【BTSから朝鮮舞踊まで】映画『トロフィー』、在日コリアン監督が自身の経験を語る

  • 文:月永理絵
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朝鮮学校に通う14歳の少女ソヒを主人公にした、映画『トロフィー』。学校では朝鮮舞踊を習い、友人とも楽しく過ごしているが、朝鮮学校の校長でいつも「祖国」への思いを語る父に、思春期のソヒは反発心を募らせる。そんな中、ソヒは大好きなK-POPアイドルをきっかけに日本の学校に通う未来と仲よくなる。一緒にBTSのコンサートに行こうと盛り上がるふたりだが、チケット代を稼ぐため、父の大切にしていた北朝鮮の勲章を売ってしまったことで大問題に発展する。

在日コリアン4世の少女の視点から、在日というルーツとの向き合い方や親子の複雑な関係を繊細に描いた『トロフィー』。これが長編デビュー作となる孫明雅監督は、映像制作集団「分福」に所属し、是枝裕和監督や西川美和監督の現場で監督助手として経験を積んできた。また自身も在日コリアン3世で、小学校から高校まで朝鮮学校に通い、母親はソヒの父と同じく朝鮮学校の教師でもあった。デビュー作の出発点は、かつて通っていた朝鮮学校、そして母親の仕事に対して抱いていた複雑な思いだった。 

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K-POPアイドルをきっかけに親しくなるソヒと未来。圧倒的な存在感を放つYOUも出演。

「私の母親はいつも夜遅くまで働いていて忙しくしていましたし、少ない給料から学校に必要な設備のために寄付をしていて、『家族より大事な学校ってなんなの?』とずっと疑問を抱いていました。

不信感が特に強くなったのは、北朝鮮による日本人拉致問題が明らかになってから。テレビや報道で疑惑が取り沙汰されるようになっても、当初は親も先生も一貫して『北朝鮮による拉致は絶対にない』という姿勢でした。それが2002年、金正日が正式に拉致を認めたことで事態は一変しました。それまで教えられたことが間違っていたとわかり、子ども心に『大人はみんな嘘つきだ』と感じるようになりました」

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娘に反発される父を演じた井浦新。頑固だがどこか憎めないキャラクターだ。

長年、大人たちに抱いていた違和感と不信感。だが、脚本を書くために朝鮮学校の関係者たちへの取材を重ねるうち、その感情は少しずつ別の形へと変わっていった。

「一方、取材をした大人もみんなそれぞれに、朝鮮学校で働くことや、自分の子供を朝鮮学校に通わせることにいろんな思いを抱えていると打ち明けてくれました。

朝鮮学校は自分が在日であることを卑下せずに済むように育ててくれる場所であり、そのような場所が必要であること。また、祖国が大切というより、目の前の子ども達や同僚が大切で、学校がみんなの居場所になっているということが伝わってきました。

そういう話を聞きながら、なぜ母親があれほど一生懸命に働いていたのか、学校の先生たちがどういう気持ちでいたのか、昔は見えていなかったことが徐々にわかってきました。

拉致問題についても、大人たちにとってもあまりに突然のことで、困惑するしかなかったんですよね。取材を通して大人の視点を得たことで、学校への批判的な気持ちから書き始めた脚本が、少しずつ変わっていきました」

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母親役として市川実和子が登場。現実的な目線を持ち、懸命に暮らす姿が際立つ。

頑固な父親に反発していたソヒもまた、日本人の友人と交流し、周囲の人々の思いに触れるうち、徐々に家族の思いを理解していく。心の成長を表す上で重要なのが、ソヒが子どもの頃から練習してきた朝鮮舞踊だ。朝鮮学校では小学校から舞踊部があり、生徒たちは年に1回の大会で舞踊作品を披露し順位を競う。ソヒも大会に向けて仲間と一緒に必死で踊りを練習するが、学校の外で朝鮮舞踊がどう見られているかを知ったことで、大きなショックを受ける。

「日本における、K-POPと朝鮮舞踊の受け止められ方の対比を描きたい、その思いが最初にありました。いまの若い子たちにとって、K-POPのアイドルやダンサーは憧れの存在です。ところが同じダンスでも、朝鮮舞踊と聞いて大概の人が思い浮かべるのはテレビで流れる『喜び組』の映像だったりして、『ああ、北朝鮮の……』という微妙な反応になってしまう。もっと上手く踊りたい、という踊りに対する純粋な思いは、朝鮮舞踊を踊る子たちもK-POPのアイドルとなにも変わらない。それなのに、北と南での政治的な対立や複雑な歴史があるだけでどうしてまわりの反応がこんなに変わってしまうのか、それを考えてみたかったんです」

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本作のラストシーンに向けて、象徴的に描かれる朝鮮舞踊。ときにソヒの感情ものぞく場面だ。

ソヒと未来がBTSをきっかけに親しくなったように、近年は朝鮮学校の学生たちの間でもK-POPは大人気だという。ただし、こうした韓流ブームには複雑な思いがあると孫監督は言う。

「韓流ブームのおかげもあり、昔ほど、在日に対するあからさまな差別は少なくなってきたし、むしろ『韓国語が話せるなんて羨ましい』と言われたりもする。それ自体は本当に素晴らしいことだと思います。でも羨望の対象はあくまで韓国なんですよね。朝鮮学校や朝鮮舞踊のように、少しでも北朝鮮に関係することとなると、途端にネガティブな反応になってしまう。いまの朝鮮学校の子たちも、日本の学校に通う子たちとK-POPや韓国ドラマの話で盛り上がることはあるけど、たとえ親しくなっても、朝鮮学校の授業でどういうことを習っているのか、学校の成り立ちはなにかという部分にはお互いに踏み込まないと言っていました。壁がなくなったようで、そこにはやっぱり見えない壁があるんです」

大好きなK-POPと朝鮮舞踊。親世代の思いと自分たちのリアルな感情。交わらないふたつの間で、ソヒの心は激しくゆれ動く。それでも、自らのルーツと向き合い、家族や友人との関係を見つめ直したことで、少女は確かに成長していく。

「映画を観た人たちに感想を聞くと、ソヒに共感する人もいればお父さんに感情移入する人もいて、日本の人でも在日の人でも共感するところがみんなバラバラなんです。私自身、この描写でいいのか、もっと踏み込んで描くべきなのか、最後までたくさん悩みましたが、観客のみなさんがそれぞれの視点でこの物語を受け止めてくれたらと思っています」

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孫 明雅(ソン ミョンア)。監督。1989年、大阪府出身。在日コリアン3世。関西大学卒業後、テレビの制作会社に勤務。西川美和監督の『すばらしき世界』、是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』で監督助手を務めた。初監督作品である短編映画『夢のつづき』がショートショートフィルムフェスティバル&アジア2025秋の国際映画祭で上映された。

『トロフィー』

監督・脚本/孫 明雅
出演/恒那、井浦 新ほか 
1時間43分 2026年7月10日より公開中。
https://k2pic.com/film/trophy