSが刊行する写真雑誌『ZUM』の創刊から編集長を務めるノゲイラは、戦後の日本で繰り広げられた、印刷メディアの挑戦的な態度に憧憬を覚え、展示内容の着想を得たのだった。

世界の写真史が欧米偏向の美術史を踏襲した視点に立ち、ミュージアムが収蔵する作品を中心に語られてきたことをよそに、森山は60年以上にわたって、荒野とも言える都市空間のなかで、独り写真を撮り続けることから、表現の可能性を追い求めてきた。

その作品の圧倒的な物量と多様な被写体やランゲージを紹介した今回の回顧展は、ときに権威的で、枠にはめがちなミュージアムのあり方にも一石を投じるものとなった。

J_481_MD_00300_194mm_293mm.jpg
『アクシデント』シリーズより『アクシデント・12 10. 21』1969年
1969年の国際反戦デーにおける、新宿などの騒乱や群像を捉えた作品。「アレ・ブレ・ボケ」と呼ばれる森山のセンセーショナルな写真表現は、既存の写真の美学を根底から覆した。© 森山大道写真財団

「額装したオリジナルプリントをホワイトキューブに掲げる一般的な展示とは異なり、今回の回顧展では、壁一面に拡大した写真作品の上に別の写真を重ねたり、同じ写真を複数展示したりしました。

また『アサヒカメラ』誌上で69年から1年間連作として発表された『アクシデント』シリーズは、全12回連載を誌面レイアウトに忠実に展示し、72年刊行の写真集『写真よさようなら』は、全ページを原作の進行どおりに展示しました。

これは複製や拡大といった写真が持つ特性を活かし、印刷メディアにおけるアーティスト、デザイナー、パブリッシャーらの共働を尊重したものです。森山大道をミュージアムの枠におさめるのとは逆に、いわばミュージアムを森山大道化したのです」

Q_IMG_5531.jpg逗子にて、森山に中平卓馬との思い出の地を案内してもらった際の写真。1960年代、森山と中平はビニール袋に包んだ写真集を頭上に縛り、写真中央の岩まで泳いで渡り、写真談議を交わしたという。 photo taken by Sohey Moriyama

※ ブラジル人キュレーターが語った、齢87歳の生けるレジェンド森山大道の知られざる魅力とは――。記事の後半はぜひ本誌にてご高覧ください。

関連記事

表紙6月売り_saisai_fix.jpg

『揺さぶる写真』
Pen 2026年8月号 ¥990
Amazonでの購入はこちら
楽天での購入はこちら