世界屈指の源泉数と湧出量を誇る温泉地・大分県別府。市内には別府八湯と呼ばれる泉質の異なる8つの温泉郷が点在し、温泉宿も数あれど、唯一無二の存在感を放つのが今年8月1日に開業7周年を迎えた「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」だ。温泉好きのライターが体験記をお届けする。
大分のアートがアクセントになった、ラグジュアリーな空間
大分空港からはクルマで約50分、そして別府駅からは20分ほど。力強く生い茂る緑や紺碧に広がる別府湾、はたまた別府観光の名所「地獄めぐり」エリアを車窓から眺めつつ山道を登ると、ほのかに硫黄の香りが漂ってくる。江戸時代から変わらぬ製法で湯の花をつくり続ける、藁葺屋根の小屋が立ち並ぶ明礬温泉地区をさらに進むと、一変してモダンな佇まいのリゾートホテルが姿を見せた。
開放的な吹き抜けロビーへ足を踏み入れると、目の前に広がるのは、まさに別府ならではの絶景。鶴見岳と別府湾に包まれるように存在する温泉街には、そこかしこからもくもくと湯煙が立ち込め、季節や天気、時間によっても異なる表情を見せてくれる。
モノトーンを基調としたロビーには、鶴見岳などの火山活動により生まれた別府石の石垣や、大分県の特産品である竹で編んだソファなどが配され、随所に大分の自然や伝統工芸が息づく。なかでも大分県竹田市を拠点に、ボストン美術館をはじめ世界各国で作品を発表する竹藝家・中臣一の作品がやわらかなアクセントになり、この土地のエッセンスをさりげなく伝えていた。
全89の客室はいずれも、和モダンで落ち着いた装い。一番コンパクトな「クラシックツイン」タイプの部屋でも62㎡、今回ステイした「クラシックシティビュー」は68㎡という広々としたつくりだ。さらに大開口窓の先には全部屋にテラスが設けられ、まるで別府の自然と一体化するような趣がある。
ベッドルームとバスルームを穏やかに仕切る組子格子は、家具の街として知られる福岡県大川市の職人によるもの。部屋ごとに異なるデザインも見どころで、通常の格子は直線でつくりあげるが、山の稜線や波をイメージしたダイナミックな曲線が用いられているところに、匠の技が光る。このほかにも、温泉卵の殻をイメージしたオリジナルデザインのミニバーや有田焼の湯呑みなど、スタイリッシュなインテリアのなかに、九州の精緻な伝統工芸があしらわれていた。
「クラブインターコンチネンタルルーム」と「スイートルーム」のテラスには、絶景をひとり占めできるプライベートな露天風呂も完備。時間を気にせず、心ゆくまで楽しめる。最上級の「パノラマ2ベッドルームスイート」には別府湾から街、山並みまで一続きに見渡せる61㎡の円形テラスが広がり、露天風呂だけでなく、ソファやスタンディングバーまで揃う。
圧巻の専有面積212㎡を誇るこのスイートは、ゆったりとしたダイニングテーブルやパントリーもあり、のんびりと暮らすようなステイが叶うだろう。茶室をイメージした和の寛ぎ空間や、窓越しに景色を楽しみながら浸かれる内風呂など、安らかなひとときを過ごすためのスペースが広がっている。
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湯ざわりが優しい“美肌の湯”と、地産地消グルメでパワーチャージ
ディナーまでの過ごし方にも、さまざまな選択肢がある。客室のテラスでのんびり過ごすもよし、館内に3つあるライブラリーでお気に入りの1冊を見つけるのもよいだろう。ブックディレクター・幅允孝率いる「バッハ」がセレクトした書籍は大分の歴史や、伝統文化、食、音楽など多岐にわたり、このホテルだからこそ出会える本があるはずだ。そして「クラブインターコンチネンタルルーム」もしくは「スイートルーム」にステイしているなら、専用のクラブラウンジでイブニングカクテルを楽しむのも一興だ。
まずは温泉を楽しみに、大浴場へ向かうのも選択肢のひとつ。温泉街ならではの情緒を謳歌するなら、客室に揃えられた浴衣と下駄に着替え、竹籠に荷物をつめて向かいたい。浴衣は江戸時代から続く大分の染物屋・太田旗店とコラボレーションした、ホテルオリジナル。大分県の特産品であるかぼすや関鯵、大分和牛などからインスピレーションを得たデザインで、日田杉でつくった下駄ともよく似合う。
