【マーガレット・ハウエルのシャツ】英国の伝統を打ち破った根幹に立ち返り、熟練職人による新作を発表

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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デザイナー、マーガレット・ハウエルが見つけたヴィンテージのシャツを彷彿とさせる「マーガレット・ハウエル ロンドン ワークルーム」コレクションのストライプシャツ。上質な素材を使い、着る人に自然と馴染む同ブランドらしいデザイン。襟はレギュラーカラーで芯地は入っていないやわらかな仕上げ。ロンドンのアトリエでそれぞれ専門の分野を持つ17人の職人によってこのシャツは仕立てられている。¥85,800/マーガレット・ハウエル

飾り立てることなく、着る人を上品に洗練させて見せる。英国生まれのブランド、マーガレット・ハウエルが半世紀以上にわたり支持される理由は、その変わることのないデザイン哲学にある。ブランドの原点となった一枚のシャツから、そのものづくりの思想をたどる。

動画連載『大人の名品図鑑』、毎月PenのYouTubeチャンネルで更新中。マーガレット・ハウエルのシャツの魅力をさらに紐解きます。

「大人の名品図鑑」マーガレット・ハウエル:シャツ編 Podcast

普遍の名品を、その歴史や周辺のカルチャーとともに徹底解説していく『大人の名品図鑑』の音声版。ここでは、動画や記事で紹介できなかったエピソードを中心にトークを展開する。案内人を務めるのは、フリー編集者の小暮昌弘とスタイリストの井藤成一。毎月上旬に公開。

ポッドキャスト版を聴く(Spotify/Apple)

一枚の古いシャツとの運命的な出合い

日本でも高い知名度と人気を誇る英国ブランド、マーガレット・ハウエル。そのブランドの原点には、一枚のシャツがあった。ブランドの創業者でありデザイナーのマーガレット・ハウエルは、英国を代表する美術大学のひとつ、ゴールドスミス・カレッジでファインアートを学んだ後、1970年にとあるジャンブルセール(学校や教会などで行われる慈善バザー)で一枚の古いシャツに出合う。

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特別なラベルが付けられた今回のコレクション。彼女のシャツづくりは自身の寝室で1973年から始まった。その後サウスロンドンのブラックヒースに最初のワークルームを構え、今年、北ロンドンに新たな生産拠点を持ったのを機に、ブランドの原点へ立ち返る特別なシャツが発表された。 

ブランド50周年で語られた原点

同ブランドのHPでいまでも見ることができるが、2020年、ブランドの50周年を記念して製作された『50 YEARS OF DESIGN』(制作は、映像作家のエミリー・リチャードソン)で、その時の状況をマーガレット自身が語る。

「素材がやわらかく、ステッチが繊細なピンストライプのシャツを見つけました。こんなシャツをつくってみたいと思ったのです。気に入ったのはそのシンプルさ、フェミニン過ぎないということ、そしてウエアラブルで実用的な服だったからです」

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すっきりとした見た目が特徴のフレンチフロントに配されたボタンは少しだけ大きいものが選ばれている。素材にはニュアンスのあるカラーのストライプが入った上質なポプリンが使われ、やわらかな肌触りで、通年着用できる。

英国の伝統を打ち破ったシャツ

この古いシャツにインスピレーションを得て、彼女がデザインしたのは、上質な素材に繊細なステッチを施したシャツだった。芯地を省いたやわらかな襟、プレスを効かせない自然な風合い、そしてゆったりしたシルエット。従来の英国製ドレスシャツとは一線を画す一枚だった。彼女は英国の老舗ファッション誌から「英国の伝統を打ち破ったデザイナー」と評され、著名なショップやデザイナーからも注目を集めるようになる。

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背中上部の切り替え部分は「センターヨーク」と呼ばれる仕様で、一針一針のステッチにていねいな職人技が薫る。背中にクラシックなハンガーループが付けられている。

世界へ広がったマーガレット・ハウエル

その後、彼女のコレクションはシャツだけでなく、ジャケットやパンツ、アクセサリーなど、トータルでメンズもウイメンズも展開されるようになり、ロンドンや日本をはじめとしてパリとフィレンツェにもショップを構えるまでになった。またブランドの成長とともに英国の老舗ブランドに加え、エドウイン、ミズノといった日本のブランドとコラボレーションしたアイテムが次々とリリースされるようになるが、これらのコラボレーションは、単純な協業とは違う。いずれのブランドも、彼女自身が専門分野で技術力が高いとリスペクトをしているブランドで、だからこそ実現した協業なのだ。

 

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デザイナー自身がエドウインのジーンズを愛用していたことから、2003年からコラボレーション企画が始まり、今年で23年目を迎える。カーキのセルビッチやレザーパッチがアイコニックで、シルエットもワイド。ウエストにはクラシックなブレイシーズボタンが付けられている。素材はエドウインが開発したリサイクルコットンとオーガニックコットンを使用した14.5オンスのオリジナルデニムを採用。リサイクルコットンの原料は、エドウインの循環型アップサイクルプロジェクト「CO:RE」によってつくられている。¥47,300/エドウイン フォー マーガレット・ハウエル

 

 

