石内都、川内倫子、蜷川実花ら12人に見る、日本人女性写真家の現在地【魅力を一望する展覧会開催】

  • 編集&文:宮崎香菜
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日本の写真家たちは世界中で高い評価を得ているが、なかでも近年、熱烈に支持されているのが女性作家だ。その理由や背景を、キュレーター竹内万里子に訊いた。

杉本博司、森山大道、レボハン・ハンイェ─知っておくべき写真表現のいま。現代の写真家たちの活動とその作品に目を向けながら、写真というメディアの奥深い魅力を浮き彫りにしていく。

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花火のように打ちあがる力強さが魅力

頭上に椅子を掲げて、視線をこちらに投げかける女性。片山真理のセルフポートレートには、「見る・見られる」の関係を反転させるような強さがある。

「シンプルな設定ですが、作品の中にただならぬ覚悟がみなぎっているように感じられます」

こう話すのは、今夏開催される「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展キュレーター竹内万里子だ。片山を含む30作家による同展は、海外における日本の女性写真家への注目の高まりを背景に企画された。それは、日本の写真が男性を中心に語られてきたことと関係しており、片山の作品はそんな状況を打破する象徴である。

「女性たちは、女性だからといって椅子を用意されては都合よく使い捨てられる経験を重ねてきました。出身や身体的特徴においても同様に。そこで片山さんは自ら椅子を掲げ、自分たちの場所はここだと示したのです」

同展は、2024年に米仏で刊行された、日本の女性写真家を紹介する書籍『I’m So Happy You Are Here』に端を発する。書籍編纂者たちと寄稿者だった竹内が、フランス・アルル国際写真祭でキュレーションした同名展は評判を呼び、欧米5都市を巡回中だ。

反響の理由として写真シーンの変化と、その3つの要因を挙げる。

「まず、日本写真の国際的評価の確立です。03年のアメリカ、ヒューストン美術館での『日本写真史展』は150年の流れを総覧するエポックメイキングなものでした」

ふたつめは1990年代以降の写真家たち個々の活躍だ。

「杉本博司さん、森山大道さん、川内倫子さんたちが欧米の美術館で個展を開催し、若手も続々と海外で作品を発表し始めました」

さらに3つめは、欧米からアジアやアフリカへ、男性から女性へ。より多様な視点の獲得を目指す世界的な動きがある。

「その前提には、これほど優れた作品が十分に知られていなかったことへの驚きがあります」

竹内は、欧米巡回展の凱旋記念である「まなざしの奇跡」展について、「女性であることは、人間の複雑なアイデンティティの一要素にすぎません。それでも日本社会におけるジェンダーバイアスはいまだに根強い。だからこそ写真という枠組みすら超える30人のダイナミックな強烈な個性が、女性や写真をめぐる私たちの先入観を崩し、クリエイティビティをめぐる新たな視点をもたらせるような展覧会にしたいですね」と話す。

あるとき巡回先のドイツで、このような言葉をかけられたという。

「一見、各々の花が咲くガーデンみたいだけど、見終わると、ひとつのファイヤーワーク(花火)のように打ち上がる力強さがある」

これこそが日本の女性写真家たちの魅力である。

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片山真理

1987年、埼玉県生まれ。群馬県太田市で育つ。現在、伊勢崎市在住。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。自身の身体を模したオブジェを用い、幼い頃より親しんだ裁縫やコラージュを活かしたセルフポートレートを制作。木村伊兵衛写真賞受賞、森アートアワード初代グランプリ。テート・モダン(ロンドン)、ヨーロッパ写真美術館(パリ)など内外で個展多数。

片山真理『study for caryatid #001』 2023年『study for caryatid #001』 2023年 © Mari Katayama, Courtesy of Yutaka Kikutake Gallery and Galerie Suzanne Tarasieve, Paris, Mari Katayama Studio.

「片山さんの作品は、『見る・見られる』という関係性や身体感覚を強く喚起します。椅子を掲げて凛として立つ姿は、自分のことは自分で絶対コントロールしていくのだという表明のようにも見えます」(竹内)

山沢栄子

1899年、大阪府生まれ。私立女子美術学校(現・女子美術大学)日本画科卒業後、1926年に渡米。アートスクールで絵画を専攻すると同時に写真家コンスエロ・カナガの助手となる。31年に大阪で商業写真スタジオ開設。60年以降は作品制作と後進育成に取り組む。95年死去。「What I Am Doing」と名付けられたアブストラクトシリーズは70歳を超えてから取り組んだ作品。

