【蜷川実花、川内倫子ら30人】世界巡回展で知る、日本女性写真家の現在地|ヒカリエホール

  • 文&写真:はろるど
Share:

 

1.jpeg
『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』から、多和田有希による作品展示風景

1950年代から現代にいたるまで、日本の写真史を切り拓いてきた女性写真家30名の仕事に光を当てる展覧会が、東京・渋谷のヒカリエホールで開催されている。2024年夏にフランス・アルル国際写真祭で幕を開け、延べ14万人を動員してきた世界巡回展が、規模を拡大して待望の日本初上陸を果たした。

全体としての統一感よりも、一人ひとりの眼差しを

2.jpeg
『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』から、小松浩子による作品展示風景

記憶、身体、日常、ジェンダーなど多彩なテーマから、30名の女性写真家を紹介する本展。着眼点は「女性だから」ではなく、「日本にはこれだけ優れた写真家がいて、その担い手の多くは女性である」というところにある。そして全体としての統一感を見せることよりも、一人ひとりが写真にどうアプローチしているかという、それぞれの「個性」を引き出す構成になっている。一般的な写真展を思い浮かべていると、そのイメージとのギャップに驚かされるはずだ。

まるで建築物のような小松浩子の『繁殖模倣変換器』が強い存在感を放っている。膨大な枚数の印画紙や映像など多様なメディアを用いる手法で知られる小松は、本作において工業地帯を捉えたプリントを剥き出しのロール紙へ写し、宙吊りにするなどして空間を埋め尽くしている。さらに写真プリントを焼き、その灰を陶芸作品へと展開する多和田有希のインスタレーションも、写真という表現の固定観念を揺さぶってくる。

蜷川実花、そして草分け・常盤とよ子の写真

3.jpeg
『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』から、蜷川実花による作品展示風景

映画監督やクリエイティブチーム「Eim(エイム)」の一員としても活躍する蜷川実花が出品するのは、極彩色に彩られたイメージとは対照的な、暗がりの空間に沈みこむモノクロームの写真だ。「Dancing with Shadows in the Light」のシリーズは、蜷川が沖縄の海へ繰り返し潜って撮影した、初の水中作品。群れ泳ぐ魚や波間の泡、そこへ差し込む光は幻影のようにたゆたい、どこか死の気配を垣間見せるような世界へと誘う。

日本の女性写真家の草分けのひとりである、常盤とよ子の仕事にも注目したい。横浜大空襲で父を亡くした記憶から、進駐軍への反感を抱えていた常盤は、やがて横浜の真金町遊郭地帯に暮らす人々の日常へとカメラを向けていく。その記録をまとめた『危険な毒花』は、夜の街で生きる女性たちを女性自身の手によって捉えたという点で大きな反響を呼んだ。そこには目の前の現実と静かに向き合い、隠れた声をひとつひとつ掬い取ろうとするまなざしが感じられる。

---fadeinPager---

ショーウインドウの女性たち、そして揺れ動く光と色彩

4.jpeg
『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』から、やなぎみわによる作品展示風景

やなぎみわの『案内嬢の部屋』の2点は、1990年代にやなぎの名を広く知らしめたもの。右側では制服姿の女性たちがショーウインドウに並び立ち、左側では全員が中央に倒れ込み、ウィンドウには切花が飾られている。若い女性が人工的な美として、花のように消費されていく様を風刺した作品とされる。また、自身の外見を自在に変えて撮ることで知られる澤田知子は、「お見合い写真」をモチーフに、自らのお見合い写真30人分を撮影した作品などを展示している。

野口里佳の『不思議な力』には心を奪われずにいられない。重力や浮力、磁力といった、日常に潜む目に見えない力を、小さな実験を通して立ち上がらせたシリーズだ。手先やスプーンなど、何気ない日常が写り込むそれぞれの一枚は、まるで身近な幸せの断片を切り取ったかのようで愛おしい。さらに展示の締めくくりを飾る川内倫子の映像インスタレーション『Illuminance』も、さまざまなイメージと揺れ動く色彩、光が心地よく、時間を忘れてつい見入ってしまう。

日本展キュレーター・竹内万里子が託す、ひとつの願い

5.jpeg
『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』から、野口里佳による作品展示風景

作品展示に続く年表「写真と時代 1926-2025」にも、ぜひ目を通してほしい。1926年から2025年までの100年間を、「社会」「美術・文化・世相」「写真」という3つの視点から辿り、出品作家による展覧会の開催や受賞歴なども書き添えている。あわせて女性写真家を取り巻く資料も並び、各作家がどのような時代を生き、写真表現を切り拓いていったのか、その軌跡が浮かび上がる。

最後に、日本展のキュレーションを担った竹内万里子のコメントを紹介したい。「それぞれの作家の思考や写真へのアプローチは異なっており、女性であることは複雑なアイデンティティーの、あくまでひとつの要素にすぎません。一方で女性であるという理由だけで、その複雑さがないがしろにされてしまうこともあります。だからこそあえてひとまとめにせず、一人ひとりの写真表現、その個性豊かな作品に向き合っていただきたいと思います」

インスタレーション、コラージュ、映像など手法は多彩で、並ぶ作品は約200点にものぼる。またヒカリエホールならではの広さを活かした、大胆な空間設計も見どころだ。日本の写真史に残るようなこの展覧会で、写真を見るというよりも浴びるような体験を、この夏限定、渋谷で味わってほしい。

『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』

開催期間:開催中〜2026年8月26日(水)
開催場所:ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)
東京都渋谷区渋谷2-21-1
開館時間:10時~19時

※最終入場は18時30分まで ※会期中無休

入館料:一般¥2,200 他
www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/26_kiseki/

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。