この夏、東京・六本木でIWC シャフハウゼンのパイロット・ウォッチ誕生90周年を記念した期間限定エキシビション「The Next Space Age Exhibition」が開催された。オープニングイベントでは元JAXA宇宙飛行士の山崎直子が登壇。宇宙と時の深遠な魅力を語った。
パイロット・ウォッチ誕生90周年を記念した、IWC初のエキシビション
2026年は、IWCがブランド初の航空時計を発表してから90周年にあたる。以来、独自の技術革新を重ねながら、ピラーコレクションとしてパイロット・ウォッチを展開。その大空への憧憬は、いま新たなフロンティアである宇宙へと広がっている。
「The Next Space Age Exhibition」と銘打ったエキシビションでは、IWCの90年の軌跡を振り返るとともに、パートナーシップを組む民間宇宙ステーション開発企業「Vast」との活動を紹介した。会場では、来場者を宇宙の旅へと誘う演出に加え、民間宇宙ステーション「Haven-1」プロジェクトのイメージを展示。オープニングイベントでは現在Vast Japan ゼネラルマネージャーを務める山崎さんをゲストに迎え、スペシャルトークセッションを開催した。
広大な宇宙で時を刻む、Vastとの協業が生んだ新たなパイロット・ウォッチ
2025年、IWCはVastとパートナーシップを締結し、公式タイムキーパーを務めている。一方のVastは現在、世界初の商業宇宙ステーション、「Haven-1」の設計と建造を進めており、国際宇宙ステーション(ISS)の後継として来年の打ち上げを予定する。さらに、Vastは国際宇宙ステーション(ISS)の後継を目指す商業宇宙ステーション「Haven-2」の開発も進めている。
そんなVastとのパートナーシップのもと、宇宙服を着用して行う船外活動にインスピレーションを得て開発されたタイムピースが「パイロット・ウォッチ・ベンチュラー・バーティカル・ドライブ」だ。
グローブを着けた指先でも扱えるよう、リュウズを省き、あらゆる機能が回転式ベゼルで完結する。操作の切り替えはケースサイドのロッカースイッチで行ない、文字盤には通常の針に加え、24時間表示のGMT針を備える。
宇宙飛行と滞在のために特別に設計・開発され、振動や圧力変化への耐性、船内の環境と素材の適合性など厳密なテストを経て、宇宙飛行認証を取得したIWC初のスペースウォッチである。
山崎直子が宇宙空間で体感した、故郷を訪ねるような「懐かしさ」
IWCとVastというユニークなパートナーシップ。その根底には、どんな共通項があるのだろうか。トークセッションで山崎直子さんは、両者に共通するのは「エンジニアリング」だと語る。そのエンジニアリングは、“夢をかたちづくる情熱の結晶”であり、腕にした「パイロット・ウォッチ・ベンチュラー・バーティカル・ドライブ」からは、まるで小宇宙のような世界観を感じたという。
宇宙での滞在ではマルチタスクが求められ、1秒1秒の積み重ねがミッションの成否を左右する。一方で、船外へ目を向ければ、果てしない宇宙空間が広がる。そんな異なる時間のスケールを行き来するなかで、時計は打ち上げから宇宙での滞在、そして地球への帰還まで常に身につける相棒だったという。それは最も信頼のおけるパートナーであり、単なるツールを超えた存在だ。イベント終了後、山崎さんに話を聞いた。
「宇宙という言葉は、空間を示す『宇』と時間を指す『宙』からなり、時空という概念が含まれていることを最近知りました。宇宙と時間には、そんな親和性もあるんですね」
そう微笑む山崎さんが、宇宙に行ってまず感じたのは「懐かしさ」だったという。
「未知の世界への冒険というよりは、むしろ故郷を訪ねているような感覚でした。まるで細胞の一つひとつが喜んでいるようで、考えてみれば地球は宇宙に存在する星々のかけらから生まれ、私たちの身体も同じ成分でできています。そんなつながりを自然に感じられたことが、とても不思議でしたね」
宇宙を訪れたことで、自らも宇宙の一部であることを実感したという。夜空に輝く星々の光は、何百光年もの彼方から届いている。その壮大な時間の流れと果てしない空間に思いを馳せるとき、最先端のテクノロジーを駆使する宇宙開発であっても、その根底には人のロマンや探究心が息づいていることに気づかされる。だからこそ宇宙は、いつの時代も人々の想像力をかき立てる存在であり続けるのだ。
IWC ジャパン ブランド・ディレクター エリック・エダー(写真左)と山崎さん。自身もエンジニアであり、時計技術に関心を抱く。
針が刻む1秒の重みと、悠久の時の流れを実感
現在、建造中の「Haven-1」では内装材に天然木のような素材も使われている。
「これまでの宇宙船の中は計器に囲まれ、クリーンルームのような無機質な空間でした。しかし現在は機械ありきではなく、人間がどうあるべきか。人間を中心としたデザイン空間に、必要な機能や機械を織り込んでいくヒューマンセントリックと呼ぶ設計思想を導入しています。宇宙空間においても自然との調和があることで人の心も落ち着くのです」
以前、山崎さんの同僚が参加したミッションでは、船長があえて雷や雨風の音を流し、地上と同じような環境を再現したという。山崎さん自身も水のせせらぎの音を持参し、心を癒やしたそうだ。こうした人間らしさを大切にする感性は、生命感あるアナログ時計の魅力にも通じるのかもしれない。
「より正確を期すデジタルに対し、アナログはひと目で時間が把握できます。とくに船内と地上のミッションコントロールの両方の時間を認識することが求められ、針だとそれが視覚的にわかるのです。そしてドッキング時などは針が刻むごとに船体が近づいていき、その1秒という重みを実感します。この時計にしてもデザインは未来的なテイストでありつつ、パイロット・ウォッチとして90年の歴史で培ってきた技術の信頼性という、その両面が伝わりますね」
宇宙での体験を通じ、山崎さんは1秒の大切さと、自らも悠久の時の流れの一部であるという広い視点を得たという。時を刻むことは、ミッションの遂行に欠かせないだけでなく、人生の記憶や体験を刻むことでもある。最後に山崎さんは、「今後のIWCとVastのコラボレーションも、多くの人々の夢や挑戦を乗せながら広がっていくことでしょう」と期待を寄せた。
IWCとVastが告げる、宇宙時代の幕開け
宇宙開発は、これまでの国家的事業から民間主導の宇宙ビジネスへと移り変わり、より身近な関心事として可能性をさらに広げている。IWCとVastのパートナーシップもそうした新たな宇宙時代の幕開けを象徴する。原動力となるのは両者の共有するエンジニアリングであり、最先端のハイテク技術でありながらもヒューマンセントリックという思想が貫かれている点も興味深い。それは機械式の針が刻む時の温もりも求められているのだ。The Next Space Ageはすでに始まっている。
IWCシャフハウゼン
TEL:0120-05-1868
www.iwc.com