山沢栄子『What I Am Doing No.77』 1986年『What I Am Doing No.77』 1986年 © Yamazawa Eiko, Courtesy of The Third Gallery Aya

海外の展覧会会場で、高齢の観客に『この作品が好き』と声をかけられたという竹内。「背景を説明したら驚かれると同時に『元気が出る』と言ってもらえました。知識から入らなくてもよい作品は伝わると実感しました」

岡上淑子

1928年、高知県生まれ。文化学院在籍中にコラージュを始め、日本にシュルレアリスムを紹介した瀧口修造に見出される。結婚で制作から離れるが、2000年に個展が開催され話題に。19年「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」(東京都庭園美術館)開催。

岡上淑子『暮色』 1956年『暮色』 1956年 © OKANOUE Toshiko, Courtesy of The Third Gallery Aya 

「10年にも満たない制作活動ののち、40年以上経って、写真史家の金子隆一さんが企画した個展を機に、再び注目を浴びた稀有な存在。占領軍によって流通した洋雑誌を素材に、まったく別の文脈で展開するコラージュは、フレッシュで繊細で時代を超える魅力があります」(竹内)

米田知子

1965年、兵庫県生まれ。ロンドンを拠点に活動。20世紀のイデオロギーをテーマにリサーチを重ね、戦争、災害、事件の舞台となった場所を訪れ、歴史と記憶をテーマに制作を続ける。

米田知子『フロイトの眼鏡— ユングのテキストを見るⅠ』 I998年『フロイトの眼鏡— ユングのテキストを見るⅠ』 I998年 © TOMOKO YONEDA, Courtesy of ShugoArts

「米田さんは、目に見えない記憶をさまざまな方法で視覚化することに取り組まれています。本作は『Between Visible and Invisible』というシリーズで、歴史上の著名な哲学者、政治家、作家などが使っていた眼鏡越しに、その人物にまつわる文章を見せた作品です。歴史は一個人から構成されていくものだと改めて発見させてくれます」(竹内)

石内 都

1947年、群馬県桐生市生まれ。横須賀市で育つ。79年に女性写真家として初の木村伊兵衛写真賞受賞。2005年ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館代表。08年『ひろしま』で毎日芸術賞受賞。14年アジア女性初のハッセルブラッド国際写真賞受賞。本シリーズは、母の遺品にまつわる記憶を表現した。

石内都『Mother’s#39』 2002年『Mother’s#39』 2002年 © Ishiuchi Miyako, Courtesy of The Third Gallery Aya 

竹内は石内が国際的に評価される理由を「技術の追求というオブセッションを手放して、ものと見る人との距離をていねいにたどることに徹する。写真を巡る環境が変化するなか、技術から写真を解放し、アーティスティックに世界と対峙する姿勢が評価されていると思います」と述べる。

やなぎみわ

1967年、兵庫県神戸市生まれ。京都在住。2009年、ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館代表。11年から舞台演出家としても活動。一見華やかでありながら、閉鎖的な空間に閉じ込められた若い女性を描いた「エレベーター・ガール」シリーズは、ジェンダーの視点からも内外で高く評価された。

やなぎみわ『案内嬢の部屋 1F』 (2点組の右側のみ) 1997年『案内嬢の部屋 1F』 (2点組の右側のみ) 1997年 © YANAGI Miwa 

「女性、若さと老い、消費、歴史、社会と複雑なテーマが絡み合う、演劇性の高い作品が多く、近年では実際にさまざまな舞台演出も手掛けています。1990年代からデジタル合成による写真作品を制作しており、その意味でも先駆的な存在です」(竹内)

志賀理江子

1980年、愛知県生まれ。ロンドン芸術大学留学を経て、2008年より宮城県在住。木村伊兵衛写真賞受賞。訪れた地のコミュニティを取材し、その営みを深く追求。東日本大震災の被災経験から生まれた「螺旋海岸」シリーズがある。近年はスタジオを開放してトークやワークショップなどを行う。

志賀理江子『こどものあそび』 2012年『こどものあそび』 2012年 © Lieko Shiga

「土地や人が持つ深い記憶に降りる手段として写真を使い、人と濃厚に関わり合いながら制作するので、結果、ドキュメンタリー、フィクションなど区分けすらも無用な地点まで降りていく、こう撮らねばというルールを持たない唯一無二の存在です」(竹内)

蜷川実花 

1972年、東京都生まれ。多摩美術大学在学中に「ひとつぼ展」グランプリ、キヤノン写真新世紀優秀賞受賞。木村伊兵衛写真賞受賞。映画監督としても活躍。クリエイティブチーム「EiM」の一員としても活動。

