【レンブラント展】版画の天才がゴヤやピカソに与えた、知られざる影響|国立西洋美術館

  • 文&写真:はろるど
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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン『十字架降架』 1633年 レンブラント・ハウス美術館

レンブラントといえば油彩画家というイメージが強いが、生涯にわたって版画、特にエッチングの制作にも情熱を注いでいる。国立西洋美術館の『版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト』は、「油彩以上に色彩豊か」とも称された版画の魅力を紹介する展覧会だ。アムステルダムのレンブラント・ハウス美術館との共同企画として実現し、約130点の作品が集結している。

若きレンブラントが切り拓いた線の可能性

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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン『旅回りの楽師たち』 1635年頃 レンブラント・ハウス美術館

レンブラントが制作をはじめた1625年頃、エッチングはちょうど転換期を迎えていた。それまでは、銅板を直接彫り込むエングレーヴィングの代用技法とみなされ、線を規則正しく整えることが良しとされていた。しかし新たにこの技法に挑んだ画家たちは、エッチングならではの自由な表現を追求しはじめる。そしてレンブラントもまた、スケッチのように奔放な線から、陰影に富んだ面的な広がりまで、多彩な線描を駆使して作品を生み出していった。

初期の数年間、彼が最も頻繁にエッチングの題材としたのは、旅回りの楽師や行商人など、社会の周縁に生きた人々だった。これらの作品は技法習得のための習作であり、ジャック・カロを手本にしたと考えられている。当時のヨーロッパでは、こうした人々は忌避の対象とされ、その視線は芸術作品にも投影されがちだった。ただレンブラントの描いた人物像には、明らかな険悪さや侮蔑は読み取りにくく、その解釈をめぐっては今も議論が続いている。

高値で取引!『百グルデン版画』、その白眉たる所以

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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン『百グルデン版画』 1648年頃 国立西洋美術館

17世紀オランダのエッチングにおいて、キリスト教主題はすでに主流のジャンルではなくなっていたが、レンブラントはあえて野心的に取り組んでいく。その白眉といえるのが『百グルデン版画』だ。このタイトルは、当時破格ともいえる高値で取引されたことに由来する。画面には、新約聖書『マタイによる福音書』第19章に語られる、キリストを主人公とした複数のエピソードが同時に描き込まれている。

ここで目を見張るのは、ビロードの肌理を思わせるほど洗練された、線描による面的な広がりだ。闇からグレー、白へと移ろう陰影のグラデーションはニュアンスに富み、和紙を用いたことで際立つインクの滲みも相まって、情景にダイナミズムとともに深い余韻をもたらしている。一方で画面左側の人物たちは輪郭線のみで簡潔に描かれ、両者の対比がエッチングという表現の幅の広さを物語る。まさに版画家レンブラントの技巧を感じさせる一枚だ。---fadeinPager---

自画像に重ねられた、レンブラントへの憧れ 

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ゲオルク・フリードリヒ・シュミット『窓の蜘蛛を伴う自画像』 1758年 レンブラント・ハウス美術館 右:レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン『窓辺でエッチングを制作する自画像』 1648年 レンブラント・ハウス美術館

レンブラントの版画が同時代や後世に与えた影響もじっくり追いかけたい。彼のエッチングは制作当時から人気を博したものの、17世紀における影響は限定的で、弟子たちの中でもエッチングに取り組んだのはごく少数にとどまっていた。潮目が変わるのは18世紀に入ってからのこと。ドイツの芸術家たちを中心にレンブラントのエッチングへの関心が高まり、模倣作が数多く作られるとともに、カタログ・レゾネの編纂も始まっていく。

ゲオルク・フリードリヒ・シュミットは、18世紀ドイツにおけるレンブラント信奉者の一人。『窓の蜘蛛を伴う自画像』は、レンブラントの自画像を土台にしたもので、シュミットが好んだヴァイオリンやワインを背景に描きこむなど、独自の趣向を取り入れている。また窓ガラスに張られた蜘蛛の巣は、運命や時の経過の象徴とされるモチーフであり、画面全体にメランコリックな雰囲気を漂わせている。

ゴヤ、マティス、ピカソへと続く影響の系譜

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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン『使徒たちに現れるキリスト』 1656年 レンブラント・ハウス美術館 右:フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス『「戦争の惨禍」79:真理は死んだ』 1810-20年頃 国立西洋美術館

19世紀から20世紀初頭にかけて、レンブラントのエッチングはどのような影響を及ぼしたのか。まず注目したいのが、フランシスコ・デ・ゴヤの存在だ。晩年に「自然とベラスケス、レンブラントこそが自身の師であった」と語ったとされるゴヤは、当時のスペインでは希少だったレンブラントのエッチングを熱心に研究し、自身の作品に取り入れていく。さらに19世紀フランスを中心にエッチングの再評価が進むと、そのリバイバル運動の象徴としてレンブラントが位置づけられるようになった。

最後にはレンブラントの作品を引用、あるいは翻案したアンリ・マティスやパブロ・ピカソなどの作品も並び、「あの巨匠までもがレンブラントに学んでいたのか」と驚かされる。過去にレンブラントの版画をテーマとした展示こそあったものの、版画史における影響関係にまで踏み込む大規模展覧会は国内で初めて。一人の芸術家を起点に、時代や地域も超えて広がっていく表現の連鎖を辿っていくと、モノクロームが秘めた奥行きの深さに、強く引き込まれていくに違いない。

『版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト』

開催期間:開催中〜2026年9月23日(水・祝)
開催場所:国立西洋美術館
東京都台東区上野公園7番7号
開館時間:9時30分~17時30分 
 ※金、土は20時まで
 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月。ただし8/10(月)、9/21(月・祝)は開館
観覧料:一般¥2,200
www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2026rembrandt.html

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

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千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。