日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)が、その年の優れた作品を部門ごとに表彰する「JAGDA賞」と、39歳以下を対象にしたグラフィックデザイナーの登竜門「JAGDA新人賞」。浅野隆昌は今年、JAGDA賞のジェネラルグラフィック部門とJAGDA新人賞をダブル受賞した。紙面や画面の上にとどまらず、写真や映像、音、空間、ウェブへと表現の領域を広げる実践が際立った。
受賞作のひとつ『テーブルの上のスィンスィン』は、写真家・三田周との共同による自主制作シリーズだ。大判の紙を切り出して空間に配置し、照明やレンズを調整しながら撮影を重ねていく。ただし完成形は、目の前の立体空間ではない。カメラのプレビュー画面に映る二次元のイメージを見ながら空間を組み替えていくことで、平面構成の感覚によってグラフィックをつくり上げる。
浅野が着想源としたのは静物画だった。静物画にはモチーフに象徴的な意味が託されることもあるが、同時に画面の構成や光、質感の扱いそのものが表現の主題となってきた。一方、グラフィックデザインでは、いまもモチーフの選択が大きな意味を持つ。そこで浅野は、あえてモチーフから意味を引き剥がすことを試みた。
「静物画の歴史では、質感やパース、空間性を少しずつ削ぎ落としながら新しい表現を獲得してきた流れがあります。グラフィックデザイナーとして次に何を削ぎ落としたら面白いかを考えた時、僕にとってはモチーフだったんです」と話す浅野。
撮影時の光によって写真ごとに異なる色味もそのまま受け入れる。紙の折り方や角度、光によって白から黒の明暗をつくる。「絵の具を塗るような感覚」で、明暗による色面構成を試行錯誤した。そこで生まれるのは、意味から距離をとりながらも、不思議な緊張感を宿したイメージだ。
既存の前提を組み替える姿勢は、ほかの仕事にも共通している。ミュージシャンthe sankhwaのアルバムプロジェクト『seasons』では、パッケージ内のQRコードから音源や冊子、ポスターのデータにアクセスできる仕組みを考案。購入者自身がPDFを出力し、冊子やポスターを制作する形式を採用した。限られた予算を逆手にとり、印刷や製本の仕様を競うのではなく、作品の届け方そのものをデザインした。
浅野は大阪芸術大学を卒業後、居山浩二が率いるイヤマデザインを経て、2019年に独立。自主制作を継続する一方で、ウェブデザインや展示、ブランディングなど活動領域を広げてきた。
「自主制作を続けるなかで、自分なりに試したいことはある程度できるようになりました。そのぶんクライアントワークでは、自分ひとりではたどり着けない条件やルールに出合えることが面白いんです。制約があるほど、むしろ可能性が広がる気がしています」
JAGDA新人賞の受賞記念展に合わせて、受賞者3名による特設ウェブサイトも構想している。展示作品とウェブ上のコンテンツを連動させ、関連作品や制作背景の提示をはじめ、グラフィックデザイナーの服部一成や小林一毅らの先達をゲストに招いた対話コンテンツなどを通じて、創作の思考と実践に触れられる構成だ。
「制作者が自作を解説することには限度があると思っています。多角的に綴っても、やはり個人の認識の域を出ない。このウェブサイトでは他者との対話も取り入れ、さまざまな角度で提示し、作者の認識を超えたプレゼンテーションをしてみたいと考えています」
展示を補足するためではなく、新たな視座を生み出すためにウェブというメディアを組み合わせる。その発想にもまた、浅野らしい実験精神が表れている。
既存のルールやメディアの境界を少しずつ問い直しながら、グラフィックデザインの可能性を押し広げていく浅野。その静かな実践から、どのような表現が生まれるのか注目したい。
---fadeinPager---
PICK UP

受賞者の浅野隆昌、石田和幸、大坪メイの作品を展示する。東京・丸の内にあるGOOD DE
SIGN Marunouchi(会期7/16〜30、入場無料)で開催後、国内各地を巡回予定。
JAGDA新人賞展2026 特設ウェブサイト「浅野 石田 大坪 説明と脱線」
---fadeinPager---
PERSONAL QUESTIONS
ハマっていることは?
子どもの頃から続けている将棋です。「思考が樹形図的だ」と言われることがあるのですが、一手ごとに可能性が枝分かれしていく感覚が、自分の考え方にも影響している気がします。
好きなクリエイターは
写真家のヴォルフガング・ティルマンス。なぜそれを撮ったのか簡単に説明できない作品も多いのですが、それでも画像として強く成立している。そのあり方に影響を受けています。
改めて勉強したいことは?
生産や販売の仕様と経路をもっと知りたいです。無意識に従っているルールがたくさんある気がしていて、仕様を深く知れば、もっとデザインの工夫ができると思っています。
影響を受けた本は?
高山なおみさんのレシピ本『自炊。何にしようか』です。飾らない言葉で生活の大切なことを語っていて、写真や装丁も魅力的。こういう姿勢で作品をつくりたいと思っています。
いま注⽬したい各界のクリエイターたちを紹介。新たな時代を切り拓くクリエイションと、その背景を紐解く。



