【見ているだけで涼しくなる】南極を生きる4種の個性派ペンギンたち

  • 文:戸村悦子
  • 協力&写真提供:国立極地研究所
Share:

猛暑が続く日本から遠く離れた南極では、ペンギンたちが極寒の自然のなかでたくましく生きている。コウテイペンギン、アデリーペンギン、ヒゲペンギン、ジェンツーペンギン——、南極を代表する4種の知られざる生態を、最新の観測技術による研究成果とともに紹介。驚きの潜水能力や子育ての工夫、個体ごとに異なる行動パターンから見えてくるのは、ペンギンたちの豊かな個性と、温暖化によって変化する南極の現実だった。見るだけで涼しくなる南極の世界へようこそ。

「南極」と聞いて、なにを思い浮かべるだろう? 南極にいま、人は旅することができるようになった。ならば、南極へはどんな行き方があるのだろうか? 南極にはなにが待っていて、どんな景色が見えるのだろうか? 全身で南極を感じたとき、人はなにを想うのだろう――。

『行きたい南極』
Pen 2026年9月号 ¥880
Amazonでの購入はこちら
楽天での購入はこちら

南極 ペンギン コウテイペンギン

コウテイペンギン

世界最大のペンギン。繁殖のために巣をつくらず、冬に沿岸の海氷の上で子育てをする。産卵後はメスが餌を取りに海へ向かい、オスが脚の上に卵をのせて温める。潜水能力が高く、最大潜水深度は564m、1回で30分以上の潜水が可能。海氷の減少や早期崩壊で繁殖の失敗が相次ぎ、個体数の減少が確認され、2026年に絶滅危惧種に分類された。

南極 ペンギン アデリーペンギン

アデリーペンギン

南極大陸と周辺の島々だけに生息し、昭和基地周辺にも繁殖地が点在する。白黒の体色と長い尾羽、目の周りを縁取る白いアイリングが特徴。愛らしい姿は、交通系ICカードSuicaのペンギンのモデルにもなった。潜水能力も高く、最大潜水深度は約180m。夏には沿岸の露岩域に集まって繁殖し、小石を円形に集めた巣に通常2個の卵を産む。

南極 ペンギン ヒゲペンギン

ヒゲペンギン

名前の通り、頬からあごにかけて伸びる、ひげのような黒いラインが特徴。そのラインが帽子のあごひもにも似ていることから、英語名はアゴヒモペンギンと名付けられている。夏の繁殖期には沿岸の露岩域に大きな繁殖地をつくり、小石を円形に集めた巣で子育てをする。南極での分布は南極半島周辺に限られ、個体数の減少傾向が懸念されている。

南極 ペンギン ジェンツーペンギン

ジェンツーペンギン

コウテイペンギン、キングペンギンに次いで3番目に大きい種。南極半島および亜南極の島々に分布する。頭頂部をヘアバンドのように横切る白い模様と、長めの尾羽、黄色いくちばしと脚が特徴だ。夏の繁殖期には沿岸の露岩域で小石を円形に集めた巣をつくる。卵は130gほどのものを2個産む。オスとメスが交代で抱卵し、ヒナを育てる。

ペンギンの超密集地帯「南極」

南極 ペンギン 

ペンギンは世界に18種いるとされ、南極から赤道付近まで、そのほとんどが南半球に分布する。南極大陸を含む「南極域」で繁殖する種は、コウテイペンギン、アデリーペンギン、ヒゲペンギン、ジェンツーペンギンの4種。南極大陸周辺の「亜南極」の島々には、キングペンギンやマカロニペンギンなども生息する。

「南極域と亜南極には、世界のペンギンの個体数の約9割が生息していて、圧倒的な“ペンギンの密集地帯”といえます」。そう語るのは、国立極地研究所・生物圏研究グループの髙橋晃周教授だ。

南極のペンギンは繁殖期である春から夏に産卵・子育てのために陸に上がり、それ以外はほとんどを海で過ごす(コウテイペンギンのみ冬に繁殖し、海氷上で産卵・子育てを行う)。水中では素早く泳ぐため観測が難しく、海での暮らしは謎に包まれていた。

そこで、同グループは1990年代から「バイオロギング」による調査を開始。動物に深度計や加速度計、GPS、ビデオカメラなどを取り付け、行動や周囲の環境を記録した。アデリーペンギンを中心とした観測からは、平均秒速約2mで泳ぐことが判明。これは競泳のオリンピック選手に迫る速さだ。さらに潜水中は、体の一部の温度を5℃程度下げ、心拍数を落として酸素の消費を抑えることもわかってきた。

「餌取りにも不思議が多く、効率よく2時間で終える個体もいれば、がんばって8時間潜り続ける個体もいる。それでも、各自が必要な餌を確保するので、ヒナの体重にはほぼ差がないんです」アデリーペンギンは餌取りに失敗すると、次は餌取りが上手な仲間に付いて行き、その行動から学ぶこともあるという。集団の中で、限られた時間や資源を活かすふるまいは、どこか人間にも似ている。

温暖化が顕著な南極半島域では、冬の海氷が減少し、アデリーペンギンの個体数は約40年でかつての2割ほどに減少した。一方、東南極の昭和基地周辺では、同じ期間に約2倍へと増加。南極全体では、アデリーペンギンの個体数に大きな変化はないという。

「アデリーペンギンにとって、海氷は多ければ多いほどよいわけではありません。海氷が厚かった東南極では、氷が少し減ると餌場へのアクセスがよくなり、餌をとりやすくなります。一方、南極半島のように海氷が大幅に減ると、餌の分布や繁殖環境が変わり、個体数減少につながっていく。気温や海氷の変化がペンギンの生態に与える影響を明らかにするため、新たな観測手法の開発を進めています」と髙橋教授。

愛らしい姿の奥で、環境の変化を映し出すペンギン。その生態を追うことは、地球の未来を読み解く手掛かりにもなる。

南極地域観測隊
髙橋晃周●1973年生まれ。専門は海鳥類の行動学・生態学。98年、第40次南極地域観測隊として昭和基地で活動して以来、南極・亜南極域で計11回にわたりペンギンの観測調査を行う。バイオロギング調査に用いる計測装置の開発にも携わる。

関連記事

 

『行きたい南極』
Pen 2026年9月号 ¥880

Amazonでの購入はこちら
楽天での購入はこちら