【写真家・濵本 奏】写真・言葉・音を総動員し、場に宿る「記憶」を掘り起こす

  • 写真:齋藤誠一 
  • 文:山内宏泰
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濵本 奏(はまもと・かなで) ●2000年生まれ。写真やフィールドレコーディングなどさまざまな手法を横断して、人や場所に宿る「記憶」を記録し表現している。25年に個人レーベル「真珠出版」を創設。26年に作品『ー・・』で木村伊兵衛写真賞を受賞。 https://shinju.base.ec

展示と写真集で2025年に発表した作品『ー・・』(チョー タン タン)が、写真界で伝統ある木村伊兵衛写真賞を受賞した。

「賞とは無縁の人生だと思っていたので驚きましたが、作品を広く知ってもらう機会になったのはありがたい。先日、高校生に『バイト代で写真集を買いました』と言われたのはうれしかったです」

受賞作『ー・・』は第二次世界大戦末期、海底から敵を襲うために計画された特攻作戦「伏龍(ふくりゅう)」にまつわる史実が、ベースとなっている。

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2026年、銀座のソニーイメージングギャラリーで開催された第50回木村伊兵衛写真賞受賞記念展示の様子。海洋のブイを配し、波の音も流して、現場の空気を伝えた。

「鎌倉の海岸線をよくドライブしています。ある時、同乗の友人が稲村ヶ崎の横穴を指して『あれって軍事遺構らしいよ』と教えてくれました。気になり調べてみると、特攻部隊『伏龍』に関連したものだとの情報がヒットしました。粗末な潜水器具による訓練で多くの人が亡くなったと知った時、私が日頃友人と遊んでいる波打ち際のすぐ近くに、彼らはいまも潜ったままそこにいるんじゃないかとの感覚に襲われて。これはなにかかたちにして残さなくては、という気持ちが湧きました」

以来、「伏龍」作戦の立案・訓練地だった横須賀に、幾度も足を運ぶようになる。そのつど写真を撮り、その場の音を録り、見たもの考えたことを日記につけた。それらの記録を丹念に集めることで、作品が出来上がっていった。

「『伏龍』の人たちがいた同じ場所に80年後、私もいたという事実を残したかったんです。そのためなら写真、テキスト、音……、使えるものはなんでも使います」

風変わりな作品名は、伏龍の合図から来ている。海中に潜った隊員が海底に着いた際、腰紐を「長・短・短」と引っ張り、海上にいる仲間に到着を知らせたのだ。

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お気に入りの本たち。作品『 — ・・』制作時に読んだ資料や関連書籍だけでなく、谷川俊太郎、石垣りん、吉原幸子らの詩集も好きでよく手にとるという。

『ー・・』は、横浜市民ギャラリーでの展示とともに、7インチレコード付きの書物としてもまとめられた。その際、思い通りのものをつくるため、自ら出版レーベルを立ち上げることにした。

 「写真業界を見渡すと、自由に本を出せる環境や機会が少なくなっています。ならば自分でやるしかないと思い、出版活動を始めました。ゆくゆくはほかの人の本をつくったり、サポートしたりもしていきたい」

表現したいことの内容に応じて、手段や方法はつど考えているが、写真というメディアが中心にあることは変わらない。

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『untitled』(2018年)。生まれた時からデジタルカメラが身の回りにあったが、作品は基本的にフィルムで撮っている。「思った通りに撮れないところが楽しい」という。

「なにかを知りたい、調べたいと思ったり、強く感情をゆさぶられた出来事があった時には、真っ先にカメラを持って外に出ます。私にとっては写真が“第一言語”なんです。撮り始めたのは高校生の時。家で見つけた古い使い捨てカメラを現像してみると、数十年前の両親のデート中の写真が現れました。お花見でお互いを撮り合ったりしていて、すごくいい写真。でも、長い間放置されたことで紫のもやがかった不気味な写真になっていて。そこにフィルムの面白さを感じました。すぐにアナログの一眼レフカメラを買って、絞りやシャッタースピードなどの操作をイチから覚えていきました。最初はうまくいかなくて、なにも撮れていないこともあったんですけど、それもまた面白くて。どんどんハマっていきました」

いま取り組んでいるのは『VANISHING POINT』と題したシリーズだ。

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現在取り組んでいるシリーズをZINEとしてまとめ、2026年に刊行した『VANISHING POINT exhib
itions in liminal zones vol.2』。

「長距離ドライブが趣味で、移動しながらゲリラ展示ができそうな場所をいつも探しています。即興的に屋外に展示をすることで、その場の状況を動かしてみたい。写真を撮るのは自由にできるのに、観せる段になると額装はどうするか、壁面構成はちゃんとできているか、写真が曲がっていないかなど、あれこれ考えねばならないのは、なんとかならないかと以前から思っていて。もっと軽やかにできたらいいなと。撮った写真をその場ですぐ展示できると理想で、そのための方法を模索中です」

濵本作品はますます多角的に進展していきそうだ。

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PICK UP 

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写真集『−・・』(チョー タン タン) 2025年に自身で立ち上げた真珠出版から刊行した写真集。著者も発行者も濵本奏。写真のほか日記などの文章や、横須賀で収録した音源を収めたレコードも収載している。

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PERSONAL QUESTIONS

人生のターニングポイントは?

自分で出版社「真珠出版」を立ち上げた時。いま思えば、なにかを残す人間として生きるぞ、という意気込みをかたちにした瞬間だったと思います。

好きな場所は?

車の中です。夜に由比ヶ浜の辺りを走っていると、大きく深呼吸できます。考えごとをするのも車内が多いし、おもな移動手段でもあるので、車は私の仕事場であるとも言えます。

一番古い記憶は?

2、3歳の時、エビフライの動くおもちゃが怖くて大泣きした記憶があります。その様子が動画に残っているので、それを見たからかもしれません。記憶は不思議で面白いです。

憧れのアーティストは?

ソフィ・カルとボリス・ミハイロフ。どちらも確固たるスタイルがあるのに、その時々でやりたいことをやっています。なににもとらわれていない自由さと軽やかさが好きです。