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デザイナーのマーガレットは毎週スイミングをしており、スポーツという専門分野で確かなものづくりをすることへの敬意から、コラボレーション企画がスタートした。そして2017年の秋冬コレクションのランウェイで発表されたのが、共同で製作されたスニーカーで、大きな話題となった。「ミズノにはその技術があり、実用的なディテールにもこだわりがあります」と彼女は話す。ミズノが開発した「ブレスサーモ」に代表される最新素材を使い、実用的なデザイン、ディテールを備えながら、メインラインのアイテムにも合わせやすいシックで上品なカラーリングに仕上げられている。右:コート¥75,900、中上:カットソー¥20,900、中下:スニーカー¥33,000、左上:ベスト¥35,200、左下:パンツ¥41,800/ミズノ フォー マーガレット・ハウエル

 

暮らしの道具にも宿るブランド哲学

また2002年から展開されている「ハウスホールドグッズ」と名付けられた日用品や生活雑貨を揃えたコレクションの多くも、彼女が長年愛用してきた品々が占める。コレクションの隅々にまで、彼女のものづくりへの姿勢だけでなく、もの選びの思想までも見ることができる。これもマーガレット・ハウエルというブランドの大きな特徴であり、独自性ではないだろうか。

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「スタッキングチェア」や「バタフライチェア」に代表される英国のアーコール社は1920年創業で、創設者はルシアン・アーコラーニ。「この椅子は子どもの頃から(英国の)家庭にある、ありふれたものでした。ブランドを始めた頃、母親がキッチンで使っていた椅子を譲り受け、自分のアトリエで使いました」とマーガレットは語る。一時生産が中止されていたこれらの家具の復刻をアーコール社に申し入れ、コラボレーションが実現した。これはマーガレット・ハウエルの限定カラーの「バタフライチェア」で、1958年につくられたチェアの、脚の部分を黒色に塗装したモデルを2012年に復活させている。サイズはW480×D450×H750×SH420mm。¥18,4800/マーガレット・ハウエル ハウスホールド グッズ

 

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ペブル(小石)のかたちをしたようなテーブルが組み合わされた「ネスト オブ テーブルズ」は、1956年にアーコール社の創設者がデザインしたもの。サイズはW670×D510×H400mm。そのテーブルの上に載っているのは英国の名品「アングルポイズ」のデスクランプ。マーガレットは「子どもの頃は黒いアングルポイズを使っていました。アングルポイズは、電球を装着しないとシェードのバランスが取れないほど、精巧な均衡を保っており、きれいに見せるためのデザインではなく、技術から導き出されたかたちで、モダンデザインの素晴らしさを感じました」と話す。マーガレット・ハウエルでは2004年からコラボレーションを始めている。これは「アングルポイズType75」というモデル。テーブル3点¥209,000、デスクランプ¥5,1700/ともにマーガレット・ハウエル ハウスホールド グッズ

 

ブランドの原点に立ち返る新コレクション

そんなマーガレット・ハウエルが2026年秋冬コレクションで発表したのが、ブランドの原点へ立ち返るような「マーガレット・ハウエル ロンドン ワークルーム」と命名されたハイエンドラインのシャツ。これは今年移転したロンドンのアトリエで職人たちが仕立てるシャツに特化したコレクションだ。

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デザイナーのマーガレットは毎週スイミングをしており、彼女がミズノのスイムウエアを愛用していたことから、コラボレーション企画がスタートした。そして2017年の秋冬コレクションのランウェイで発表されたのが、共同で製作されたスニーカーで、大きな話題となった。「ミズノにはその技術があり、実用的なディテールにもこだわりがあります」と彼女は話す。ミズノが開発した「ブレスサーモ」に代表される最新素材を使い、実用的なデザイン、ディテールを備えながら、メインラインのアイテムにも合わせやすいシックな上品なカラーリングに仕上げられている。右:コート¥75,900、中上:カットソー¥20,900、中下:スニーカー¥33,000、左上:ベスト¥35,200、左下:パンツ¥41,800/ミズノ フォー マーガレット・ハウエル

熟練の職人が仕立てる一枚

彼女がデザインするシャツは試作とサンプル制作を何度も重ねられ、ようやく製品化されるが、多いもので25のパーツから構成されている。シャツの裁断を担当するのは、30年以上にわたって彼女のシャツづくりを支えてきた裁断士のカークという職人。彼の手によって一点一点丁寧に手裁ちされたパーツは、「マシニスト」と呼ばれる縫製職人に手渡される。シャツ一枚を仕立てるのには3〜4時間を要し、1cm当たり6針、複雑なデザインでは最大20mにも及ぶ縫い目があり、一枚のシャツには約12,000ものステッチが施されるものもある。この一枚には、職人たちのていねいな手仕事が幾重にも積み重ねられている。

すべては、一枚のシャツとの出合いから始まった。「こんなシャツをつくってみたい」と思った、その思いは、半世紀を経た現在も変わることなく、新しいコレクションへと受け継がれている。

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今季の「マーガレット・ハウエル ロンドンワークルーム」コレクションでは、ストライプ以外にも白、グレー、ネイビーなど、同ブランドを象徴するカラーが用意されている。ネイビーにはウール素材を採用。ポケットの形状もほかの3枚と違い、切りポケットタイプで特徴的。スクエアにカットされた裾で、シャツジャケット風にも着られる。右:¥110,000、中:¥85,800、左:¥85,800/すべてマーガレット・ハウエル

アニエスベー

TEL:03-5785-6445
https://www.margarethowell.jp

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