蜷川実花「Dancing with Shadows in the Light」より 2024年「Dancing with Shadows in the Light」より 2024年 © mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

「一目で蜷川さんとわかるビビッドな色彩が特徴で、最近はイマーシブなインスタレーションにも取り組んでいます。今回は、沖縄の海に潜り撮影したというモノクロシリーズも展示します。色彩が省かれたことで、蜷川さんが本来持っている、死を垣間見るような毒々しい世界観がより一層立ち上がっているように思います」(竹内)

野村佐紀子

1967年、山口県下関市生まれ。東京都在住。九州産業大学芸術学部写真学科卒業後、荒木経惟に師事。男性ヌードのほか、俳優、ダンサー、花や風景などさまざまな被写体と対峙し撮影を続ける。

野村佐紀子『黒闇 #15』 2009年『黒闇 #15』 2009年 © SAKIKO NOMURA

「写真史においては長らく男性が撮った女性ヌードは数多くありました。野村さんはそれとは逆に、ずっと男性ヌードを撮って来ました。薄暗い室内に佇む彼らの姿は、肩書や力強さといった『男らしさ』のプレッシャーから解放されているように見えます。それだけでなく、人の心の中にある疎外感や虚しさといった『闇』がじわじわと見る側にも迫る、目の離せなくなるような写真です」(竹内)

長島有里枝

1973年、東京都生まれ。武蔵野美術大学在学中に公募展を経て活動開始。カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻、武蔵大学人文社会研究科博士前期課程修了。木村伊兵衛写真賞、写真の町東川賞国内作家賞受賞。『「僕ら」の「女の子写真」からわたしたちのガーリーフォトへ』で日本写真協会賞学芸賞受賞。

長島友里枝DOMANI plus@愛知「まなざしのありか」展示風景より 港まちポットラックビル、愛知 2022年DOMANI plus@愛知「まなざしのありか」展示風景より 港まちポットラックビル、愛知 2022年  photo: Keita Otsuka+Shunta Inaguchi

「90年代に『女の子写真』として一方的に盛り上げられた経験をもとに、当時の言説を大学院で研究されました。修論をもとに刊行した著書の中にあるさまざまなメッセージを私自身も批評家として重く受け止めています」(竹内)

川内倫子

1972年、滋賀県生まれ。千葉県在住。2005年にパリのカルティエ現代美術財団で大規模な個展を行うなど、日本の現代写真が注目され始めた初期段階から、海外で高く評価されている。木村伊兵衛写真賞受賞。ソニーワールドフォトグラフィーアワードの特別功労賞を日本人として初受賞。

川内倫子『無題』(シリーズ「Illuminance」より) 2009年『無題』(シリーズ「Illuminance」より) 2009年 © Rinko Kawauchi

「2001年に刊行された写真集『うたたね』は既に完成度が高く、それ以降も長く深くご自身の世界観を掘り下げているのがわかります。生と死を巡る彼女の叙情詩をつくりあげる要素として、色彩、光、ボケ味などがありますが、その視点が国を超えて高い人気を誇っています」(竹内)

多和田有希

1978年、静岡県浜松市生まれ。東北大学農学部応用生物化学科生命工学専攻卒業。ロンドン芸術大学キャンバーウェルカレッジ写真学科卒業。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻博士後期課程修了。京都芸術大学教授。

多和田有希『Family Ritual』『Family Ritual』 2018年〜 第12回恵比寿映像祭「時間を想像する」展示より © Yuki Tawada, photo: Nobuhiro Saiki, courtesy of Tokyo Photographic Art Museum

「写真の表面を削るなど、写真という物体に挑み続けています。多和田さんの作品の面白いところは、そのプロセスを通じて個人または集合的な無意識や記憶、感情にアプローチしている点です。本作は家族写真などを素材に焼いたり、切ったりして物体として記憶に迫ろうとするユニークな作品です」(竹内)

竹内万里子

竹内万里子|批評家・作家、キュレーター

1972年、東京都生まれ。著書に『矛盾の海へ』『沈黙とイメージ 写真をめぐるエッセイ』など。2008年に「パリフォト」日本特集を担当するなど、日本の多様な写真表現を世界へ広く紹介してきた。京都芸術大学教授。

まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険

戦前生まれから気鋭の作家まで、世界が注目する日本の女性写真家30人が出品。「記憶」「身体」「日常」「ジェンダー」などテーマに分け、写真、映像、インスタレーションなど多様性にあふれる作品約200点を紹介する。

開催期間:7/4〜8/26 
場所:ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時〜19時 ※入場は閉館の30分前まで
無休
料金:一般¥2,200
www.bunkamura.co.jp

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