自家源泉の泉質は、“美肌の湯”と謳われるナトリウム塩化物泉。筋肉痛や関節痛、冷え性などに効能があるが、匂いはほとんどなく肌あたりも優しいため、じっくりと湯あみができる。国東半島から別府湾、佐賀関までぐるりと見渡せる露天風呂には、別府石がごろごろと敷き詰められ、自然の趣を宿す。
この別府石は鉄輪地区の石工職人が引退前に手掛けた、最後のマスターピースだそう。何十年も山中で寝かせることで雨風に晒され、少しずつ色や形が変わり、苔が蒸す。経年変化をそのまま活かした別府石に囲われた温泉は、大地が育んできた恵みそのもの。そう考えると、露天風呂に浸かるだけで、身も心もしっかりとパワーチャージできた気がする。
ほかにも最大2時間、6名まで利用できる一棟貸しの家族風呂もおすすめだ。別府湾を望む露天風呂で温まったあとは、ベッドでゆったりと過ごせるだけでなく、インルームダイニングで食事まで味わえる。この極上のプライベートタイムは、宿泊者以外も利用できるので、湯めぐりのひとつに組み込むのもよいだろう。
お待ちかねのディナーは、シグネチャーレストラン「アトリエ」へ。オープンキッチンを囲むカウンターテーブルでいただくのは、大分でとれた旬の食材をふんだんに盛り込んだ炭火焼フレンチだ。今回は全6品からなる「おおいたの四季・海と大地」コースをセレクトした。
夏らしいスイカのガスパチョと、パニプリを器にズワイガニやアボカド、トマトのゼリーを流し込んだ「サマースペシャルアミューズ」から料理がスタート。湯布院の鮎をまるごと1匹使って仕上げた冷製オードブル「湯布院 鮎 胡瓜 日田山椒」や、脂や臭みの少ない宇佐の夏鹿肉をミンチ状にし、炭火で焼き上げた「宇佐 夏鹿 大分産ルバーブ」など、地のものの旨味をフレンチスタイルに昇華した爽やかなひと皿がつづく。
海鮮は「佐賀関黒アワビ 夏野菜 国東バジル」。佐賀関の大ぶりのアワビを6時間かけてやわらかく仕上げ、炭焼きの薫りを纏わせた。そこへパプリカのピューレや、国東産バジルを用いたブールブランソースを合わせ、コクのある仕上がりに。
そしてメインは「おおいた和牛フィレ肉の炭火焼ステーキ」だ。ビール粕などこだわりの飼料で育てた大分県のブランド牛「おおいた豊後牛」の中でも、特に肉質4等級以上の黒毛和牛に限定した「おおいた和牛」。その素材の良さを存分に味わえるよう、地元の竹炭でじっくりと調理している。柔らかな肉質と脂の甘味がふわりと口に広がり、その美味しさに思わず笑みがこぼれる。


ディナーを楽しむなら、「豊後前 霧翠」で鮨会席をいただくのもよい。江戸前ならぬ“豊後前”と称する通り、豊かな海で水揚げされた海鮮はもちろんのこと、山川の幸までも出来うる限り豊後産を使うこだわりで、四季折々の大分の恵みを味わい尽くす。
いまの時季は、竹細工の器に夏をイメージした涼やかな前菜が並び、彩りも美しい。大分県の名産・鱧の焼霜の上には、穏やかな酸味が特徴の豊後梅を酒糟でつけたソースが添えられ、大分県中津でとれた丘若芽はお浸しに。前菜から変化に富んだ地元食材に魅了された。
鮨は見事なまでに、豊後ならではのネタが続く。たとえば江戸時代に建造された日出城の下で育った、肉厚なマコガレイ「城下鰈」。かぼすの風味と日田市のわさびを添え、さっぱりとした味わいに仕上がった。そして夏が旬の高級魚「雉羽太」は脂がのり、強い歯ごたえと上質な白身の甘さが広がる。
そしてブランド魚としてお馴染みの「関鯵」と「関伊佐木」。大分市の佐賀関半島と愛媛県の佐田岬に挟まれた“速吸の瀬戸”と呼ばれるエリアで、佐賀関の漁師が一本釣りしたものだけにこの名が冠される。瀬戸内海と太平洋がぶつかり合う、潮流の激しい豊後水道でとれる魚だけに、筋肉質で身が引き締まり、磯臭さは全くない。そんな食感や鮮度の良さを楽しむのが“豊後前”のスタイルだ。
鮨会席では、ぜひペアリングも楽しみたい。料理に合わせてシャンパーニュやワインが揃えられるが、ここで鮮烈な印象を残したのが、ホテルオリジナル日本酒「無濾過生原酒・風」と「一回火入れ・流」だ。創業200余年の日田市の酒蔵・井上酒造とのコラボレーションによって生まれた日本酒は、ホテルスタッフが幾度となく酒造を訪ね、酒米の田植えや稲刈り、ラベルデザインまで一貫して携わったもの。米本来の豊かな旨味と繊細な香りが響きわたり、この土地とホテルの想いが結実した出来栄えだ。
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プールサイドやスパでのリフレッシュにも、ここならではの魅力が!
食後はプールサイドで夜風に当たりながら、ラグジュアリーリゾートらしい時間を堪能しよう。ライトアップされたナイトプールの傍にはプライベートカバナがあり、シャンパンを手に煌めく夜景を眺めながら、デイタイムとは異なる雰囲気に酔いしれたい。定期的にDJイベントも開かれるので、心地よい音楽に身を任せる機会も見逃せない。
またプールエリアに面したラウンジ「アクア」も、大人の知的好奇心をくすぐるつくり。ライブラリーには数多の書籍が揃い、オーディオ好きには堪らないJBLの幻の名機「パラゴン」が控えめに音楽を奏でている。圧倒的な存在感を漂わせるウッディなスピーカーの上には、韓国人アーティスト・チェ・ソクホの作品が掲げられ、長谷川絢の竹細工など工芸品やアートが並ぶスペースでは、思わず時間を忘れてしまう。
翌朝も湯あみを存分に楽しんだあと、リトリートの仕上げに訪れたのが「ハーン・ヘリテージ・スパ」だ。タイ発のウェルネスブランド「ハーン」のスパの中でも最上級のクラスで、伝統的な東洋医学と自然療法からインスパイアされた施術を受けられる。
日常と癒しの世界を隔てるかのような長いアプローチを抜けると、やわらかな陽射しが差し込むスパが現れる。瓦や網代など日本らしいディテールが落ち着くカウンセリングスペースにて、好みのオイルをセレクトしてから、いざトリートメントルームへ。シングルやダブルなどタイプの異なる5つのトリートメントルームには、大分県の小鹿田焼きのシンクが備えられ、ベッドの上には国東半島だけで生産される七島藺で編んだ、鶴と亀のモチーフが出迎えてくれる。
そんな温かみのある空間で受けたのは、60分間の「ひょうたんDストレスマッサージ」だ。ティンシャの奏でからはじまったトリートメントはどこか厳か。ホテル限定オイル「ICB」の、スイートオレンジやグレープフルーツなどのフレッシュな香りが漂い、リラックスタイムへと誘われていく。檜のひょうたんを身体に押し当て、筋肉深部へのアプローチを行うこの施術では、凝り固まった身体がほぐされ、ぽかぽかと温かい。
トリートメントを終え、リラクゼーションスペースでひと息つきながらふと思う。太古の昔より続く火山活動がもたらした温泉に浸かり、海や大地が育む地のものをいただく。これは別府という土地と人が対峙し、共存してきた大きな循環の中に身を委ね、そこからエネルギーを得ているということだ。そう気づいたのは「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」の随所に、ローカルとともに歩むスタンスが在るからだろう。ここでのステイは、単なるリトリートに留まらない。喧噪から隔絶されたこの場所では、自分の在り方すら考えさせられた。
植田沙羅(エディター&ライター)
出版社にてファッション誌や舞台雑誌の編集を経験後、フリーのエディター&ライターに。ファッション誌やライフスタイル誌を中心に、ファッションやジュエリーから、カルチャー、ホテル、グルメまで幅広く執筆。
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ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ
住所: 大分県別府市大字鉄輪499-18
TEL: 0977-66-10001時間47分
https://anaicbeppu.com/